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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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446話 姿無き信頼

「ぁ……ふぁ……」


 翌日。

 太陽も天頂を越え、その強さが幾ばくか柔らかくなった頃。

 テミスは、サキュドとミコトを後ろに連れて、ヤマトの選民街を散策していた。


「ふぁ……ぁ……」


 しかし、テミスとサキュドの顔は酷く眠た気で覇気がなく、心なしかその頭も時折ゆらゆらと左右に揺れている。


「全く……二人共、どうしたんですか? 二人して今朝は珍しく大寝坊でしたし、なんだか疲れてるような……」

「ん……あぁ……。まぁ……な。く……ぁぁッ……」


 テミスに続いてサキュドが欠伸を見せた事に驚いたのか、ミコトはテミスにボソボソと声を落として問いかけた。しかし、当のテミスも再びひと際大きい欠伸を連発すると、緩んだ瞳で恨めし気に太陽を見上げて生返事を返す。


「昨日は僕も疲れてすぐに寝ちゃいましたけど……もしかして、何かありました?」

「ンククッ……まぁ、あったと言えば……あったか……」

「……ですね」


 不審そうに問いを重ねたミコトに、サキュドとテミスは意味あり気に視線を交わすと、口元にニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。


「新発見だったとも……。流石はサキュドと言わざるを得んな。まさか、下種野郎の物とはいえ、アレを切って落とすのではなく縦に割いて見せるとは……」

「勿体なきお言葉……。ですが私などまだまだですよ。まさかそこから、4つに、6つに8つに……なんて、私には思い付きもしませんでした」


 アハハハハ。と。

 不穏な会話の内容に、僅かに首を傾げるミコトの前で、少女たちは無邪気で綺麗な笑みを浮かべながら、清々しい笑い声をあげる。

 二人の正体を知っているミコトとであっても、間違いなく何か(・・)があったのだという事は理解できたが、その真実まで連想する事はできず、決して深入りすまいと心に決めて思考を放棄した。


「まぁ……お二人が無事ならそれでいいです。でも、無茶はしないで下さいよ?」

「あぁ。戻ったら少し……きちんと仮眠を取るさ」


 ミコトの忠告にテミスは微笑んで頷くと、眠そうに瞬かせていた目を擦りながらコクリと頷いて見せた。


 事実。テミスの施した後処理は完璧だった。

 遊び尽くした(・・・・・・)タケシの傷を癒し、力を使って記憶を改ざんした後、サキュドと共に血などで滅茶苦茶になった部屋を綺麗に片付けし、音が周囲に漏れた形跡もない。

 そして、傷一つ無い綺麗な体となったタケシは奴の部屋に放り込んできたから、万に一つも昨夜の『火遊び』が露見する事は無いだろう。

 だが、ヤツの身に刻まれた経験(・・)が消える事は無い。タケシの奴も相当疲れているのか、今朝はついぞ起きて来なかったが、次に顔を合わせるのが楽しみだ。


「だが……この町の連中のセンスにはほとほと呆れるな……」


 テミスはそうぼやいてから改めて町を見渡すと、呆れたように深いため息を吐いた。

 ヤマトの選民街の有様はその特性(・・)故か、一切の商売っ気が無いのだ。

 現に、今眼前に広がる古風で美しく清廉な街路は、男性用や女性用というだけではなく、各種済嗜好に合わせた色街だというのだから質が悪い。


「やれやれ。すべてがお上から配給される社会など、腐り逝くだけだというのにな」


 無論。店頭に並んで働いているのは、その首に首輪をはめた奴隷(・・)達ばかりで、それを求めた選民たちが、真昼間から己が欲のはけ口を物色していた。


「クク……もしもフリーディアの奴が、こんな所で働いて(・・・)いたら、奴等……卒倒しかねんな」

「くぁ……いえ。恐らく怒りのままに狂戦士の群れと化して突撃するかと」

「……それもそうか」

「可哀そうですよ……」


 テミス達は軽口を交わすと共に、素早く周囲の人間に目を走らせる。

 現状、この町の地理にも情勢にも疎いテミス達は、その知識を補完するべく町を練り歩くついでに、目的のフリーディアを探しているのだが、どこぞの誰ぞに捕まったのか、それらしい人物は何処にも見当たらなかった。


「もしかすると、個人の奴隷……所有物になっているかもしれませんね……」

「かぁ~……。面倒くさい。ってことは何か? 奴が虐め殺される前に見つけ出せと?」


 ボソリと呟いたミコトの言葉に、テミスは大仰な手ぶりで天を仰いで顔を覆う。

 その推理が正しければ、いよいよ昨夜のオズが寄越した情報に信憑性が生まれてしまうではないか。

 いちいち不可解な言動の多い奴だというのに、そんな情報を寄越されてはますます敵か味方かの判別が厄介になる。どうせなら、わかりやすく敵であってくれた方が、突然の裏切りを気にかけなくていい分楽なのだが。


「虐め殺……? いえ、僕達の宿()にいるメイドさんみたいに、お屋敷で奉仕してるんじゃ……」

「馬鹿言うな。あの堅物が下種な連中になど死んでも媚びるものか。飼われているのだとしたら、おおかた主人の気に障る正論を吐いて、今頃ボロ雑巾だろうよ」

「っ……」


 テミスは事も無げにそう返すと、視線を前方に戻して真剣な表情で考えを巡らせ始める。

 その顔には先程までの緩んだものとは異なり、深刻極まる表情をしていた。


「……信じて――」

「――っ……」


 その表情に、ニッコリと微笑んだミコトが言葉を紡ぎかける。しかし、その言葉が紡がれる前に、ミコトの肩にサキュドの手が置かれた事により、言葉は途中で途絶えて中空へと消える。

 直後。ミコトは振り向いた先で、優しい微笑みを浮かべ、唇に人差し指を当てながら首を振っているサキュドを見て、コクリと小さく頷いたのだった。

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