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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第2章

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49話 道化師の追及

 ゆらゆらと揺らめく蝋燭の明かりが、3つの影を不気味に照らし出していた。


「しかし……まさかテミス殿がこういったご趣味をお持ちとは思いませんでしたよ」

「ハッ……ならばその節穴な選客眼を鍛え直してくるべきではないか?」

「ハハッ。まっこと……まっことお言葉の通りでございます」


 長い廊下を進む途中も、支配人はこうして私に無駄な話を振っては動揺を誘っていた。おおかた、私が人間である事が気に入らないのだろうが……。


「ところでだがな、支配人」


 先頭を歩いていたテミスの纏う雰囲気が静かに変わり、最後尾のマグヌスが少しだけ距離を取った。


「はいっ! 何でしょうか? この施設の歴史でしょうか? それとも、我らが捉えている奴隷の質でしょうか?」


 そんなテミスに露ほども気づかずに、支配人はテミスの側にドスドスと駆け寄ると、意地の悪い笑みを浮かべながら問いかける。


「……第二軍団では上官への口の利き方も教えんらしいな」

「へっ?」


 近くまで来てやっと、テミスの纏う雰囲気の変化に気が付いたのか、支配人のうらがえった声が廊下に反響した。


「先程から貴様は、私の事をテミス殿テミス殿と呼んでいるが……いつからお前は他軍団の軍団長をそんな風に呼べるほど偉くなったんだ?」

「っ…………」


 立ち止まったテミスの背の間近で、支配人のパンパンに膨らんだ腹が停止する。その気色の悪い体温を微かに感じながらテミスは、元の世界であれば完全に通報されかねない絵だ。などと一人空想に頭を飛ばしていた。


「で? どうした? 弁解も無く黙り込むなど、私の好きにしても良いのだな?」


 数歩前へ進んだテミスが、ため息と共に支配人を振り返る。同時に、その大玉のような肉体の向こう側で、腰の剣へ手を添えたマグヌスと目が合うが首を振って制止する。


「……私はねぇ。まだアンタを軍団長だと認めた訳じゃァ無いんですよ」


 顔を伏せたまま、媚びをかなぐり捨てた低い声で支配人が口を開いた。


「人間のアンタが急に軍団長なんて地位に就いて……ハイそうですかって納得できる魔族なんて居やしない。現に、アンタの副官もイロイロと溜まっているようだぜ?」

「フム……そうなのか? マグヌス」

「いやっ……私は――!」


 支配人の肩越しにマグヌスの方へと視線を向けると、狼狽えたマグヌスが両手と首を横に振っていた。


「この際だ。言っちまいな。人間のオメェがバルド様の後任なんて我慢ならんってな」

「っ……!」


 下卑た笑みを浮かべながら、支配人はマグヌスの方へと顔を向ける。


「だからココへ来たんだろう? そうだよなぁ……忠に厚かったアンタの事だ……納得できるわけが――」

「黙れッ!!」


 ねっとりとした言葉と共にマグヌスに近付いていた支配人の足が、行動をも震わせる一喝と共にピタリと止まる。


「例え……どんな事情があろうと、貴様がバルド様の事を語るのは許さん」

「っ……」

「あの方は真の武人であり、真の漢だった。貴様のような――」

「そこまでだ。マグヌス」


 目に光を湛えたマグヌスの手が、剣へと伸びる前にその言葉を切って制止する。ここは腐っても魔王軍の施設なのだ、まずは敵の指揮系統を崩さねば攻略は難しい。故に、ここで暴れられては作戦行動に支障が出る。


「ッ……テミス……様……」

「部下が失礼したな? だがまぁ、問題あるまい? 貴様は第二軍団だが副官では無いのだからな」


 薄い笑みを浮かべたテミスが支配人に告げると、その片手が閃いて支配人の死角からマグヌスにジェスチャーを送る。それは酷く下品な手つきで、支配人の首筋に向けられていた。


「ブフッ……申し訳……ありません」

「………………」


 笑いをこらえながらも、マグヌスはまるで猛省しているかのように頭を下げた。いや、奴の事だから、作戦行動の前に私情に駆られ、本当に猛省しているやもしれんな。


「貴様もだ、支配人。貴様の胸の内がどうであれ、私を軍団長に任命したのは魔王ギルティア殿だ。かの決定に異を唱えるのならば私に苦言を呈するのは筋違いだと思うがな」

「ぐっ……く……」


 もはや憎しみすら感じられるほどに血走った支配人の小さな目が、射殺さんばかりにテミスを睨みつける。ぎしぎしと歯が軋む音や、肌が白くなるほど固く握られた拳からは、彼の並々ならぬ人間への憎しみが感じられた。


「フン……下らん」


 その拳を一瞥して尚、テミスは支配人に向かって冷たく言い放った。


「人間を憎むのは勝手だが、それで私と言う個人まで憎まれては適わん。だから貴様に証明してやろう。刻み込んでやろう。我が正義が何処にあるのかをな」


 目を剥いたテミスが狂気すら感じさせるほどの笑顔でそう告げると、支配人の埋もれた喉がゴクリと唾を呑み込んだ。非常に下らない時間だったが、これだけ時間を置けば部隊の連中もある程度詳しい情報を集める事ができただろう。


「……どのような店であろうと、あまり客を待たせるのは関心できる事では無いがな?」

「……ハハッ! これはとんだご無礼を致しました。そのまま奥でございます」


 ニヤリと笑みを浮かべたテミスがそう告げると、元の調子に戻った支配人が一行を奥へと促す。

 その光景を、一対の赤い双眸が廊下の脇に設えられた小さな小部屋から覗いていたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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