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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第10章

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422/2302

410話 期待と重圧の狭間で

「では……後を頼むぞ。マグヌス」

「……ハッ!! お任せください」

「ああ。信じているぞ(・・・・・・)


 翌日。

 サキュド・ミコトの両名と並び立ったテミスは、ファントの町の門に背を向けてそう告げると、小さく微笑んでマグヌスへ視線を向けた。

 その目にはこれ以上ない程の信頼の色が浮かんでおり、それを受けるマグヌスは誇らしげな笑みを浮かべてコクリと頷く。


「フッ……」


 我ながら、今の鼓舞は上手く行ったのではないだろうか。

 テミスはマグヌスへ笑顔を向けたまま、その好感触に胸中で手を握り締めていた。


 今まで、私は軍団の士気の高さに甘え、こういった個々のメンタルケアを疎かにしていた。

 その結果が、先日のサキュドの暴走であり、今回こそいい方向に転がったものの、次回も上手く事が運ぶ保障など無い。

 そう考えたテミスは、第一の施策としてサキュドと共に副官を務めるマグヌスを鼓舞する為、素直な信頼をわざわざ口にしていた。


「今回の作戦は少しばかり時間がかかる可能性がある上に、隠密性を重視する。故に、これ以上戦力を此方に割く訳にはいかない。私がこの町を空ける間、この町を守る全ての指揮権をマグヌス……お前に預けるぞ」


 ここまで言えば、流石のマグヌスでも、私が十全に信頼を寄せている事が伝わらうだろう。

 結局、サキュドはその熱意と編み出した術式の有用性を認めて同行を許可したが、そうすると今度は相方のマグヌスが心配なのだ。

 彼等がこれまで、同じ副官と言う立場で切磋琢磨してきたことは知っている。

 だからこそ、今回の作戦にサキュドが同行する事によって、二人の関係に変化が訪れてしまう事だけは避けねばならない。

 そう考えたからこそ、テミスはあえて過剰なまでの期待を口にしたのだが……。


「っ……!!! テミス様から戴いた大役、このマグヌス……命に代えてもッッ!!」


 その一方で、テミスの内心など想像だにしていないマグヌスは、心の底から震えあがっていた。

 以前、テミスが町を空けた際。マグヌス達は留守を任されたにも関わらず、ライゼルと手を組んだドロシーに追い詰められ、その窮地をフリーディアと共に駆け付けたテミスによって救われている。

 故に。再びテミスがファントの町を空けるタイミングで、これ程にまで念を押すという事はつまり……。


 ――次は無い。……そう仰りたいのですね? テミス様ッ!!


 マグヌスは頬に薄い冷や汗を流しながら、その内心を慮って戦慄と緊張を高めていく。

 皮肉にもテミスが言葉を重ねるごとに、その真意とは真逆にマグヌスは緊張と戦慄を高めていく。

 そんな様子を、人間の少女の姿に化けたサキュドとミコトは半ば呆れた顔で眺めていた。


「フム……では、そろそろ行くとしようか」

「ア……ハイ。それで……今日はどちらまで向かわれるおつもりですか? 早馬で向かうとはいえ、ヤマトまでは距離がありますが……」


 テミスは存分にマグヌスを鼓舞(・・)した後、その背に緊張に打ち震えながら見送るマグヌスの視線を受けながらゆっくりと歩み始める。

 それに歩みを寄せたサキュドは、マグヌスにニヤリと意味深な笑みを一つ残して問いを投げかける。

 その一方で、ミコトはマグヌスに一礼すると、若干の憐れみを覚えながら二人の背を追った。


「そうだな……まずはこのまま国境線を北上してデュオニーズへ向かう」

「デュオニーズ……ですか……」

「あぁ。我々にとってはある意味で因縁深い町だが、これより先へ進む前に一度情報を仕入れておきたいのでな」


 サキュドの問いにテミスは柔らかく微笑むと、ヒラリと門の外に待たせておいた馬の背に飛び乗って答えを返す。

 ファントからデュオニーズまでは、早馬を使うのならば数時間ほどで着くだろう。先を急ぐのならば、野営をしてでももっと先へ進むべきだ。

 だが、デュオニーズより先はテミスすらも訪れた事の無い地であり、何が待ち受けているのか皆目見当も付かない。

 依頼人であるフリーディアが同行して居れば話はまた別なのだろうが、急いでいる時こそ慎重に事を運ぶ必要がある。


「ン……あぁ。そうだ……」


 サキュドの問いに答えた後、その姿を見たテミスは何かを思い出したかのように軽く目を開くと、慣れた手つきで騎乗を終えて歩み寄るサキュドへ微笑みかけて言葉を続ける。

 そう言えば、作戦の立案や準備でバタバタしていて、当のサキュドの新たな実力を褒めてやるのを忘れていた。


「その擬態。見事だ。何処から見ても人間にしか見えんよ……。余程の実力者でなければ、それを見破るのは難しいだろう」

「っ~~~……!!」


 しかし、テミスの言葉を受けたサキュドはビクリと背を震わせると、何かを堪えるように馬の上で身悶える。


「ハハ……」


 再び始まった騎士感を覚えるやり取りを遠目で眺めながら、決して巻き込まれるまいと心に誓い、ミコトは乾いた笑みを浮かべるのだった。

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