表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

480/2314

468話 忍び寄る予感

「んむ……ハッ!!?」

「目……覚めたかしら? テミス?」


 テミスが目を覚ましたのは、それから数時間後。

 東の空が白み始め、夜が明けかけた頃だった。


「っ……!!! わ……私はッ……!!!」

「きゃっ……。そんなに飛び退かなくても良いじゃない……」

「ハッ……ハッ……。す……すまない……。フリーディア……」


 まるで、驚いた猫のように。それまでもたれかかっていたフリーディアの肩から跳びあがったテミスは、浅い呼吸を繰り返しながら謝罪する。

 まさか、彼女の肩で眠り込んでしまうとは……。疲れていたとはいえ、とんでもない失態だ。

 テミスは早鐘を打つ心臓をなだめながら、努めて冷静を取り戻そうと深呼吸を繰り返す。

 だが、異様に頬が熱いせいか、平静を取り戻すには幾ばくの時間が必要だった。


「ン……? 待て。フリーディア。何故列車が止まっている? 目的地まで辿り着いた訳ではあるまい?」

「えぇ。操縦士の人の話曰く、魔石の補給でどうしても止まらないといけないって事らしいわ」

「……操縦……士……? まさか……」


 覚醒したばかりのテミスの脳裏に、嫌な予感がひた走る。

 そうだ。なんて阿呆だったんだ私は。

 白翼騎士団の連中はあくまでも人の騎士だ。故に、彼等の保護対象である、一般人や民間人に対する警戒はどうしても緩むだろう。

 それに、補給での停車が必要ならば、この列車の持ち主である連中がそれを知らないはずが無い。追撃する連中には垂涎の状況ではないか。


「っ……!!!」


 血相を変えたテミスは即座に立ち上がると、廊下側に座っていたフリーディアの前を器用に飛び越えて着地する。

 何という大馬鹿……。何という大間抜け……ッ!! 眠りこける数時間前の私をぶちのめしてやりたいッ!!


「テミスっ? 急にどうしたの?」

「警備体制はッ!? 騎士達の配置はどうなっているッ?」

「大丈夫よ。落ち着いて。ちゃんと二人一組で周辺警備に当たらせているわ。貴女のお友達……ミコトの提案でね」

「っ……!! そう……か……」


 確かに、私の霞んだ記憶によれば、正面の座席ではサキュドとミコトが座っていた筈……。現在二人の姿が無い事を鑑みれば、彼等も列車周辺の警戒に就いたという事なのだろう。


「…………」


 だが、ならばこの拭いきれない不安感は何だ?

 廊下の真ん中に突っ立って、テミスは漸く動き始めた頭を回転させる。

 警備網の心配をしているのか? 否。こと何かを守護する仕事に関して言えば、付け焼刃な知識と己の力で押し通している私よりも、フリーディア達の方が一枚上手だろう。仮にも、その道のプロである彼女たちに、ただの猟犬(・・)であった私が敵う道理が無い。


「何だ……? 何を恐れている……? 私は、何を忘れている……? 見落としている箇所は……」

「もぅ……。忘れ物はコレ(・・)かしら?」

「っ――!!」


 ブツブツと早口で呟きながら思考を続けるテミスの視界に、フリーディアの声と共に長細い何かが差し出された。

 数度の瞬きの後。本来の機能を果たし始めたテミスの目は、差し出された物が一本の剣であると認識する。


「返すわよ。約束通り。私の剣が戻ったから……良い剣だったわ」

「あ……あぁ……」


 ガコン。と。

 テミスが剣を受け取ると同時に、補給作業が完了したらしい列車が、大きな揺れと共に動き始める。

 その速度はみるみるうちに、鳥ですら追い付けない程の高速域へと達し、流れ出した景色が何事も無かったことを告げていた。


「ホラ。座りなさいよ。これからの行程を詰めないと……」

「そう……だな……」


 言葉と共にフリーディアが奥へ詰め、空いた席をテミスに示す。

 それに応じたテミスは、コクリと頷いて腰を下ろすが、その胸の内に渦巻く揺らぐような不安感が消える事は無かった。


「……基本的には、テミスの立てた工程で行きましょう。けれど、道中で調達する馬は、私達が借り上げる形にするわ」

「ン……あぁ……」

「そうすれば、買い取るより安く調達できるし、私達が責任を持って返せば、元通りに……って、聞いてる? テミス」

「……。聞いてるとも。それで問題無い」


 それからも、テミスは話半分にフリーディアの提案を聞きながら、言葉少なに相槌を返しつつ、胸の内に問い続ける。

 それは、ミコトとサキュドが戻って来てからもしばらく続いた。


「っ……。テミス様? つかぬことを聞きますが、彼女の肩枕の寝心地はいかがでしたか?」

「あぁ……。……。ンッ……!?」

「くふふ。とても気持ちよさそうな顔でお休みになられ居たものでしたから。少し気になりまして」

「っ~~!!! サキュドッ!! 貴様ッ!!」

「ちょっとぉ~。テミス様が悪いんですよ? さっきからずっと上の空みたいですし、何かありました?」

「ン……いや……な……」


 遂に、堪りかねたサキュドが、ニンマリと意地の悪い笑みを浮かべて揶揄ってようやく、テミスの意識は羞恥の怒りとともに現実へと引き戻される。


「何かが……引っ掛かるんだが……。何かを忘れている様な……見落としている様な妙な感覚がな……」


 しかし、即座にその意図を察したテミスは、それ以上声を荒げる事無く、自らの中の妙な胸騒ぎをサキュド達へと告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ