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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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470話 過去からの刺客

「ッ……グウッ……」


 銃声が鳴り響くと同時に、猛然と突進していた筈のテミスの身体は崩れ落ち、列車の入り口と、驚愕に目を見開くフリーディア達のちょうど真ん中で膝を付いていた。

 その視線の先。相対する野島の手の中では、テミスにとっては見慣れた黒光りする塊が、焦げ臭いと共にその口から白煙を吐き出していた。


「アハッ……。ンクククククッ!!  思い出さないか? なぁ? まるであの時(・・・)のようじゃないか?」


 耳障りな笑い声をあげながら、野島は醜悪な愉悦に歪んだ笑みをニタリと浮かべて、ゆっくりとした足取りでテミスへ歩み寄りながら言葉を続ける。


「……もっとも? あの時(・・・)とは立場が真逆だがなァ? ン? 覚えていないか?」


 言葉と共にカチリと音を立てて撃鉄が起こされ、銃の先端がゆらゆらと無言で蹲ったテミスの眉間を注視した。

 ――忘れるはずが無い。否忘れられるはずが無い……と言った方が正しいか。

 それは、記憶に灼き付いた前世(・・)の記憶。忘れたくとも、けっして忘れる事ができない、最初の裁きだ。

 けれど、そんなこびり付く汚泥のような思いはおくびにも出さず、テミスは頬を歪めて言葉を返した。


「フン……相も変わらず下種で下品な奴だ。その腐った性根は、一度死んだくらいでは直らんか」

「プククッ……!! いや~。カァ~……ッコイイ事言ってるトコ悪いんだけどサァ? 蹲って言われても笑えるダケなんだけど?」

「そうかい……。なら、そのまま笑い死んでくれれば僥倖だ」


 ぎしり……。と。

 テミスはじわじわと広がる痛みを堪えて歯を食いしばると、目の前の憎たらしい男を睨み付けながら思考する。


 撃たれたのは腹だ。

 幸い、弾は抜けたようだし、鉛中毒の心配は無いだろう。

 だが、問題は傷と出血だ。

 既に足の感覚は無いし、体中から脂汗が止まらない。正直、泣き叫びたいほどの激痛だが、そんな事をしても何の解決にもならないのは自明の理だ。


 しかし……。問題はそれだけではない。

 コイツは今、明白にテミス()の事を成田正義()だと認識している。

 その事実は、最も私の秘密を知るアリーシャですら知らない事だ。

 だというのに……()の仇敵である野島は、銀髪少女の姿であるにも関わらず、その正体を見抜いているのだ。


「なぁ、どんな気分だ? 一度殺した人間に殺されるってのはよォ? 自慢の剣も使えず、お得意の魔法も通じない……なぁ? なぁ?」


 野島はテミスを煽りながら、恍惚の表情を浮かべてゆっくりと、一歩、また一歩と傷口を抑えて俯くテミスの元へと近付く。

 だが、たとえ剣も使えず、魔法が封じられたとしても、銃は基本的に遠距離戦闘の武器だ。ならば、こちらの手の届く範囲にまで誘い込んでしまえば……。

 

 そうだ。あと少し。もっとだ……こちらへ近づいて来い。

 一歩一歩と近付いてくる野島の足音を聞きながら、テミスは伏せた目を爛々と輝かせて期を待ち続けていた。


「悪いが、これ以上は近付かないぜ? 俺も馬鹿じゃないんでな」

「っ……!」


 ニィッ……と。戸島は憎たらしい笑みを浮かべてそう告げた後、言葉を続けてテミスに問いかける。


「どうだ? 最後の策も見抜かれた気分は? 泣いて命乞いをしても良いんだぜェ?」

「チッ……」


 ゆらゆらと揺れる野島が向ける銃口の先で、テミスが鋭く舌打ちをする。

 狂人というのは、どうしてこうも察しが良いのだろうか。そう思うと同時に、怒りに呑まれた自らの迂闊さを心中で呪った。

 自分と同じ転生者ならば、銃の知識を持っていても不思議ではない。ならば、この利己主義の塊のような男が作らない訳が無い。


「全く……最悪の気分だな」


 そう呟きながらテミスは、俯いた顔を上げて皮肉気な笑みを浮かべる。ズキズキと痛む銃創が、テミスを嘲るように不規則なリズムで熱を発していた。


「クソ……」


 テミスは歯噛みをしながらチラリと周囲へと視線を走らせる。

 ――切り札の拳銃(イチイバル)を使うしかないのか? だがここでアレを使えば、私が(異世界の知識)を持っている事が、明確な物証としてフリーディア達にバレてしまう。

 けれど、手傷を負った今の私には、手段を選んでいる余裕など無いッ……!!

 そう覚悟を決めると、テミスはドサリと床に腰を下ろし、腹の傷を庇うように手を腹の上に置き、弱々しい笑みを浮かべて口を開いた。


「これでも乙女の柔肌だぞ? 傷跡が残ったらどうしてくれる」

「乙女ェ……? カハッ……アヒャハハハハハハハハハハハッ! アンタそれ本気で言ってんのかよ? 神サンにも疎まれたお前がァ? ――ッ!」


 そして、ゆっくりと半身気味に体を寄せながら体勢を整えたテミスが、ニヤリと笑みを浮かべてそう言い放つと、野島の手が爆笑と共に大きくブレる。

 ――その刹那。重なり合った2つの銃声が列車内に再び鳴り響いたのだった。

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