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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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398話 笑う道化

 男が姿を現した刹那。休息中だった十三軍団に衝撃が走った。

 まず、真っ先に動いたのはテミスだった。手元に引き寄せていた大剣を一瞬で抜き放ち、その切っ先を男へ向けて構えを取る。

 続けて、須臾の間の後サキュドがテミスに続き、異変に気付いた兵士たちが次々と臨戦態勢に移っていく。


「テ……テミス様ッ!! 何をなさっているのですかッ!?」

「それはこちらの台詞だマグヌス! 貴様……どういうつもりだ?」


 マグヌスは殺気立つテミス達から男を庇うように進み出ると、焦りと困惑の混じった表情で問いかける。

 しかし、そんなマグヌスにすらテミスは刃の切先を向け、低い声で問い返す。

 緊張が高まり、重たい沈黙が洞窟の中へ流れるが、剣を向けられて尚マグヌスはテミス達へ向かって言葉を重ねた。


「彼は商人です。大きな商隊ではありませんが、我々も消耗していますし、渡りに船かとこちらへ案内したのです」

「ホゥ……? ならば問うが、今お前たちはエルトニアの側から現れたな? ならば、我々が追い越したという事になるが――」

「――隠れていたのですよ。よもやこんな所まで戦火が広がってくるなど……予想もしていませんでしたから」


 マグヌスへの問いを遮って、口を挟んだ男が揉み手をしながらゆっくりとテミスへ近づいて行く。しかし、傍らのサキュドが無言で突き出した槍の穂先がその進行を阻み、男は両手を小さく挙げて数歩後ずさりをした。


「フン……茶番だな。少しは考えろマグヌス。お前らしくも無い。渓谷の出入り口は崩落中だ。それに、その裏側ではエルトニア軍の連中が詰めている筈……とても一般人が通行などできまいよ」

「ですが……」

「それにだ。たかだか一介の商人が、我々の目を欺く程の潜伏能力を持つか?」

「しかしっ……!」

「……?」


 ここまで話をししてようやく、テミスはマグヌスの異変に気が付いた。

 いつものマグヌスであれば、間違えることは多々あれど、指摘をしてやれば即座に己が非を認めて引き下がる筈……。

 だと言うのに、今のマグヌスは要領を得ない反論の言葉ばかりを重ね、反抗している。

 それが意味する事はつまり――。


「っ――!!! 総員ッ!! 精神防壁展開ッッ!!」


 ぞわり。と。

 テミスは信じられない程強烈な悪寒を感じた瞬間。鬼のような形相で、全部隊へ向けて命令を発していた。

 直後。普段の訓練の賜物か、テミスの声に即応したマグヌスを除く部隊の全員が、防御術式を展開して事なきを得る。


「っ……馬鹿がッ……!!」


 その後、テミスの口から吐き捨てられた言葉は、マグヌスを叱るものであると同時に、直接的な攻撃だけに思考を囚われ、こういった搦め手まで思考の至らなかった自分の迂闊さを呪ったものでもあった。


「参考までに……」


 テミス達十三軍団が完全な臨戦態勢に入ると、サキュドに槍を向けられた男が一歩前へ進み出て、その顔に柔和な笑みを浮かべながら口を開いた。


「参考までに、教えてくれませんか? 何故、彼が私の術中にある事がわかったのか」

「フン……あり得ないんだよ。如何な可能性を手繰った所で、正気のマグヌスがお前達をここへ連れて来るなんて事はな……」


 男の問いにテミスは大剣を音を立てて地面へ突き立てると、鼻を鳴らして答えを返す。しかし、その目は既に先を見据えており、冷静な仮面を被った裏側で、テミスは必至で思考を回転させていた。

 おおかた、この手の連中が次に採る手段など決まっている。既に術中にあるマグヌスを人質に取るか、操っての相打ち狙い。

 どちらにしても、腹心の部下をこんな所で失うつもりは毛頭無いし、だからと言って降伏なんて選択肢は以ての外だ。

 ならば、一撃でこの慇懃無礼な男の命を断つ他に手段は無い。


「ん……? おや……? 失礼。何かを勘違いされていませんか?」

「…………」


 男はピリピリと殺気立ったテミスへ、ニッコリと笑いかけながら首を傾げて問いを重ねる。

 しかし、それすら男の術であると断じたテミスは、かけられた言葉を黙殺して機を待ち続けた。

 勝負は一瞬だ。奴が私の間合いへ立ち入った瞬間。あの無性に腹が立つニヤケ顔にこの剣を叩き込む。

 だが、そんなテミスの意図すら読み切ったかの如く、男はサキュドやテミスへ向けて数歩近寄るも、その間合いの一歩外で立ち止まって言葉を続けた。


「おっかしいなぁ……? レオン達から聞いていませんか? 話し合いの合意は得たと報告を受けたはずなのですが……」

「何……?」


 その紡がれた内容に、流石のテミスもピクリと眉を動かし、剣の柄を握り締める手に更なる力が加わる。


「私の名はトーマス。レオン達エルトニア軍特務小隊の専属将校にして指揮官。まぁ……早い話が彼等直属の上司ですよ。ちなみに……階級は大佐です」


 その士官らしからぬ、あまりに悠然とした態度に息を呑むテミス達の前で、トーマスは相も変わらず胡散臭い笑みを浮かべながら、大仰な手ぶりで自己紹介を終えたのだった。

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