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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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399話 積み上げられる金貨

「追手の事ならばご安心を……優秀な()のお陰で、ここまでは追って来られませんよ」

「フン……どうだか……」


 笑顔で告げたトーマスの言葉を、テミスは冷たい声色で切って捨てる。

 トーマスの自己紹介により急転した事態を落ち着ける為、テミス達は一度話し合いの場を設ける事とした。

 ただし、テミス達は武器を収めはしたものの、トーマスとの距離は取ったまま、精神防壁の展開も維持していた。


「そもそも、お前がレオンの上司である証拠も無い。付け加えて言わせて貰うと、交渉の席に着くと言うのならば、まずはそこのマグヌスを解放するべきではないのか?」


 結局。向かい合う形で退治したテミスとトーマスは、武器こそ携えていないものの、その間に流れる空気は険悪そのもので、とてもこれから交渉をしようとしている者達の雰囲気とは思えなかった。


「あぁ……確かに、そうですね。では……」

「…………。っ……。ここは……テミス……様ッ!?」


 トーマスはテミスの言葉に頷くと、目の前でパチンと指を鳴らしてみせる。

 直後。トーマスの傍らに控えていたマグヌスがビクリと体を震わせ、目を白黒させて周囲を見渡した。


「……サキュド」

「畏まりました」


 その様子を、苦虫を噛み潰したかのような顔で眺めていたテミスは、小さな声でサキュドの名を呼ぶ。そこには、『表面上は治ったようだが、まだ術の影響下にあるかもしれないから、お前が連れて様子を見るように』という意味が込められていたのだが、名を呼ばれたサキュドは正確に主の意図を汲み取り、無言でマグヌスの手を引いて十三軍団の兵たちの後ろへと下がっていく。


「私がこう言うのも何ですが……」

「……?」

「彼の事。責めないで上げて下さい。私としても、この力を使う事は本意では無かったのですよ」


 その巨躯を丸め、小さな姿のサキュドに導かれるマグヌスの背に視線を向けながら、トーマスがそう言葉を添えた。

 確かに、マグヌスがただでトーマスを通すとは考え辛い。しかし結果として、こうしてテミス達の前へ連れてきてしまった以上、元凶であるトーマスがいくら言葉を重ねても、それはただの皮肉にしかならない。むしろ、たとえ善意から出た言葉であったとしても、そこに戦略の余地を疑わせてしまう。


「それはこちらの問題だ。口出し無用に願おうか」

「……ご随意に」


 故に、トーマス自身もその事を理解しているのか、取り付く島もない返答を返したテミスに、彼もまた微笑と共に頷きを返す。

 そして、小さく息を吐いた後、こちらが本命であると言わんばかりに、わざとらしくタメを作って口を開いた。


「そして……もう一つ。私の真贋を付けたい……。そうですね?」

「っ……。ああ。だが、無実の証明ほど難しい物は無い。できるものならば――」

「――フフ。簡単ですよ」


 憮然とした表情で告げるテミスに、トーマスは柔和な笑みを深めて不敵なものへと作り替え、即座に断言する。

 その自信漲る態度に、テミスは秘かに胸中の警戒を強めた。

 どうせ自分から言い出したのだ。ある程度の策があっての事だと予見はしていたが、まさか屁理屈の一つすら捏ねずに真っ向から向かって来るとは……。


 ――嫌な感じだ。


 その姿はまるで、あの世界(・・・・)で正義を司っていた連中が見せる、ただ正論と確立する事のできた証拠を並べ立てるだけの機械的なものを連想させた。


「来なさい。ミコト」

「はい」

「っ――!! お前は……」


 トーマスが洞窟の入り口の方を振り返って告げると、聞き覚えのある声と共に、先程戦場で相見えたはずのミコトが姿を現した。

 ミコトは驚きを現すテミスをよそにトーマスの傍らまで歩を進める。そして、小さな笑みをテミスへ向けると、軍靴を鳴らして姿勢を正す。


「エルトニア軍特務小隊所属。ミコト・クラウチ少尉です」

「……。……それで? 彼を引き摺り出したからといって何だと言うのだ? トーマスと言ったか……お前が精神支配系の術を使うと分かった以上、そこのミコトがお前の支配下に無いとは言い切れない」

「えぇ……。それは勿論。ですが彼等の報告では、どうやらあなたはレオン達と同郷らしい……。ならば、テミスさん。あなたにもわかるはずです。ミコト……教えて差し上げなさい」

「……はい」


 意味深な笑みを浮かべたトーマスがそう告げると、ミコトはテミスの前へ進み出てその目を見つめる。

 そして、一拍の空白の後。ミコトの瞳が微かな緊張の色を孕み、口を開く。


「僕の能力(チカラ)は分解と再構成。この力を以て僕は、あなたが崩落させた瓦礫の山を抜け、そして組み直して来ました」

「っ……!!!! お前は……何を……?」


 そう覚悟の籠った声色で静かに告げられたミコト言葉に、テミスはただただ驚愕のあまり言葉を失ったのだった。

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