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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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432話 無邪気な白

「それで……どうするの?」

「っ……」


 緊張感で静まり返った空気の中、突如として現れた男が、気の抜けるように朗らかな声でテミスへと問いかけた。


「ボクは別に、このまま始めちゃっても良いんだけど……キミ達はそれでもいいのかなって」


 そう続けながら、男は軽薄な笑みを浮かべたまま手をデニムのポケットへと突っ込むと、テミス達の前に仁王立ちして笑いかける。

 しかし、一見無防備に見える格好だったが、その挙動に一切の隙は無く、その行動そのものが男の地力が高い事を示していた。


「ホラ……これで安心でしょう? ボク等のお仲間なら、その剣を下ろして欲しいな」

「フン……道化め……。今この瞬間も、我々を攻撃しようと思えばいつでもできる癖に……」


 テミスは憮然とした表情でそう返すと、男の要求に従って剣を収める。しかし、テミスはその代わりとでも言うように、ギラリと殺意の籠った眼で男の目を睨みつけていた。


「へェ……。……。フフ……あははッ。嫌だなぁ、そんな怖い顔して。ボク達は仲間……友達でしょう?」

「……さぁな。町の様子を見て仲間になる気も失せかけているし、何よりも名すら名乗らん胡散臭い奴に友情を感じる程、私は寂しい身の上ではないのでな」

「あぁ、ごめんよ。ボクはヴァイセ。ヴァイセ・アンブローだよ。よろしくね」


 だが、男はテミスの敵意をにこやかな笑みで受け流し、右手を差し出して名前を名乗ってみせた。


「っ……!」


 ジャリッ……。と。

 テミスは自らの足元から音が聞こえて初めて、自分が一歩退いたことを自覚した。

 ……気味の悪い男だ。と。

 テミスは胸の内で、小さく言葉を零す。

 まず初めに感じたのは、無邪気さだった。まるで好奇心旺盛な少年のように純粋な面持ち。だがそれは、その瞳を覗き込んだ瞬間、すぐに背筋が粟立つほどの悍ましさへと姿を変えた。

 悍ましい筈だ。

 ヴァイセと名乗った男の瞳には、何も映っていなかったのだ。

 にこやかな笑顔を浮かべながら、友好を求めて右手を差し出しておきながら、ヴァイセの目はテミスに何も求めてはいなかった。


 子供のような好奇心を纏いながらも、その奥には老人のような……否。死人のように虚無を湛えた冷たさがあった。

 そんな、相反する二つの属性(・・)が混じり合い、底の知れない気味悪さとなってテミスの元へ届いていたのだ。


「ハハ……ヤだなぁ……。そんなに怖がらなくてもいいのに。大丈夫。君達が本当に冒険者将校……ボクたちの仲間なら、きっとすぐに分かり合えるよ」


 結局。ヴァイセは一向にテミスが握らぬ右手をそのまま後頭部へ持って行くと、頭を掻きながら朗らかに告げる。

 勿論、そんな間も無機質な瞳はテミスへ注がれ続け、嫌悪にも似た拒絶感がその胸の内に溜まり続けた。


「それで……キミ達のお名前は? ボクだけ名乗ってキミ達はだんまりじゃ、不公平だと思うけど?」

「っ……リヴィアだ。……そして後ろの二人は、ミコトとサキュド」

「ん。ミコト君に、リヴィアちゃんとサキュドちゃんね。ヨロシク」


 湧き上がる吐き気を堪えながら、問われたテミスが答えると、ヴァイセは同じくにこやかな笑みを二人へ向けた後、ヒラヒラと手を振って友好を示して見せる。

 しかし、テミスの反応を慮ってか、二人はただ会釈をするに留めてヴァイセの様子を窺っていた。


「あ~……まぁ、こんな事(・・・・)されちゃ、緊張もしちゃうよね。ごめんね? 躾がなって無くてサ……。ホラ、君たち……いつまでそうしているつもりだい?」

「~~っ!!!! しっ……失礼いたしましたァッッ!!!」


 ヴァイセがその切れ長な目を、柔らかな言葉と共に衛兵達に向ける。すると、それまで固唾を呑んで様子を見守っていた衛兵たちは、明らかな恐怖の悲鳴を漏らしながら、蜘蛛の子を散らすように門の方へと走り去っていく。


「んん? 別に謝らなくていいのに。君達の謝罪なんて何の意味も無いんだからサ」


 そう涼し気に嘯くと、ヴァイセは緩やかな動きでポケットから手を引き抜いて、走り去る衛兵たちの背へ向けて掌を翳す。

 直後。ヴァイセが翳した掌の先の景色が微かに歪んだ瞬間。


「っ――!!」


 バシィッ! と。

 瞬時に距離を詰めたテミスの手が、横合いからヴァイセの腕を掴んでその照準(・・)を逸らした。


「まったく……痛いなぁ。こんな事しなくても、別に彼等に酷い事なんてしないのに……」

「そう云うのを、私達は語るに落ちた……って言うのではなかったか? そんな事よりも、迎えに来たのならば、早く案内をして貰いたいのだがな」

「…………。ふぅん。ま、いいケド。じゃあついておいで。でも、そうか……君は優しいんだね」


 テミスが皮肉気に口元を歪めてそう告げると、ヴァイセは掴まれた腕を振り払って口を開く。

 そして、微かに邪気を孕んだ瞳をテミスに向けた後、ヴァイセはテミス達の返事を待ちもせずにゆっくりと歩き出したのだった。

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