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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第11章

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483話 肉を打ち、皮を裂く

「ごうッ……ガハッ……!!」


 ドスン。バシン。と。

 薄暗い地下牢の中に、肉を殴りつける鈍い音と、微かなうめき声が響き渡る。


「カハハハッ!! なぁッ! 気分はッ! どうよッ!!」

「ブッ……グッ……ゴホッ……」


 ヤマト王宮の地下に設えられた牢獄。

 その最深部では、大罪人と目される一人の少女が、苛烈極まる責め苦を受けていた。


「オラ……何とか言えよ? アァ?」

「っ……」


 獄吏らしき男は殴打する手を止めると、壁に貼り付けにされた少女の頬を鷲掴みにして持ち上げる。

 一方で、少女は為されるがままに脱力しており、辛うじて荒い呼吸を繰り返す事が精いっぱいといった様相だった。


「剣が無けりゃ何もできねぇ……。素直にそのままアーサー様に遣えとけば良かったものを……ナァッ!?」

「っ~~~!!!」


 獄吏は侮蔑の言葉と共に掴んだ顔を投げ捨てると、おもむろに腰の鞭へと手を伸ばして少女へと叩き付ける。

 拷問用に調整された鞭は剣を思わせる甲高い風切り音を奏で、パシィンッ! という派手な音と共に、少女の肌をその身に纏った最早服というよりも、ボロ布と形容するのが正しい程に傷付き破れた、服の残骸と共に浅く切り裂いた。


「なぁ……? テ・ミ・スちゃぁん? 気ィ強ぇえのは俺も嬉しいが、そろそろ素直ンったらどうよ?」

「ハッ……」


 獄吏は、石造りの床を手にした鞭で軽く打ち付けると、額の汗を拭いながら囚人へと声をかける。

 すると、それまではただうめき声と息を吐くだけだった少女が、弱々しいながらも皮肉気な笑みを浮かべて口を開いた。


「囀るなよ……下種め。こうして……拘束して抵抗できない相手にしか粋がれんゴミが。さっさとその鞭で首でも吊った方が世の為だぞ」

「ヘェ~~……っ!」


 ゼイゼイと息を吐きながらも、テミスが憎まれ口を返すと、獄吏はニタリと邪悪な笑みを浮かべ、無言でテミスへと打ち付けた。


「ッ……!! 痛ゥ……」

「クヒヒヒヒハハハハッ!! テミスちゃんさぁ……お前マゾだろ? さてはこうして鞭で打たれて、殴られて悦んでやがんな?」

「クク……ならば、どうする? お前も(・・・)食い千切られたいか?」

「……。チッ……!!」


 パギャッ。と。

 歪んだ笑みで罵った自らの言葉を皮肉で返され、獄吏は腹立たし気にその頬へ拳を叩き込んだ。

 無論。抵抗する術のないテミスは打ちのめされるがままだが、その顔には邪悪な笑みが浮かんでいる。


「……テメェは今日もメシ抜きだ。せいぜい今のうちに、泣きながら腰振って媚び売る練習でもしておくんだな……。テメェ等、後始末しとけ」


 そして、吐き捨てるようにそう言い残し、苛立ちを叩き付けるように派手な音を立てながら鉄格子を閉じると、足音を響かせて廊下の向こうへと立ち去って行く。


「クハッ……雑魚め……」


 テミスはチャラリ……。と僅かに鎖を鳴らしながら吐き捨て、ようやく全身に込めていた力を緩めて崩れ落ちる。

 崩れ落ちる……と言っても、囚人を立たせる為に、壁面に打ち付けられた手枷が床にすら座る事を許さないため、中途半端な位置でぶら下がる格好になるのだが。


 アーサーとの戦いに敗れてから数日……若しくは、既に数週間は経っているのかもしれない。

 何しろ、目が覚めた時には既にこの地下牢の中だったのだ。ここに放り込まれるまでにどれ程の時間が経ったのか、意識を取り戻すまでに何日かかったのか……そして、こうして何を問いかける訳でもなく嬲られ始めてからどれくらい経つのか。それを推し量る術は私には無い。


「だがまあ……殺されるよりはマシ……か……」


 テミスは壁にぶら下がった状態のまま、地下牢の闇を見上げてボソリと呟きを漏らす。体中を殴られ、蹴られ、鞭で裂かれ、熱を持った身体に、時折当たる冷えた石畳の感触が心地いい。

 それにしても、アーサーの言動から、即座に殺されるセンは薄いと思ってはいたが……。


「ンククッ……。とてもではないが、仲間(・・)への対応ではないわな……」


 要するに、そう言う事なのだろう。

 御するに難いと断じたアーサーは、私を屈服させることで自らの陣営へと加えようとしている……と言った所か。

 だとしたら、無駄な事だ。全身の骨を折り砕かれ、一度は死をも体験したこの私が、この程度の生温い痛みに屈する道理が無い。


「…………。ハァ……そろそろか?」


 テミスはしばらく岩壁の冷たさと、ゆらゆらと揺れるブランコのような状況を楽しむと、耳をそばだてて小さく呟く。

 数回前。奴は小癪な事に、帰ったと見せかけて側で潜み、彼女たちにも痛い思いをさせてしまったが……。


「フム……大丈夫そうだな。すまない……今日も頼む」


 聞き耳を立て、気配を探るが、この地下牢区画に獄吏の気配は無い。

 ならば……と、テミスは足に力を込めて立ち上がると、房の片隅に広がる暗がりへと優しく声をかけたのだった。

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