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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第11章

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497話 遠き背を求めて

 ファントの町の軍団詰所。

 十三軍団が詰めているこの建物の一室。

 執務室として使われているその部屋には、言い知れぬ緊張感に満ちていた。


「……そう言って、私はテミス様にこれを託されたわ」


 ゴトリ。と。

 サキュドはミコトと共に語ったこれまでの経緯をそう締めくくると、まるで宝物でも取り扱うような手つきで、懐から一丁の拳銃を最奥の机……この銃の持ち主であるテミスの机の上に置いた。


「っ……!! これ……は……ッッ!!!」

「そう。貴方ならばわかるはずよね。マグヌス。貴方とアタシなら、これがテミス様の手から離れる意味が」

「ムゥッ……ウム……」


 目を見開いて驚愕を露わにしたマグヌスを見据え、サキュドは静かにそう問いかけた。

 その姿は毅然としたもので、普段のおちゃらけた彼女は完全になりを潜めている。


「あの……それってどういう……?」

「……悪いけど。ここから先は、席を外してくれるかしら? 実際に、テミス様があなたの前で使われたから出したけれど、それ以上を教える権利は私には無いわ」

「っ……! そう……ですか……」


 きっぱりとそう言い切ったサキュドに対し、ミコトは小さく頷くとチラリと目線を机の上に置かれた銃へと向ける。

 詳しい事はわからないが、あの銃がテミスの切り札なのであることはミコトも理解していた。そしてその造りが、自らの腰に提げる武器(ガンブレード)とは根本的に異なる事も。

 魔法の触媒として扱われるガンブレードに対し、この『銃』は仔細こそ異なれど、その在り方は完全な形で『拳銃』なのだ。だからこそ、異世界の技術であるこの一品を、無暗に広めるべきではないという方針には、ミコト自身も賛成だった。


「わかりました。もちろん僕も、これの存在は口外しないと約束します」

「…………」

「っ……」

「それでは、ひとまず僕は部屋に戻ります。また後程」


 そう言い残して、素直に執務室を立ち去るミコトの背を、マグヌスとサキュドは懐疑の視線を向けて見送っていた。


「……サキュド」

「今、それを論じる権利は私達には無いわ」

「っ……ウム……」


 重苦しい沈黙が室内を支配し、自然と二人の視線が机に置かれた銃へと集まる。

 この目の前に置かれている小さな鉄の塊が、超強力な武器であることを二人はよく理解していた。だからこそ使い方こそわからないものの、この武器を自らが扱えば、テミスを救い出す事ができるのではないかという希望も湧いてくる。

 だが……。


「主命を果たすのは、テミス様の死が確認できた時だけ。それまでは、私が責任を持ってお預かりするわ」


 まるで祈りを捧げるように、サキュドは銃へ向けていた目を瞑って軽く俯くと、静かな口調で口を開いた。


「ウム。それが良かろう。お前がお預かりしたのだ……ならばお前が、その手でテミス様にお返しするべきだ」

「えぇ……」


 その言葉に、力強くマグヌスが頷くと、サキュドはコクリと頷いて銃へと手を伸ばす。

 そして、再び恭しい手つきで手に取ると、ゆっくりと自らの懐へしまい込んだ。


「だが……これからどう動く? テミス様がお前にそれを託されたという事はつまり……」

「そう……。これはあの方の秘中の秘。最後の切り札を私に預けられたという事は即ち……あの時、テミス様はご自分が犠牲になる可能性も視野に入れられていた」


 その強大な威力を知るが故に、サキュドとマグヌスはそれを託された意味を正しく理解して黙り込む。

 最強の兵器とは、それがこちらの手の内に在れば心強いことこの上ないが、敵の手に渡った瞬間、一転して最悪の兵器へと姿を変える。

 だからこそ、テミスは自らの最大の切り札であるはずのこの武器を、サキュドへと託して戦いへ赴いたのだ。


「つまり……今回の敵は……」

「そうよ。テミス様と同じ(・・)か、それ以上の存在よ」


 ゴクリ……と。

 再び沈黙に閉ざされた室内に、生唾を飲み下す音が木霊する。

 無論。二人とて恐怖はある。だが、いかに相手の力が強大であっても、主であるテミスを見棄てて逃げるという選択肢は、二人の思考には存在しなかった。

 しかし、例えこの町に駐留する十三軍団の総力をかき集めても、テミスを救い出すには戦力不足だとサキュドは確信していた。


「ッ……ルギウス様に……。助力を求めましょう」

「待てサキュド! 流石にそれは……」


 長い沈黙の後、眉根を寄せ、爪を齧りながら出したサキュドの決断にマグヌスは異を唱えた。

 軍団長が敵の手に落ちた事を外へ漏らすのですら問題だというのに、よもやそれを救い出す為の助力を他軍団へ求めるなど、常識外れも良い所だった。

 確かに、十三軍団と第五軍団は良好な関係ではあるが、今かの軍団に助力を乞う行為は、弱みどころか急所をさらけ出す事に他ならない。


「私がテミス様なら……そうするわ……!!」

「――っ!!」


 しかし、絞り出すようなサキュドの声と、苦悩と覚悟に満ちたその瞳にマグヌスは気圧されて息を呑んだ。

 額には汗がにじみ、サキュドが必死で考え抜いたであろうことが、マグヌスには痛いほど理解できたのだ。


「テミス様はいつだって、アタシ達じゃ思い付きすらしないような手段で窮地を切り抜けてきた。アタシにだって、これが正解だって確信は無い……けれどッ……!」

「……見事な忠義だ。今初めて、お前の忠義を見事だと思った」


 ギリギリと歯を食いしばって言葉を紡ぐサキュドに、マグヌスは胸を張って唐突に告げた。

 そして、大きく息を吸い込むと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて言葉を続ける。


「だが、私も負けてられん。打てる手を全て打つぞ。あの方の一番近くに居た我々だ。テミス様には及ばずとも、我等の力を合わせて一歩でもあのお方へ近付こう」


 そう宣言しながら、マグヌスはテミスの机を漁って一枚の地図を引っ張り出すと、バサリとテミスの机の上へと広げたのだった。

2020/12/16 サブタイトルを変更しました

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