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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

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594話 翻る紅槍

 一方その頃。

 テミスと共に魔王軍の迎撃へ向かったサキュドは、ファント侵攻を目論む軍団長の一人であるシモンズと対峙していた。


「ホッホ……。たかが副官風情が軍団長(ワシ)の前に立つとは……。些か躾がなっておらんの?」

「フン……。元からアンタは目障りだったのよ。陰気なジジイがこそこそと蠢いてるのはね」

「ヒョホホ……。口の躾がなっとらんのまで主と同様か。ホレ……」


 柔和な笑みを浮かべて軽口を叩くシモンズにサキュドは憎まれ口を返した。しかし、シモンズはサキュドの言葉を一笑に伏すと、左手を突き出してひらひらと動かして見せる。


「……何よ?」

「全く……お前の主は部下に礼節も教えておらんのかぇ……? 握手じゃよ握手。決闘の前の常識じゃろうて」

「…………」


 眉を顰めたサキュドに、シモンズが大きくため息を吐いて首を振って見せる。すると、サキュドは一瞬の戸惑いを見せるも、それに応じるかのようにゆっくりとシモンズへ歩み寄る。


 ――ホホッ。主と違って素直なものよ。


 その姿を見て、シモンズは突き出した左手に術式を展開しながら、心の中でほくそ笑んだ。

 この小娘にとって、この戦いは魔族の誇りを懸けた決闘なのじゃろう。

 そもそも、軍団長と副官の間には隔絶した実力の差があるのだ。故に。いわばこの戦いは、自らの命を投げ打って時間稼ぎに出た小娘(サキュド)への餞。そう思っておるはずじゃ。


「ンホホ……」


 クスリ。と。

 神妙な表情で歩み寄ってくるサキュドに、シモンズは思わず口の端から笑いを零した。

 サキュドにとっては決闘でも、シモンズにとってこの戦いは、テミスという最高の素材を入手する前の、暇つぶし以下の雑事に過ぎない。

 だがそれ以前に、このシモンズという男は、これまで生きてきた永い生涯の間で、決闘などという行為は一度もしたことが無かった。

 むしろ、自らの身を危険に晒してまで誇りを優先する行いを、愚行だと嘲笑してきた男なのだ。


「ホラ。さっさとしなさいよ。気色悪い」

「っ……。ヒョヒョ。おぉ……それでは……」


 言葉と共に、耐え切れずに零れ出る笑みを俯いて隠すシモンズの視界に、サキュドの左手が差し出される。

 その、無警戒に差し出された手に、シモンズはニンマリと口角を吊り上げると、術式を用意した左手でゆっくりと迎えた。


 ――いっその事、意識を残したまま操って、(テミス)と殺し合わせても面白いかもしれんのぅ。


 シモンズは、ふと脳裏に浮かんだ思い付きに愉悦の笑みを浮かべ、サキュドに術式を行使すべく差し出された左手を掴む。


「――ヒョ?」


 しかし、その直後。醜悪な笑みを浮かべていたシモンズの首が不思議そうに傾げられた。

 しっかりと、その白魚のように細い手を掴んだはずのシモンズの手が感じ取ったのは、とても固くて細い棒のような感触だった。

 さらに付け加えるのならば、行使したはずの術式が発動した感覚もない。


「アンタ……馬ッ鹿じゃないの?」

「ホ?」


 そこではじめて、シモンズは顔中に広がったを納めて視線を上げる。

 直後。開けた視界でシモンズが握っていたのは、差し出されたサキュドの手を再議るように突き出された、煌々と紅の燐光を漂わせる一本の槍の柄だった。


「誰がアンタみたいな薄汚いジジイの握手に応じるかっての!! 死霊術師(ネクロマンサー)に触れるのが自殺行為だなんてのは、常識中の常識よッ!!」


 罵倒と共に、サキュドはシモンズに掴ませた紅の槍を目の前の強引に捻ってシモンズへと叩き込む。


「ヒョッ……!! 全く……危ないのぉ……それに礼儀もなっておらん」

「ハッ……何が礼儀よ。それにこれは決闘じゃない。目の前の敵は殺す……それだけよ」

「然り。残念じゃ……お主がもう少し阿呆ならば、面白い余興ができたというのに」

「チッ……。不意打ちに騙し打ち……見た目通りの薄汚いジジイの癖にヤケにすばしこいわね……」

「ホホホホッ……こんなナリでもワシは軍団長じゃ……。戦えぬ訳が無かろう?」


 しかし、シモンズはまるで舞い落ちる木の葉のような軽い動きで、次々と突き出されるサキュドの槍を全て躱すと、カラカラと笑い声をあげながら、サキュドから少し離れた地面の上へと音も無く着地する。


「フフッ……。そう来なくっちゃ。アンタみたいにヒヒジジイ、しっかり地獄へ叩き込んであげる」

「ヒョホホホホッ!! 若さとは蛮勇よのぅ。そうじゃ……せっかくじゃし、主従を揃えてやるのも一興じゃのぅ……」


 不敵な笑みを湛えたサキュドが槍を構え直すと、シモンズはその穂先を柔和な笑みで眺めた後、ニンマリと頬を吊り上げてサキュドの全身を睨め回したのだった。

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