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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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453話 白刃の向こう側より、友情を込めて

「……厳しい戦いになる」


 翌日。

 拠点へと戻ったテミスはじっくりと休息を取った後、サキュドと共にミコトの部屋へと押しかけていた。

 朝食はオズが気を回してくれたらしく、サンドイッチをサキュドに部屋へと持ち帰らせてくれていた。

 曰く。

 疲れているだろうから……。らしいが、いったいどこの誰のお陰で、予定の数倍疲れたのかを語り聞かせてやりたいくらいだ。


「私がヘマをしたのか、それともオズが喋ったのか……後者にしてはやり方が回りくどすぎる……か……」


 ビシリッ!! と。

 テミスは手に持った粗鉄の剣が砕け散るのを確認すると、その柄を放り棄てて深いため息を吐く。

 仮にオズが敵対者だったならば、アーサーと二人で私の目前に迫ったあのチャンスを逃すはずが無い。

 可能性があるとするならば、オズもアーサーも戦闘能力が低い場合くらいだが、オズは兎も角として、中庭での言動から奴が戦えるのは明白だ。

 なればこそ、昨夜は完全に『見逃された』という事になるのだが……。


「まさか……完全な対策をして行かれたのですよ!? よもや露見などするはずが……」

「こんな町を作った人の能力が索敵系……なんて事は無いでしょうし……。おそらくですが、何らかの能力を使った、厳重な警備を敷いているのでしょう」

「……同感だ。例外を知らなくも無いが……アレはひとまず置いておくとしよう」


 テミスはサキュドから新たな剣を受け取ると、そう嘯きながらその刀身にピタリと手を当てる。

 そして、体内で練り上げた魔力を錬成し、剣へ力を流し込んでいく。

 頑丈さ上昇。鋭さ上昇。重量軽減。そして……。

 重ねて光の魔法属性を流し込んだ瞬間。薄氷を割り砕くような音と共に、剣の刀身が砕け散った。


「フム……」

「えっと……。さっきから、何をやっているんですか? 一応ここ、僕の部屋なんですけれど……」


 新たな鉄屑が部屋に散乱するのを眺めながら、ミコトが頬を引きつらせてテミスへと問いかける。

 厳しい状況とはいえ、正体が露見した以上長居は無用。今夜には去る部屋だというのに、何を惜しむことがあるのだろうか。


「なに……戦力が多いに越した事は無いからな。奴の本来の剣を預かっている騎士団連中と合流するまで、繋ぎ程度(・・・・)の武器を用意する必要がある」

「はぁ……それで、付与術式(エンチャント)ですか」

「あぁ。だがダメだな。()がこうも脆くては、術式に耐えられん」


 テミスは再びため息を吐くと、手元に残った柄を無造作に放り棄て、床に散らばった鉄屑の山へと加えた。

 あの時()ギルティアから借り受けた細剣は、確か軽魔銀(ライト・ミスリル)と言ったか……。こうして実際に作ろうとして初めて、あの剣の価値が理解できた気がする。

 あそこまで軽く、強く、そして鋭い剣は、この世界の魔法技術を以てしても、そう簡単に作るのは不可能だ。ギルティアの奴が、魔剣などと胸を張るだけはある一品だった。


「ハァ……結局。こうなるのか……」


 三度深いため息を吐いたテミスは、サキュドが買い集めてきた最後の剣を手に取って、再びその刀身に手を添えた。

 しかし、今度使うのは付与術式(エンチャント)ではない。この世界の理の外にある力。テミスが、己が大剣を創り変えたのと同じ能力(・・)だ。


錬成・・。素材置換――」


 ブツブツと内容を口で紡ぎながら、テミスは自らの力を以て鉄剣を創り変えていく。

 まずは、素材。強すぎず、そして弱過ぎない適度な物。ならば、私の知る鉱物は一つしか無い。


「――軽魔銀(ライト・ミスリル)


 そして、次に必要なのは強度だ。

 この世界を生きる、ただの人間であるフリーディアが転生者を相手取るのだ。使う武器にも、相当な耐久力が要求されるだろう。万が一、私の用意した剣が脆かったから負けたなどと言われては、立つ瀬がないにも程がある。


「――剛性上昇。鋭さ強化」


 更に、奴の戦闘スタイルを考えるのならば、幾らか必要なオプションを付けるべきだろう。

 敵の能力も解らんというのに、正面から斬り結ぶ愚直な奴だ。毒や呪いを扱う連中からすれば、格好のカモだ。


「――属性付与。相対切断。光の加護」


 このどちらも、この世界に術式では付与し得ぬ超魔術だ。

 剣の硬度が勝っていれば、物体・概念問わずどんなものでも切り裂ける相対切断に、装備者を毒や呪いと言った悪影響から護る光の加護。

 それぞれが単体で強力過ぎる力だが、フリーディアを確実に死なせず、未知数の敵戦力の前に立たせるならば、これくらいは必要だろう。何より、私一人が前衛に立つのをあの能天気女が、認めるはずが無い。

 ならば、無理矢理前に立たれて苦労する前に、相応の武装を持たせておけば、戦力に数えられる。

 そして……。


「……自壊術式。待機……終了」


 最後に忘れず、予防線を張っておく。

 フリーディアはそもそも敵勢力なのだ。

 本来ならばこんな、世の理に反する剣を渡すべき相手ではない。

 だからこそ、私の意志で自由に破壊できる術式を組み込む事で、フリーディアが剣の返却を拒んだり、最悪、剣を投棄しなければならない事態に陥ったとしても、我々に向けてこの剣が振るわれる事は無い。


「フゥ……。こんな物か……」


 そう呟いて、息を吐くと共にテミスが集中を解くと、その両側からミコトとサキュドが生暖かい視線を注いでいた。

 そして、示し合わせたかのように口を揃えて……。


「心配なのは分かりますが……やり過ぎですよ(わ)……」


 呆れた口調でそう告げたのだった。

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