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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

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596話 魂の一槍

 灼熱の暴風が収まった後。

 シモンズによって放たれた灼熱によって熱された空気が、辺り一面に土埃を舞い上げていた。

 その傍ら。ぱらぱらと降り注ぐ小石を巧みに躱しながら、シモンズは柔和な笑みを浮かべて土煙の中を見つめている。


「フム……やりすぎ(・・・・)てしまったかの」


 のんびりとした口調でボソリと呟きを漏らしながらも、シモンズは次第に薄れていく土煙に視線を注ぎ続けていた。

 シモンズにとって、サキュドの存在はただのオマケだった。

 ふと浮かんだ思い付き。生前に信頼し合った主従が、共に苦しみ、共に苦悩し、共に絶望の底へと墜ちていく様を見てみたい。

 そんな一種の欲だけが、軍団長であるシモンズがサキュドを相手にする理由だ。

 だが……。


「まぁ……よいか……。テミス(メイン)が壊されてしまっては意味がない」


 そう断ずると、シモンズは土煙が晴れ切る前に背を向けると、テミスと相対しているはずのタラウードの元へ向かうべく地面へと降り立った。

 サキュド(付属品)ならば、腕が飛ぼうが足が焼けてようが替わりは効く。そこいらの死体から部品(パーツ)を取って着けてやればいいだけの事だ。

 だが、正真正銘に人間の身で比類なき強さを手に入れたテミスは別だ。事前に釘を刺しておいたとはいえ、あの怒りに呑まれたタラウードがやりすぎない保証は無い。


「おぉ……。それはいかん……ッ!! それだけはいかんッ!! 何としても、何としても、あの素体だけは完品で手に入れねばッ!!」


 シモンズはテミスの身がタラウードの手によって()けるのを思い浮かべると、全身をわななかせて大きく首を振った。

 その動きに併せて、欲望に歪んだ唇の端から跳んだ涎が、パタパタと周囲の地面に降り注ぐ。


「こっ……コッ……こうしちゃおれん!! ()の壁を越える秘密……それを見つけ出せばワシはッ……!! ――ホッ?」


 シモンズが地団太を踏みながら、まるで駄々っ子のような叫びをあげた瞬間。その身体を覆うように、荒々しく渦巻く赤い液体が包み込んだ。


「ッ……ゴホッ……。ブラディー・メイルシュトローム……」


 同時に、間を置かずして。

 掌を翳したサキュドが、土煙の中から咳き込みながら歩み出る。

 その身体のあちこちに火傷や小傷は負っているものの、紅槍を片手に携えたその目は未だ闘志に満ち溢れていた。


「ホゥ……操血術か……」

「ホラ吹きも大概にしなさいな。それとも、爺の妄言かしら? 自称深淵に至りし魔術師(ワイズマン)様? この程度の威力の魔法が、全ての魔術を極めた男の陽炎爆裂魔法ソル・エクスプロージョンとは思えないわね」


 サキュドは皮肉気に唇を歪めて口上を述べながらも、注意深く目を細めてシモンズを捕らえた球体を凝視する。

 陽炎爆裂魔法ソル・エクスプロージョンは、魔力と才能に富み、長い研鑽を積んだ者だけが扱える、たったひとつの魔法で町をも焼き尽くす事ができる超上級魔術だ。それをまさか、死霊術師(ネクロマンサー)風情が、不完全ながらも発動してみせるとは……。


「文字通り、腐っても軍団長……という訳ね……」


 サキュドは頬を伝う冷や汗を感じながら、静かに槍の穂先を持ち上げた。

 だが、いかに軍団長といえどこれで決着だ。

 シモンズは既に、サキュドのブラッディー・メイルシュトロームの内に捕らえている。

 未だその内から、足元の激流に身体をねじ切られ、削り取られる悲鳴が聞こえて来ないのは、小賢しくも飛行魔法で浮遊しているからだろう。

 普段なら、このまま血の激流で出来た檻を閉じて潰し殺してやるところだけれど、今回の相手は軍団長だ。念には念を入れる必要がある。


「アンタみたいなヒヒジジイには過ぎた技よ。さっさと消し飛びなさいッ!!」


 サキュドは血液の牢獄に囚われたシモンズへ向けて、吐き捨てるように怒鳴ると、左手を血球に翳したまま、右手に構えた槍に魔力を集中し始める。

 すると、収束した魔力は次第にバチバチと音を立て始め、高々と振りかぶるように構えた紅槍から、大きな紫電となって迸った。

 この身下げ果てた畜生は、死体の一片たりともこの世に残してはいけない。

 そう直感したサキュドは、己が持つ最強の一撃を以て勝負を決すると決めたのだ。


「ホホホッ! 大した魔力じゃ。じゃが、お主はまた勘違いをしておる」

「……。黙れ。もう何も喋るなッ!!」


 ぎしり。と。

 固く歯を食いしばったサキュドの唇が静かに言葉を紡ぐと同時に、僅かに吊り上げられた口角の端からごぼりと血が滴った。

 この大技は、日に何度も打てるような代物ではない。サキュドの魔力を極限まで練り上げ、際限なく詰め込んだ一撃なのだ。故に、ロンヴァルディアとの長い戦いを潜り抜けたサキュド身体に、相当な負担をかけるのは自明の理だった。


 ――だがそれでも。為さねばならない事がある。

 そんなサキュドの覚悟を表すかのように、槍へと注がれ、バチバチと弾ける魔力が極限まで高まり、迸る紫電が周囲の地面を抉り飛ばす。

 それは他でもない、槍に込められた魔力が臨界に達した証だった。


「……我等が正義を阻む悪を穿てッ!! 神穿つ紅のロンギヌスッッ!!!」


 猛る思いをも咆哮に乗せ、サキュドは全霊を込めて紫電を纏った紅槍を、血球の牢獄へ捕らえたシモンズへ放ったのだった。

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