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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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434話 歪んだ町

「っ……。これ……は……」


 ヴァイセからの『面接』を無事潜り抜けたテミス達は、塀の中の町を見た途端に言葉を失って立ち尽くした。

 ヴァイセ曰く、この選民街(・・・)はその名の通り、転生者である選民の為の町であるらしい。そしてその恩恵を得る権利は、面接(・・)をパスしたテミス達にも存在すると言う。しかし……。


「なんというか……普通の町……ですね……」

「えぇ……もっとおどろおどろしい物を想像していたのだけど……」


 しばらくして、先に衝撃から立ち直ったらしいサキュドとミコトが、観光客よろしく周囲をキョロキョロと見回しながら感想を漏らす。

 だがしかし、テミスが受けた印象は、二人とは全く逆の物だった。


「おい……お前達は気付かないのか……? この異常な光景に……」

「え……? 別に、そう大して変わった所は無いと思いますが……」

「……サキュド。お前は?」

「私……ですか? っ……。そうですね……私の目には、異常はどこにも……」

「っ……」


 これは何かの間違いなのだろうか? それとも、私の目に映る光景だけ、二人とは異なるものが映っているというのだろうか? 私の目には、こんなにもありありと、悍ましいこの街の歪みが映っているというのに……。

 テミスは受けた衝撃のあまりの大きさと、胸の内から湧き上がる嫌悪の吐き気を隠しきれず、思わず顔を覆ってふらりと足元をよろめかせた。


「テ――リヴィアさんっ!?」


 そんなテミスの肩を、傍らにいたミコトが即座に抱き留めると。駆け寄ったサキュドと共にその顔を覗き込んだ。


「大丈夫ですか……!? いったい何が……」

「っ……首だ……」

「首……ですか?」


 その言葉を受けた二人が、首を傾げながらテミスの首を検めるが、そこにはただ色白な肌が存在するだけで何の以上も見受けられなかった。


「馬鹿が……私ではない。この街の住人の首を見てみろ……」

「住人の……。っ……!! あれは……」


 そこまで告げて初めて、ミコトとサキュドは気が付いたように、ビクリとその肩を大きく震るわせた。

 テミスが真っ先に気付いたこの町の異常、それは町行く人々へ明確に刻まれた区別の証だった。


「ああ……まさに選民(・・)選民の為の町(・・・・・・)だな」


 テミスはそう忌々しげに呟くと、ミコトから身を離して町へと目を向ける。

 今ここから眺めただけでも、この街の住民には二種類の人間が居た。

 片方は、楽し気に仲間と、友人と笑い合いながら、楽し気に日常を謳歌する者達。彼等は何不自由なく暮らしているらしく、小ぎれいな服や緩んだからだがそれを物語っていた。

 だがもう片方の人間達は違った。その首には鈍く光る細い首輪がはめられており、その誰もが疲れ切った顔をしてあくせくと働いている。

 ある老人は、喫茶店のような風貌の店の店頭で道を清めながら、ある男は大きな荷物を抱えて道の隅を駆けながら……その誰もが、塀の外の人間のように薄汚れてはいないものの、どろりと濁った生気の無い目で体を動かし続けていた。


奴隷(・・)とは……そう言う事か……」


 ギシリと固く拳を握り締めながら、テミスは憎悪を込めて吐き捨てるように呟いた。

 ヴァイセから受けた説明では、我々に宛がわれた住居にも、『世話係』や『使用人』と言った者達が詰めているらしいが、この分では『職業』として勤めている者たちという意味合いではなく、住居に付属する『備品』という意味合いの方が強いのだろう。


「だが……彼等を救うのは私の役目ではない。それに……」


 冷たい口調でテミスはそう断言すると、大きく深呼吸をしてからゆっくりとした歩調で歩き始める。そして心の中で、飲み込んだ言葉の続きを反芻させた。

 それに……この町から彼等奴隷を開放したとして、果たしてそれが彼等の求めている事であり、歓迎されるかは判らんしな……。

 事実。この街で奴隷として暮らしていく分には、塀の外の町での暮らしよりは、幾ばくかはマシなようにも思える。

 最低限の清潔さを保った服に、生きていくのに必要なだけの食糧は与えられ、ただ漫然と労働をこなすだけで、命を繋ぐことは保証される。それは、戦場に出て熾烈な戦いに身を投じたり、自由の代償として明日をも解らぬ貧しい生活を送るより、魅力的だと考える者も居るだろう。


「なかなかどうして……えげつないやり方をするじゃないか……」


 テミスは、困惑の表情で自らの背を追うミコトとサキュドに気付く事無く、ニヤリと口角を吊り上げて嗤いを漏らす。

 それは、安寧という名の甘い毒だ。危険を、そして不安を取り除く事によって人々の尊厳を物へと貶め、ただ呼吸をし、心臓が動いているだけの肉人形へと変化させる呪毒だと言う事を、転生者であるテミスは良く知っていた。


「ククク……なるほど、そういう道(・・・・・)も……あったのだな」


 ヴァイセから告げられた、この街での寝床へと歩を進めながら、どこか感慨深げに呟いたテミスの言葉は、誰の耳に留まる事も無く、歪んだ町の蒼空へと吸い込まれて消えていったのだった。

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