幕間 暗躍する者達
幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。
主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。
「あ~あ~……仕方ねぇなぁ……ったく……なんか知らん顔も増えてるしよ……」
朝日の中、デュオニーズを出立していくテミス達の背を見送りながら、ルードは大きな欠伸と共に呟きを漏らした。
昨晩はテミスを侍らしていたのもあり、柄にも無く飲み過ぎたせいで酷い頭痛と吐き気がルードを襲っていた。
「弱くなったねぇ……俺も……」
傍らの木にもたれ掛かりながらひとりごちり、ルードは眼前に差し出した拳を開閉させる。
昔なら、酒なんかで酔っぱらう事なんざ一度も無かったのだが。
「けども、今回ばかりはちっと無茶だぜ……」
スゥッ……。と。
ルードは既に見えなくなったテミスの背へと言葉を漏らすと、眼光鋭くその目を細めた。
いくら彼女自身が強くても、あの町は単騎の力でどうにかなるものではない。
その事は、ルード自身が身を以て知っていた。
「行くのか? ルード」
「あぁ……しゃーねーわな」
ルードは馬の嘶きと共に背後からかけられた声に、振り向く事無く言葉を返す。
そこには、昨晩テミスとルードに酒を出していた店の店主が、一頭の馬を連れて穏やかな笑みで立っていた。
「フフ……懐かしいな。このやり取りも」
「そうだな……だが、老兵は静かに去るって訳にもいかねぇだろ?」
「クク……Sランク冒険者様が言うに事欠いて老兵だって? 他の連中が聞いたらひっくり返るだろうな」
「老兵だよ……少なくとも、もう昔みたいにゃ戦えねぇ。酒にも弱くなった。要はこの俺も、もういい年こいたオッサンだって事さ」
ルード達は互いに喉を鳴らして笑いながら、気兼ねの無い言葉を交わし合う。
もしも、この光景を傍から見ている者が居たのならば、長年共に歩んできた親友同士の会話にしか見えないだろう。
「いい年こいたオッサンが、あんな小娘に惚れたのか? 随分な入れ込みようじゃないか」
「馬ァ鹿……止せよ。誰があんな、俎板娘……俺ァもっと、ボンッ! キュッ! ボン! な、イイ女が好みなんだ」
「ククク……聞かれてたらお前、殺されるじゃ済まんぞ?」
「聞かれてるかよ。アイツは今頃、白翼の嬢ちゃんに首ったけさ」
続けて言葉を交わしながら、ルードは店主から手荷物を受け取ると、ひらりと身軽な動きで馬へと飛び乗った。
その様子を、店主は苦笑いのような笑みを口元に浮かべて微笑むと、握り拳を差し出して口を開く。
「無理はするな。親友」
「無茶はするぜ? 戦友」
馬へ騎乗したルードはその言葉にニカリと笑みを浮かべて答えると、慣れた手つきで馬を繰り、瞬く間にその場から立ち去って行くのだった。




