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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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460話 嘘吐きの魔法使い

 その願望は破綻している。

 それは、願望を(こいねが)うオズ自身が、誰よりも理解している事だった。

 誰よりも大切に想っている彼女が、もう戻らない事を理解している。あの町を焼き尽くすと同時に、清廉潔白で誰かの為に己が力を振るうユウは死んだのだ。

 ならばせめて……最期にもう一度だけ。

 あの輝かしい日々の中であったように相対し、激情をぶつけられたい。

 そしてその後は、この手で終わらせよう。


「フフ……やっと……」


 オズは夜の町を飛行しながら、歓喜にぶるりと身を震わせた。

 もともと、感情の起伏には乏しい方だと自負しているが、今夜ばかりはその昂ぶりを抑える事ができかった。

 やっと見つけた代用品(・・・)。彼女たちは姿形や性格は違えど、その在り方はまるで、かつての私と、かつてのあの子をそっくり写したように同じだ。


「いや……貴女は少し違うかしら……?」


 厳重な警備の敷かれた門へと向かいながら、オズは一瞬だけ視線を宙に舞わせて呟いた。

 その心の行く先は、銀の髪を持つもう一人の自分。

 よくよく考えてみれば、私は彼女みたいに行動的ではない。私は、何もしなかったが故に、全てを失ったのだから。


「けれど……結果は同じ。そんなのはつまらないわ」


 先程この目で確かめた。

 確かに彼女たちは強い。彼女の従者だというあのサキュドという名の少女でさえも、一対一での戦いであれば、彼女に勝てる人間は数える程だろう。

 そんなサキュドを従える彼女と、彼女と肩を並べる金髪の少女が、比類なき強さを秘めているのは、一目瞭然だった。


「けれど。足りない」


 眼下を叫び声をあげながら疾駆する兵士たちを眺めながら、オズは不満気に言葉を漏らす。

 皮肉にも、この町は数こそ少ないものの、それを構成する要素は、その住民一人一人に至るまで質が異なる。

 今、怒鳴り声をあげて地面を走っている彼……。一般的な兵站の立場で言うのなら、雑兵に当たる彼でさえ、この町の外に出れば一騎当千の猛者なのだ。

 例え、彼女達が天下無双の強さを誇る程の強さを持っていたとしても、同等の強さを持つ将を擁するこの町が、雑兵の分(・・・・)だけ勝る。


「……さようなら?」


 ガシャリ。と。

 眼下を駆ける雑兵(・・)が路地に駆け込んだ瞬間。オズが呟くと同時に派手な金属音が鳴り響き、喧噪が僅かに遠のいた。


「厭な空……」


 オズは手を下した兵士の事など歯牙にもかけず、緩んだ目で雲の煙り始めた月を見上げてひとりごちる。

 またこの空を、あの炎が焦がすのだろうか。

 厭友が親友に変わったあの日のように。彼女の命を薪と焚べて……。


 ――だから言ったのに。


 彼女自身が焼き滅ぼした街からユウを助け出し、オズが最初にかけた言葉がそれだった。

 他人の為に力を使うなんて馬鹿らしい。都合よく利用されるのはつまらない。

 この世界へと流れついて、私が一番先に決めたことがこれだった。

 いくら『個』が力を持ったところで、強大な衆愚には抗えない。

 それこそ、同じ人間を虫けらのように殺し尽くし、己が恐怖を衆愚に叩き込むような、強靭な心が無ければ。


 だからこそ、私は怠惰を貪った。

 『力』の存在だけはひけらかし、その実……殆ど何もしない。

 衣食住からして恵まれた生活を享受しながら、いつか来る宿主(・・)が枯れ果てるその日まで、ひたすら秘かに己を磨く事こそがこの世界の正しい生き方だ。

 少なくとも、ユウと出会うあの日までは。そんな寄生虫のような在り方が、本気で正しいと信じていた。

 ――けれど。


「私に力を貸して欲しい。その『力』は、今日この日の為に在るものだよ」


 ある日突然。ねぐらに押しかけて来た彼女は、渋る私を強引に連れ出した。

 与えられた任務は、首都の近くに巣食うオークの巣の討滅。明らかに、兵の損耗を嫌っただけの雑用だった。

 それでも尚、構わないと。

 自分が出向く事で、傷付く人が一人でも減るのなら……。そう嘯く彼女が、ひたすらに眩しかった。


 思えばあの時。僅かに感じた違和感を逃さなければ、こうはならなかったのかもしれない。

 魔力とは違う何か(・・)が薄れたような感覚。

 気付いたのは、何度も何度も彼女に引きずり回される日が続いた後。日に日に体調を崩していくユウに、異常を感じた怠惰な私は、やっと重い腰をあげた。

 それが、彼女の()だと判明した時には、すでに手遅れだった。

 国は無私の奉仕を続ける彼女に慣れ、それが当たり前だと依存していた。


 だから……罪人は私。

 彼女の愛した国(大切なもの)が、彼女に牙を剥くと知って囁いた。

 彼女を貪る汚い国が、私の愛した彼女(大切なもの)に滅ぼされると知って嘯いた。

 全てを壊したのは私で、全てを壊すのも私。

 だから、あの日から私は嘘吐き(オズ)の魔法使い。

 自分にも嘘を吐き続けて、過去の残滓に縋る哀れな魔法使い(嘘吐き)


「ウフフ……切なる願い。これも嘘……。さぁ、そろそろ終わらせようかしら」


 歌うようにそう嘯くと、オズは幾人もの兵士で固められた門へと向かったのだった。

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