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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第12章

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586話 二人の剣姫


 圧倒的な数で攻め立てるロンヴァルディアに対し、少数ながらも精鋭揃いの連合部隊で迎え撃ったファント。激化の一途を辿るその戦いは収まる事を知らず、夜の帳が落ちた空に月が高々と昇った後も、両軍から打ち上げられた光が照らす下で続けられていた。


「ハァッ……!!!」

「邪魔……だァッ!!」


 両軍が激突するその中央。

 まさに破竹の勢いで突き進む戦線の先頭では、テミスとフリーディアが肩を並べて剣を振るっていた。


「ハァッ……ハァッ……!! まだ……来るのかッ……!!」


 空気を断ち切る鈍い音と共に、敵の騎士を両断したテミスが、頬の汗を拭って言葉を漏らす。

 戦いを始めてからもう何時間経ったかもわからない。時間の感覚はとうの昔に溶け消え、耐え難い疲労感がテミスの全身を蝕んでいた。

 幸いな事にユーゴ達を退けて以降、強者と呼べる者とは相見えてはいないが、次から次へと襲い来る敵兵を退け続けるのにも限界があった。


「フフッ……どうしたの? テミス、そんなに辛そうな顔をして……もしかして、もうバテちゃったのかしら?」

「ほざけ。お前こそ、足元がふらついているではないか」

「私が? それは見間違いね。私はまだまだ戦えます」


 そんなテミスを挑発するように、少し駆け寄ったフリーディアが意地の悪い笑みと共に言葉をかける。

 しかし、そう言うフリーディアも、精緻だった構えは酷く乱れており、重力に耐え忍ぶように前傾した姿勢が、彼女の体力も限界が近い事を雄弁に語っていた。


「ようやく隙を見せたかッ!!」

「終わりだッ!!!」

「――っ!」

「しまっ……!!」


 言葉を交えたテミスとフリーディアが、互いに顔を見合わせて微笑みを交わした瞬間。

 僅かに意識が逸れた事を鋭敏に知覚したロンヴァルディアの騎士が、一斉にテミスとフリーディアに目掛けて襲いかかる。


「チィ……」


 だが、目を見開いて驚きを露わにしたのも束の間。

 瞬時に思考を切り替えたテミスは、繰り出される攻撃を打ち払うべく大剣を薙いだ。

 同時に、冷静さを取り戻した思考は加速し、いかにしてこの攻撃を捌くべきかに集中する。


 ――対応すべき攻撃は八つ。正面から斬り下ろす二人と、ワンテンポ遅れて左右を固める二人。そして、次の太刀として更に後ろで槍を構える四人。

 このまま大剣で薙ぎ払えば、前方の四人は始末できるだろう。だがその後、完全に無防備な状態で四本の槍を受ける事になってしまう。


「……止むを得ん」


 ボソリ。と。

 須臾の間に、この場を無傷で切り抜けることが不可能だと判断したテミスは、大剣を薙ぐ手を途中で止め、正面の二人の騎士が剣を振り下ろす元へその身を躍らせた。

 その場所こそ、二本の剣は受ける事になるものの、他の敵兵の攻撃は躱す事ができ、かつ次の反撃で全ての敵を大剣の射程に捉える事のできる位置だった。


「――っ!! 悪あがきをッ!!」

「だが、討ち取った――ッ!!」

「っ…………!!!」


 剣を振り下ろす騎士達の表情が一瞬歪むも、己の剣が一直線にテミスへと吸い込まれていくのを見て、勝利を確信した騎士達は口角を吊り上げる。

 そして、刃の元へ身を躍らせたテミスは、直後に襲い来るであろう痛みを堪えるべく、ぎしりと固く歯を食いしばった。

 だが……。


「ぐあッ……!!」

「ぎゃぁッ!!」


 覚悟していた鋭い痛みがテミスの身に降りかかる事は無く、その代わりとばかりに、襲い掛かってきていた騎士達が、揃って断末魔の悲鳴と共に倒れ伏していく。


「……ご無事ですか? テミス様」

「フン……アンタ達みたいなゴミが束になった所で、テミス様に剣が届く訳が無いでしょ」


 自身に満ちた二つ声にテミスが振り返るとそこには、槍と太刀を振り切った格好で微笑む、マグヌスとサキュドの姿があった。


「……すまない二人共。助かった」

「ハッ……。雑兵かと思えば、そこそこ腕の立つ連中もたまに紛れております。ご注意を」

「まぁ? テミス様の背中は私達が守っているから、別に問題は無いですけどね?」


 テミスの言葉に、二人はそれぞれに笑みを浮かべた後、誇らし気な言葉と共に、背を向けたテミスへ襲い掛かる兵士達を切り払う。


「っ……!! そうだ。フリーディアはッ……!!」


 あいつの方にも、少なくない数の敵兵が向かっていた筈……!!

 窮地を脱したのも束の間。テミスは、つい先ほどまで言葉を交わしていたフリーディアの姿を求めて、傍らへと視線を向ける。


「……ごめんなさい。助かったわ。リック、カルヴァス」

「いえ。それよりも一度、退がられた方が……」

「大丈夫よ。まだやれるわ」

「っ……!! 俺がお守りします!」


 そこでは、フリーディアが白翼の騎士達に手を差し伸べられ、柔らかな微笑みを浮かべて立ち上がっていた。


「フッ……。私達が二人揃ってコレ(・・)では形無しだな……」


 ボソリ。と。

 その姿に、テミスは皮肉気に呟きを漏らした後、大きく息を吐いて再び前へと目を向けたのだった。

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