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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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457話 裏返る白

 ブラッディ・メイルシュトローム。

 この魔法は、どちらの世界にも存在しない。何故なら、とある魔法をテミスがその知識を以て改良したものだからだ。

 その、元となった魔法は水球。

 この世界の中で、最も役立たずだと蔑まれていた魔法だ。

 魔法の効力は、その名の通り水の球を召喚するだけの物。そもそも、この世界の水系統魔法の殆どが、打ち出すか召喚するか叩き付けるだけの物だった。

 無論。圧倒的な水量で圧し流すダイダルウェイブや、汎用性の高いアクア・バレットといった魔法が弱いわけではない。

 だがしかし、水の利用法を知るテミスからしてみれば、この世界は、残念ながら水魔法……もとい、水の特性について何も理解していないと言うほかなかった。


 水とは、早く動けば動く程、硬く鋭く変化する。

 その威力たるや、あちら(・・・)の世界では、分厚い鋼鉄すら切り裂くのに使われていた程だ。

 液体が故に形状などの自由度が高く、そしてそれを自在に操る事のできる魔法という技術。この二つが組み合わさった瞬間。水魔法は凶悪極まる魔法へと変貌する。


「やれやれ……あっけないな」


 テミスは、澄み渡り、ただその水流が白く映し出されていた水球が、徐々に赤く染まっていくのを眺めながら嘯いた。

 そう。ただ水流の中に閉じ込めるだけの魔法であれば、渦潮(メイルシュトローム)の檻(ジェイル)とでも名付ければいい。

 しかし、この魔法の真骨頂は、激流の中に対象を閉じ込めてからが本番になる。


「テ……テミス様……この……魔法は……?」


 戦いに決着がついたと判断したのか、隠形の魔法を解除したサキュドが震える声で問いかけて来る。

 魔法を嗜むサキュドとしては、新たな魔法を目の当たりにして、その価値を理解したのだろう。


「何。簡単な話だ。召喚した水球を操り、内部に幾つもの潮流を生み出しているに過ぎん」

「水の流れ……? ですか……? ですが……」

「クククッ……。今……この内部では、タケシの身体が捥がれ、千切られ、削られているのだ」


 不敵な笑みで喉を鳴らしながら、テミスは自らの生み出した魔法の解説を始める。

 この魔法は、原理さえ知ってしまえば、魔法を操る事のできる者なら、誰でも扱える魔法だ。尤も、他人に教える以上致命的な弱点も存在するのだが……。


「なんと……まさか、水魔法にそんな使い方が……」

「待ってテミス。でもその魔法――」

「――ああ。だからお前には使わない……否。使えんよ」


 やはり……と言うべきか。

 話に割って入ってきたフリーディアに、テミスはコクリと頷いて言葉を続ける。


「閉じ込めた所で、水球自体を破られてはどうしようもない。魔力を放出して水球を霧散させたりな。フリーディア……お前なら易々と切り裂いて見せるのだろうな」

「っ……。ええ」


 テミスがあっさりと認めたことが釈然としないのか、フリーディアは呻くような声と共に頷いた。

 そもそも、この魔法は欠陥品なのだ。

 テミス程の戦闘力があれば、水球から脱出できない程に弱った相手に、わざわざこの魔法を使う必要がない。首を刎ねて、それで終わりだ。

 故に、あくまでも趣味の延長として創ったこの魔法だったが、殺傷能力こそ破格なものの、使う場面がやって来なかったのだ。


 ――ならば何故。

 今この魔法を使ったのか。


「クククッ……そろそろ……か?」


 テミスは真っ赤に染まった水球の渦潮を眺めて呟き、パチンと指を弾いて魔法を解除する。

 すると、操られていた水が支配から解き放たれ、バシャリと音を立てながら部屋の中を薄い血の海に染めた。

 その中心では、ズタボロの肉傀となったタケシが、死に際の虫のようにピクピクとその身体を動かしていた。


「さてと……出番だ。フリーディア」

「っ――!?」


 カチャリ。と。

 テミスは皮肉気な笑みを浮かべながら、フリーディアに向けて自らの剣を投げ渡して口を開く。


お前が(・・・)止めを刺せ(・・・・・)

「なっ……!!!」

「……!!」


 そのあまりにも悪魔的な提案に、フリーディア本人どころか、その傍らで様子を見守っていたサキュドとミコトさえも絶句した。

 誇りを折り砕く。テミスは確かにそう言った。

 だがその方法は、あまりにも残酷な方法だった。


 弱きを守り、強きを挫く。

 そんな尊い理念こそが、フリーディア達騎士が胸に抱く誇りだ。

 その頂点。

 白翼騎士団の騎士団長であるフリーディアの胸には、敵であっても尊び、等しく守る意思がある。

 それは、悪を憎み悪を断つ事を信条とするテミスには無いものであり、彼女がフリーディアを『甘い』と称するのはこれが故なのだ。


「安心しろ。そいつは毎日、奴隷階級の少女を虐めて愉しんでいるどころか、私やサキュドにまで手を出そうとした悪逆非道な男だ。それに、私の剣(・・・)を使わせてやるのだ。これ以上は望むまい?」


 テミスの剣で、フリーディアが斬る。

 これが、これから作戦を共にするにあたって、テミスが最大限譲歩できる場所だった。

 戦場という死地の中で、信頼できない人間に背中は預けられない。それが特に今回のように、敵地を脱する窮状ならば猶更だ。

 少なくとも、テミスの指揮下にいる間は、フリーディアの博愛に満ちたその精神は、部隊全てを壊滅させかねない毒と同じなのだ。


「っ~~~~!!!! 解ったわ。テミス。悪いけど剣……借りるわね」


 ぎしり……と。

 固く目を閉じたフリーディアは鞘が軋む音が聞こえる程に、受け取った剣を握り締める。

 そして、静かに目を開くと、微かに震える声でそう告げながら床の上で蠢くタケシの元へゆっくりと歩み寄るのだった。

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