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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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421話 気高き世界

「さて……と……」


 レイ率いる徴税部隊が去り、村の住人達が日常へと戻っていった頃。

 テミスは身を潜めていた畑からようやく身を起こすと、澄ました顔で言一息をついた。


「テミス様……。一つだけ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「ン……?」


 そんなテミスに、深刻な面持ちを浮かべたサキュドが、静かな声で問いかける。


「あのカナタとか言う人間……テミス様のご趣味(・・・)に合う事は重々承知しております。ですが……私にお任せいただけませんでしょうか? あのような下種、テミス様が手を下す価値など……」

「ククッ……」


 しかし、真剣な表情のサキュドとは裏腹に、その問いを聞いたテミスは何故か楽し気に頬を歪めて笑いを漏らした。

 恐らく、サキュドのこの問いは、気まぐれな彼女が珍しく見せた深い忠義から出た物なのだろう。

 確かに。サキュド達にも『誇り』という概念がある以上、あのこの世の汚濁を煮しめた様な男に、肉袋以上の価値を見出す事は難しい事くらいは察しがつく。だが、幾ら憎かろうが、現実から目を背けては為すべきことを為す事は出来ない。


「任せる……? お前に?」

「っ――!!」


 ビクリ。と。

 ニヤリと思いっ切り頬を吊り上げたテミスは、サキュドの目をじろりと睨みつけて問いを放つ。

 しかしその問いは、言葉の上では問い返す形式を則てはいたが、そこに含まれている意味合いは叱責だった。


「見誤るなよ? サキュド。いかに奴の人格と性格が腐り果てていても、それに囚われて事実から目を背ける事は私が許さん」

「事……実……?」

「そう……事実だ。私とて、認め難いほどに業腹だが、奴が私同様に転生者である事実は変わらん。ならば恐らく、その強さも折り紙付きだ」

「そんなっ……!! 同胞をも虐げる斯様な下種が、テミス様と同じなど……!!」


 まるで突き付けるように放たれたテミスの言葉に、サキュドは弱々しく首を横に振りながら口を開いた。その瞳には、カナタへの静かな怒りと、受け入れがたい事実への悲しみが揺蕩っていた。


「……サキュドさん。テミスさんの言っている事は正しいと……思います」

「関係無いわ。アンタは黙ってて」

「関係は……ありますよ。僕だってあんなのが同類(・・)だなんて認めたくはないです」


 その心中は激情と冷徹さがないまぜになっているのだろう、静かに口を挟んだミコトに、サキュドはピシャリと冷たい声で言葉を叩き付けた。

 けれど、ミコトははかなげな微笑みを浮かべて冷静にサキュドへと言葉を返す。


「ですが……あの横柄な態度は、自分の強さにかなりの自信があるからこそでしょう。なら、少なくとも侮ってかかる事ができる相手ではないと思います」

「っ……!!」


 サキュドはミコトの言葉に臍を噛むと、苛立ちを露わにして視線を逸らして口を噤む。 

 ミコトの言葉は正しい。事実、彼もテミス様と同じ転生者であるし、その着眼点にも間違いは無い。けれど何故、ミコトに言い返す事すら出来ない事が、こんなにも悔しいのだろうか。


「…………」


 だが、目に涙を溜め、唇を噛んで黙り込んだサキュドを見て、テミスは僅かに頬を緩めていた。

 まさか、サキュドを相手にこんな思いを抱く日が来るとは夢にも思っていなかった。

 サキュドは溢れる忠義が故に盲目的になっただけであり、別にカナタの事を侮って居た訳では無いはずだ。だがそれは、この世界で初めてできた部下であるサキュドとテミスだけがわかる事であり、外側から見ればどちらも等しく映るのだろう。

 けれど、テミスは何故かその事がたまらなく嬉しく思えたのだ。


「なぁ、ミコト……」


 テミスは小さく微笑みを浮かべると、信頼を込めてサキュドの肩へ手を乗せながら、先程までとは打って変わって優し気な声色で言葉を続けた。


「私は、少しだけ思い違いをしていたようだ」

「えっ……?」


 ミコトはテミスの言葉に目を丸くすると、首を傾げてその続きを待った。同様に、サキュドもまた困惑の表情でテミスの顔を見つめている。


「転生者にとって、この世界はあくまでも異世界だ。だが、私は軍団長のテミスであり、お前はミコト・クラウチ少尉だ……違うか?」

「っ……!!」


 まるで、忘れていた何かを思い出したかのように、ミコトはピクリと肩を震わせると、テミスの言葉に目を見開いた。

 そう。暴力に縁遠いあの世界ならば、幾ばくかの刃物を振りかざせばその力で場を支配する事は出来ただろう。だが、ここはあの世界とは違うのだ。ただの人間がナイフや鉈を振り上げた所で、その強さはたかだか知れている。

 故に、暴虐を振りまいているヤツが、転生者として得た強力な力を持っている事はほぼ間違い無いだろう。


我々の世界(・・・・・)に同郷の者が狼藉を働くならば、我々がその尻拭いをするのは必然さ。だから、サキュド……お前にも手を貸して欲しい」

「ぁ……」


 テミスが言葉を紡ぎ終えると、サキュドは小さく声を漏らしてテミスを見上げてコクコクと頷いていた。

 ヤツがいかに強力な力を持っていようと、他者を虐げ、踏みつけにするその行為は到底許されるものではない。


「……ならば、この世界の(・・・・・)流儀・・を骨の髄まで叩き込んでやる。その腐り果てた心が折れ砕けるまでな」

「任務……了解しました。テミス様」

「あー……ハハハ……。でも、ひとまずは先行している方々と合流しましょう」


 そう言葉を交わすと、三者は三様の表情で頷き合うと、颯爽と消え去ったトラックの後を追って歩き出したのだった。

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