411話 情報を求めて
ファントの町から出立して数刻後。
テミス達一行は、予定通りデュオニーズの町へと着いていた。
時刻は丁度、真昼を少し過ぎたくらいの頃合いで、町はそれなりの賑わいを見せている。
「うわぁ……何と言うか――」
「――言いたい事はわかるわよ? いかにファ……私達の町が素晴らしいか……でしょう?」
「え……えぇ……。まぁ……」
フフン。と。
ミコトの漏らしかけた感想を遮って、サキュドが胸を張って得意気な笑みを浮かべる。
ミコトが苦笑いを浮かべている辺り、本当に言いたかった感想では無いのだろうが……。
「まぁ……アレだ。浮かれるのは構わんが、あまり余計な事を口走るなよ?」
「ウッ……。ハイ……申し訳ありません……」
軽いため息を吐きながら、テミスは言外でサキュドに釘を刺した。
仮にも、ここは敵地なのだ。ついうっかり、ファントの名を口にようものなら、どんな面倒事が降りかかってくるかわかったものでは無い。
「それでは、各自分かれて情報収集にあたってくれ。今夜の宿はこちらで手配しておく。夕刻頃にはギルドで落ち合おう」
「ハッ!」
「了解です」
テミスはそう告げてサキュドとミコトと別れると、自らは一足先に冒険者ギルドへと足を向ける。
宿を手配する必要もあるが、何より冒険者としての肩書を生かして情報を集めるのならば、ここが一番手っ取り早いだろう。
「フム……」
年季の入った建物が立ち並ぶ中を少し進んでいくと、テミスは即座に目的の建物を発見した。
黒ずんだ木造の建物の中に突然、レンガ造りの大きな建物が現れたのだ。
外壁こそ煤けているものの、その建材自体の違いからくる存在感を消す事は出来ず、周囲の風景から完全に浮いてしまっている。
「まさに……国家とギルドが運営を異にする証拠のような風景だな……。それが良い事なのか悪い事なのかは、私は知らんが……」
テミスはそう通夜きながら戸を押し開け、ギルドの中へと足を踏み入れる。
そこには、トラキアの町で見たギルドと似た作りの内装が広がっており、閑散としたホールでは、ギルドの職員たちが気怠そうに仕事に励んでいた。
「すまない……今夜連れとこの町に逗留したいのだが、三部屋空きはあるか?」
「……冒険者の方ですか? でしたら、ギルドカードを」
「ン……」
そのままテミスは奥のカウンターに歩み寄り、作業をする職員へ声をかける。しかし、職員はテミスの方を一瞥すらせずに事務的な言葉を返した。だが、返された言葉にテミスは、ただ小さく頷いて以前作成したギルドカードを提示する。
「フフ……」
仕事に切りがつくまで進めるつもりなのだろう。職員は差し出されたギルドカードを放置し、書類にペンを走らせ続けている。
テミスはそれを眺めながら秘かに笑顔を零すと、心の中でこの場にサキュドを連れて来なかった自らの英断を褒め称えていた。
しかし、久しくこういった機械的と言っていい程に事務的な対応を受けたが、なかなかどうして懐かしいものがある。魔王領では名が知れてしまっているせいもあってどうしても気を遣わせてしまうのだ。
「名前は……テミスさん。ランクは……Sランクッ!!?」
勧めていた仕事にキリが付いたのか、職員はテミスの顔に見向きもせずにギルドカードへ手を伸ばし、新たに取り出した書類に何やら書き写していく。
だが、突如ブツブツと呟かれていた声が裏返り、職員は飛び上がって驚くと初めてテミスの方へと顔を向ける。
「ン……? どうした? 何か不備でもあったか?」
「い……イエッ! ですが……何故Sランクの冒険者様がこんな町に……」
「ん~……旅の途中でな。情報収集も兼ねているんだ」
「なる……ほど……」
職員はテミスの言葉に対して曖昧に頷くと、丁寧な手つきでギルドカードを差し出して返してくる。
正直、こうもわかりやすく掌を返されると、やりにくくて仕方が無いのだが……。
「お部屋は二階の一番奥の三部屋でお取りしました。こちらが鍵でございます。それで……ええと……何か依頼を請けて行かれますか?」
「いや。すまないが今回は泊まるだけだ。ところで、ここからヤマ……アルティアへ向かいたいのだが、情勢はどうだろうか?」
「アルテ……って、ヤマトッ!? あの……失礼ですが、正気ですかっ?」
職員はテミスの問いに再び声を裏返らせると、目を白黒させてテミスへ問い返した。
確かに、フリーディアの情報通りの町ならば、わざわざ近寄ろうとするような物好きは、転生者くらいしか居ないだろうが……。
「あぁ無論承知の上だ。知り合いがどうやらそのヤマトへ向かったようなんだ。だが、ヤマト自体にいい噂を聞かないだろう? だから、道中の情勢も調べたくてな……」
「な……なるほど……。そういったご事情でしたか……。でしたら、この町ではなく、隣のパルマノーへ向かわれた方がよろしいかと。デュオニーズより遥かに大きな町ですし、ウチで集めるよりも情報は手に入るかと思います」
「フム……」
職員の言葉に、テミスは顎に手を当てて思案を開始する。
できれば、勝手を知らない大都市へ乗り込むのは避けたいが、ここで断るのも逆に不自然だろう。ならば……。
そして、早急に結論を出し、口を開きかけた刹那――。
「おう! テミスじゃねぇか。久々だなぁ?」
「――っ!?」
背後から、聞き覚えのある粗野な声が投げかけられたのだった。




