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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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419話 擦れ違う因縁

 翌朝。

 テミス達はゲルドイの忠告通り、日の昇る前に町を出て、村の近くの畑の中に身を潜めていた。


「テ……テミスさん? 本当にここで良いんですか?」

「ああ。サキュドも、いつでも戦闘ができるように準備しておいてくれ」

「はい。準備はいつでも万全ですとも」


 背が高い作物と雑草が生い茂った畑の中で、テミスは村へ目を凝らしながら二人と言葉を交わす。

 ミコトの懸念は尤もだった。今、テミス達が隠れているのは、ゲルドイに教えられた畑ではない。ゲルドイが進めた場所よりも更に一区画村に近い畑……いっとう荒れたその区画を、テミスは潜伏場所として選択したのだ。


「ゲルドイの奴がいつ裏切らんとも限らん……。そもそも、村の住人が敵ならば、ゲルドイごと我々を突き出す腹積もりの可能性もある。ならば、奴が口を割った場合も考えるべきだ」


 自称・選民達の到着を待ちながら、テミス達は周囲に気を配りながら村の監視を続けた。

 確かに、こうして遠目で見ているだけでも村人たちはあわただしく動き回り、今日という日がただの日常ではない事が見て取れる。


「ンッ……!?」


 ぴくり。と。

 不意にテミスが村の方向から視線を外し、ヤマトへと続く道へ目を凝らす。

 そこには、未だ姿は見えないが、微かに空気を震わせる機械の駆動音が、徐々に大きさを増して近付いてくるのがわかる。


「来た……みたいですね……」

「ハッ……朝早くから略奪とは勤勉な事だ」


 ミコトの呟きにテミスは皮肉を返すと、更に身を屈めて道の先へと意識を集中する。

 そのまましばらく待つと、機械の駆動音に地を擦る車輪の音が混じりはじめ、テミス達の目の前を、数台の武骨な屋根の無いトラックのような形の車が通り過ぎていった。


「――っ!!!!! あれ……はっ……!!」

「っ……!! 何て速度……!!」


 不意にテミス達が声を漏らした傍らで、車列を見たサキュドも小さくうめき声を上げる。

 電車に自動車……今回の旅はサキュドにとって、驚愕の連続なのだろう。

 だが、テミスが驚愕していたのは全く別の事柄だった。


「何故……!! どうして……」

「……? テミスさん?」

「テミス……様?」


 目を見開き、遂には全身をわなわなと震えさせはじめたテミスの異変に、車列を目で追っていた二人が気付いて声をかける。

 しかし、テミスがそれに答える事は無く、食い入るように車列に目を向けたままその身を震わせていた。


 ――あり得ない。そんな事が、あってはいけない。


 テミスの脳裏に、拒絶と視界が明滅する程の怒りが交互に押し寄せて来る。


 ――そうだ。きっと、何かの見間違いだ。他人の空似だという可能性もある。


 幾ら否定して尚、テミスの直感は今見たモノを現実だと声高に叫んでいた。理性が幾ら否定したところで、一瞬で視界にこびり付いた()の顔が、嫌悪と共にかつての記憶を呼び起こした。


「何で……お前は……確かに私が殺したはず……」


 ガチャリ。と。

 震える声で呟くテミスが見守る先で、停車した車の中からその男は姿を現した。

 逆立った髪に豚のように潰れた鼻。そして、腐ったように血色の悪い唇と陰気な眼鏡……その風貌はあの時(・・・)のままだった。


「ちょっと……いったいどうし――っ!!?」


 囁き声でテミスの体を揺さぶるミコトの手を、テミスの右手がまるで握り潰そうとしているかの如く思い切り掴んで握り締める。

 同時に、残った左手は自らの体を抱き締め、テミスは必死で何かを抑えるようにメキメキと歯を食いしばった。


「サキュ……ド……。私を押さえて、決して離すな……ッッ!! な……何が……あろうとだ……ッ!!!」

「――!? は……はい……!!」


 一瞬、テミスの奇異な命令に戸惑いを見えるも、サキュドは即座に命に従った。

 テミスの肩に置かれたミコトの手の上から、まるで背後から抱き寄せるようにしてテミスの身体を組み伏せる。


「っ――!!」


 咄嗟の行動であったからか……それとも、サキュドが忠実に命令を守ったからか……。その強さは、テミスとサキュドの身体に手を挟まれる形となったミコトが、メキメキと万力のように締め付けられる自らの手に鈍い痛みを覚える程だった。


「サキュドさん……!! やり過ぎ――」

「――それでいい。絶対に……離すなよ……? 私を……殺す気で押さえつけろ!」


 そのあまりの力強さに、ミコトが咄嗟に止めようとするが、テミスは額に青筋を浮かべたままそれを制すると、修羅の形相で降車してきた男を睨み付け続けていた。


「ノジマ……カナタァッ……!!!」


 同時に、固く食いしばられたテミスの口から、地獄のような怨嗟と怒りの籠った呟きが、漏れ出すように零されたのだった。

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