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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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436話 歪んだ少女

「食堂に浴場にトイレに……ひとまずはこんな所かな?」


 メイドの少女が去った後、テミス達はユウと名乗った少女の申し出を受け、冒険者用第五住宅……略して第五住宅の案内をされていた。

 そして、大まかな共用施設を回り終え、食堂まで戻ってきたところで、ユウは食堂の椅子へ腰を下ろすと、柔らかな笑みで口を開いた。


「ここの住人は君達を含めて七人。第五住宅は人が少なかったから……にぎやかになって嬉しいよ」

「七人? それは、さっきの(・・・・)メイドを(・・・・)含めての(・・・・)数か(・・)?」

「……? 何で?」

「っ……!!」


 ぞわり。と。

 純粋に困惑した表情で首を傾げたユウの表情に、含みを持たせて問いかけたテミスの背を、凄まじい悪寒が駆け抜けていった。

 彼女はただ、質問の意図を理解できなかっただけだ。だがそれは、目の前の少女が初めて見せた、明らかな歪みだった。


「いや……何でもない。忘れてくれ……。こちらこそ、よろしく頼む」

「……? そう」


 そんなユウの言葉に、テミスは僅かに顔を顰めてそう答えると、自ら右手を差し出して握手を交わす。

 ……何をやっているんだ私は。

 ユウの手を軽く握りながら、テミスは心の中でそう呟いた。

 たった数日。ただ間借りするだけの同居人に、何故私は握手など求めたのだろうか? 歓迎の意を示されたから? 社交的に?

 ……いや。そのどれも、私の弱さが生み出した都合の良い嘘に過ぎない。

 私は今、ただ嬉しそうに我々を歓迎したこの少女に、罪悪感を覚えたのだ。たとえ歪んでいようと、私達へ向けられた好意は本物だった。だからこそ、私は咄嗟に握手を求めてそれを打ち消し、心を守ろうとしたのだ。


「ふふ……しかし、こうして握ってみて分かったけれど、凄い手だね」

「凄い……? それは聞きようによっては嫌味とも取れるが……」


 けれど、テミスは胸の内の僅かな痛みを呑み込んで、皮肉気な笑みを浮かべながらユウに言葉を返した。


「あぁ、すまない。そういう意味では無いんだ。息を呑むほどに美しい見た目に反して、君の手は固い……よく手入れはしているようだけど、剣ダコや強い握力、直接握れば良く解る武人の手だ」

「一応……誉め言葉として受け取っておこう」

「誉め言葉だよ……紛れもなく。この汚れた世界で剣を取って生き残った……そうそうできる事じゃない」

「っ……」


 ピクリ。と。

 ユウが憎々し気に放った言葉に、テミスは微かに眉を跳ねさせた。

 汚れた世界(・・・・・)ユウは確かに今そう口にした。目の前で柔らかに微笑む彼女にも、この慈悲無き世界は苦難を与えたのだろうか?


「良ければ部屋の準備ができるまで、君達がここに来るまでの話を訊かせて貰えないかな?」

「私達の過去、か……聞いても別に、面白い話では無いぞ? 何のことは無い、よくある話だ」


 ユウの質問に、テミスは視線を逸らして口ごもると、自らの過去を語るのをやんわりと拒絶した。

 何故なら、ある程度語れるだけの過去を持つミコトは兎も角として、魔王軍の所属である私とサキュドの来歴を素直に明かす訳にはいかないし、事前に詳しく擦り合わせをした訳ではないから細かい所で齟齬が出る可能性もある。


「フフ……会ったばかりの私には話しづらいかい? ならばこうしよう」


 ユウはテミス達の芳しくない反応を見ると、すぐにピンと指を立ててニヤリと笑みを浮かべた。その笑みは柔らかいながらも僅かに影があり、テミスは再び、ユウの心に巣食う影の一端を垣間見たように思えた。そして、ユウが言葉を続けると、その直感はすぐに現実のものとなった。


「まずは、自己紹介代わりに私の過去を語って聞かせよう。大丈夫……こちらの話も聞いて面白いものではないからね。お相子さ」

「フン……不幸自慢大会(・・・・・・)という訳か」

「……ありていに言えばね。私は君たちの事を知れるし、君たちは私の事を知れる。部屋が用意できるまでの暇つぶしとしては、丁度良いんじゃないかい?」

「フム……そう……だな……」


 テミスはユウの提案に少しだけ考えるそぶりを見せると、チラリとミコト達に目を向けてからコクリと頷いた。

 考えてみれば、この町程多くの転生者を擁する町は存在しないだろう。ならば、この街の転生者が、何処から、如何にして集まったのかを知れば、今回の作戦だけではなく、今後の助けになるのは間違いない。


「そうだね……なら、何を話そうか……。まぁ、そう長い話でもないし、差し当たっては初めから……私がこの世界に来た時の事から語るとしようか」


 ユウは静かに目を瞑って前置きをすると、小さく息を吸い込んでからゆったりとした口調で語りはじめたのだった。

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