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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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477話 反逆の楔

「……っ! テミスッ! 貴様ッ――!!」

「――待て」


 泣き叫ぶフリーディアの声を聞きつけたのだろう。

 駅舎の外から駆け込んで来たミュルクが、悋気をあげてテミスへ向けて剣へと手をかける。

 しかし、同時に駆け付けたカルヴァスが、抜刀しかけたその腕を抑えてミュルクを諫めた。


「ですがッ!!」

「お前も……わかっているだろう……!」

「クッ……」

「…………」


 駅舎の入り口で繰り広げられる二人の会話が、テミスの耳まで届いてくる。

 恐らく、フリーディアが安易に取り付けた約束を頼りにした住人達が集まり始めたのだろう。それだけでこの事態を察する事のできるあの二人には、フリーディアの慟哭の意味は確実に理解できるはずだ。


 ――酷い話だ。これじゃあまるで、私が悪役じゃないか。


 嗚咽をあげるフリーディアの前で、テミスは自嘲気味に心の中で呟いた。

 なんだかんだの腐れ縁だ。こいつの意志は理解できるし、それはきっと正しく尊いものなのだろう。

 目の前で泣きじゃくっている少女は、ただ皆が笑って過ごせる世界を作りたかった。

 だがその世界から、他でもない私の手によって、他者を害す悪人が斬り落とされた。そして今度は、逃れようのない現実が、彼女に残された弱者を守るという誇りさえ理不尽に奪い去ろうとしている。


「ハァ……」


 悲しみに打ちひしがれた子供の様に泣き続けるフリーディアの前で、テミスは物憂げに頭を掻きながら大きなため息を吐いた。

 こんな事を考えてしまっている時点で、もう答えは出ている。気付けば、爪が掌に食い込むほどに握り締めていた拳が、物言わぬ証拠だった。

 私が憎むのは悪だ。

 人の世に於いて、他者の願いを……幸せを奪う者を憎む。抗いようの無い理不尽を押し付け、苦しみ涙する姿を嘲笑う悪を処断する。

 ならば、私が打ち倒すべき『悪』はもう、決まっているではないか。


 フリーディアが立てた誓いが人々を護る事ならば、私の立てた誓いは全ての悪を断罪する事だ。

 ならば私は、自らの心が叫ぶ声に従い、己が正義を貫くだけだ。


「サキュド」

「ハッ……ここに」

「ミコトと共にファントへ帰還しろ。どんな手を使ってもだ。最悪、白翼も見棄てて構わん」

「テミス……様?」


 テミスは、自らの呼びかけに応じて即座に姿を現したサキュドに、淡々と命令を下していく。

 その内容に違和感を覚えたサキュドが顔をあげると同時に、テミスは懐から魔銃(イチイバル)を取り出してサキュドの手へ押し付けるようにして手渡した。


「重ねて命令だ。それ(・・)は本来、この世にあってはならないモノ。故に、お前が使う事は許さん。お前の命に代えてもファントへ持ち帰れ。そして……もしも私が戻らぬ場合。魔王城が鍛冶師・コルドニコフへ渡して破壊を見届けろ。これが最優先の命令だ」

「テミス様ッ!! お待ちくださいッ!!」

第十三軍団(・・・・・)軍団長(・・・)としての命令だ。我が副官として、使命を果たせ」


 そこに込められた意図に気付いたのか、弾けるように顔をあげたサキュドが抗弁を試みるも、テミスは即座にそれを封じて背を向ける。

 だが、その後に小さな声で。


「お前だから任せられる。頼んだぞ。サキュド」


 とだけ付け加えた。

 そして、泣き出しそうな顔で平伏するサキュドから数歩離れると、顔を伏せて壊れたように嗚咽をあげ続けるフリーディアの胸倉を掴み上げて、強制的に自分と目を合わせさせる。


「いつだったか……私はお前に言ったな? 暴虐を排すると」

「……?」


 それから、されるがままに、だらりと全身の力を抜いたフリーディアを引き摺りながら、テミスは荒々しい口調で言葉を続けた。


「そしてお前は私にこう言った筈だ。私を守ってみせる……と」

「テミ……ス……?」


 どすん。と。

 テミスはそのまま、絶望に曇った目で、呆けたように自分を見上げるフリーディアを駅舎の壁に押し付けて締め上げた。

 フリーディアは敵だ。

 だが同時に、この私が正義であると認めた、ただ一人の人間だ。

 そんな彼女が、この程度(・・・・)の絶望(・・・)で打ちのめされ、全てを諦めている事が何よりも気に入らなかった。


「ぐっ……うっ……」

「あれだけ偉そうに、人に背負い込むなと説教したんだ。ならば見せてみろ。お前の誓いを。私は私の誓いを貫く……次は。お前の番だ」


 テミスは、締め上げたフリーディアを睨み付けながら一方的にそれだけまくし立てると、その身体を軽々とカルヴァス達の前へと放り投げる。

 そしてそのまま、ホームから身軽に飛び降り、立ち止まることなく駅舎の外へと立ち去って行く。

 その目には、煌々と輝く殺意の炎が灯っていたのだった。

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