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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

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593話 静かなる策略


 同時刻。ラズール・第五軍団執務室。

 そこでは、眉根に皺を寄せ、いつになく厳しい表情をしたルギウスが、黙りこくったまま彫像のように微動だにせず、自らの席に座っていた。


「まだか……まだなのかッ……!!」

「っ…………」


 ルカとの口論を終えた後、ルギウスは自らが最も信頼を置く部下であるシャーロットに一つの指令を放ち、ただその時(・・・)を静かに待ち続けていた。

 その指令とは、偵察任務だった。ただし、現在第五軍団の擁する斥候部隊に出している通常の偵察任務とは異なり、ロンヴァルディアとファントが戦火を交える東側ではなくその逆側……ファントから魔王領へと通づる街道が標的だった。


「……なぁ、ルギウス。お前が何かを企んでいる事など私にもわかる。だからそうだんまりを決め込んでいないで、私にも教えてくれないか?」

「…………。簡単な事さ。僕はまだ、諦めていない(・・・・・・)だけだ」

「ハァ……。だからその内容を――ッ!!」

「…………」


 その傍らで、壁に背を預けて黙していたルカが口を開くと、ルギウスはただ一言だけそう答えると、静かな瞳でルカを見つめる。

 冷たい返答を返したルギウスに、ルカは大きなため息と共に言葉を紡ぎかけ、一つの直感に言葉を詰まらせた。

 そうだ、ルギウスはシャーロットに指令を出した後、一切何も言葉を発していない。否、それだけではない。今こうしてようやく口を利いたと思えば、まるで何かを見透かそうとするかのように私の目を見続けている。


「まさか……お前、私を疑っているのか(・・・・・・・・・)?」

「あぁ……」


 驚きに目を見開いて問いかけたルカに、ルギウスは驚く程に静かな声で頷くと、その目を鋭く細めてルカから視線を外す。

 その氷のように冷たい表情はまるで、ルカの存在を敵として認識し直したかのようだった。


「――っ!! 待ってくれ!! 何故私を疑うっ!? テミスを助けようとするお前を止めたからか? だがあれは――」

「――解っているさ。ルカ、さっきの君の言葉に偽りは無い。けれどそれ故に、僕は君を疑う必要がある」

「なっ……」


 叫ぶように抗弁の声をあげたルカを制すると、ルギウスは絶句する彼女を無視したまま、まるで一切の感情が消え失せたかのよう冷たく、平坦な声で言葉を続ける。


「彼女も……テミス(・・・)もこんな気持ちだったのだろうね。彼女にとって清濁を併せた魔王軍の中で、あの眩しいばかりに輝かしい正義を貫くのは……。なるほど確かに……親し気に、そして親身に近付いてくる者ほど怪しく見える」

「何を……言って……」


 ガタリ。と。

 腰を落ち着けていた椅子を立ち、言葉と共に歩み寄るルギウスに、ルカは思わず後ずさりをして、再び壁に背を預ける。

 しかし、それでも尚ルギウスが足を止める事は無く、ルカの身体を壁へ押し付けて、互いの息遣いが聞こえるほど間近まで顔を寄せた。


「……僕が今(・・・)企んでいるのは(・・・・・・・)そういう事だ(・・・・・・)。君にできる事はただ一つ。ここで何もせず、黙って見ている事だけだ」


 そして、ルギウスはまるで一昔前のテミスのような口ぶりでそう告げると、ルカから身体を離してその身を翻す。

 瞬間。

 ガクガクと震える膝に必死で力を込めながら、ルカは朧気ながらルギウスの野郎としている事を理解した。

 それは恐らく、恐ろしい程に小さな可能性なのだろう。たった一瞬のチャンスすら逃す事の適わない一種の賭け。

 それ故に、ルギウスは不確定要素である自分を排除したのだ。

 だが同時にその余裕の無さは、それだけその策が彼一人の手には余っている事を物語っていた。


「わかった。ならば……」

「っ……!? 何を……!」


 ゆっくりと離れていくルギウスの背に、ルカは静かに言葉を紡ぐと、一つの術式を展開して膝を付く。

 ルカの動きに反応したルギウスが声をあげかけるが、それが言葉となって放たれる前にルカの唇が静かに動く。


「言霊は楔となりて魂を縛り、誓いを破りし者に鉄槌を下さん……私は誓おう。ルギウス……お前が今企てている企みに協力すると。その企みを阻害する事無く、手となり足となって働く事をッ!!」

「――っ!!!」


 ルカが紡いだ詠唱と共に、ルギウスの手首に浮き出た魔法陣から黒い鎖が伸び、ルカの身体に巻きついていく。

 その呪詛の事を、ルギウスはよく知っている。この術式はいつの日か、ルギウス自身がテミスと交わした契約呪そのものだった。

 しかし、交わした契約内容はあの日のルギウスのものとは比較にならない程のものだ。何故なら事実上、ルギウスが今立てている企みという限定条件下ではあるものの、第六軍団が第五軍団の軍門に下ったのだ。


「君は……」

「我が身の疑いは私自身の手で晴らそう。これもひとえに、私の希う理想とお前が抱く希望が同じものだと信じたからだ。企みを……聞かせてくれるな?」

「ハァ……全く……」


 互いに巻き付いた鎖が消え失せると、ルギウスの足元に跪いていたルカが不敵な笑みを浮かべてルギウスを見上げる。

 その目は確かに、ルギウスへ自らの期待を裏切ってくれるなよ? と語り掛けていた。


「……いいかい?」

「ルギウス様ッ……!! 魔王軍が動きましたッ!!」

「ッ――!! きたかッ!!!」


 そんなルカに、苦笑を浮かべたルギウスが口を開きかけた時。

 血相を変えて執務室へ駈け込んで来たシャーロットの報告に、ルギウスが鋭く声をあげる。


「ルカ! 説明は道中でする! 僕達も行くぞッ!!」

「……っ!! 了解だ!」


 言葉少なにただそれだけを告げて駆け出すルギウスに、ルカはコクリと頷くと執務室から脱兎のごとく飛び出していくその背を追ったのだった。

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