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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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385話 武勇の恩賞

「申し訳ありませんでしたっ!!」


 怒り心頭のテミスが魔王軍南方司令部まで戻ったのを、真っ先に出迎えたのは見覚えのない三人の騎士達だった。

 彼等はテミス達の張った野営陣の前で待機していたらしく、陣の入り口でその頭を深々と下げている。


「謝罪をするときは、何を謝罪しているのか明白にしろと教わらなかったのか? それとも、ただ謝るためだけに使わされた捨て駒か?」

「――っ!」


 ギラリ。と。

 予定に無い方面軍の撤退のせいで、自らの部隊を窮地に立たされたテミスは、その苛立ちをも込めて頭を下げる三人を鋭く睨みつけた。

 その後ろでは、テミスと共に帰還した十三軍団の面々が、道を塞ぐテミス達を避けて、各々に怪我人を担いですり抜けていく。


「そもそもだ。私はお前達に会った事は無い筈だ。此度の勝手な撤退がお前たちの独断だと言うのなら、この場で切って捨てられても文句はあるまいな?」

「いやっ――それはっ……!!」


 剣呑な雰囲気を纏ったテミスが、そう言葉を紡ぎながら己が右手を背負った大剣の柄へと伸びる。同時に、頭を下げた騎士達の手がピクリと跳ねかけるも、彼等はその反射的な動きすら押し込めて頭を下げ続けた。


「その辺で勘弁してやってくれないか? テミス。勘違いで部下を斬られては私が堪らない」

「……ルカか。という事は彼等が?」


 きっと、それまで身を潜めていたのだろう。騎士達の背後にある天幕の影から、言葉と共にゆっくりとルカが姿を現した。しかし、ルカが気配すら感じさせずに現れたにも関わらず、テミスは柄へ伸びた手を降ろして騎士達を示して問いかける。


「ああ。紹介が遅くなってすまない。彼等が私の副官にして、三騎聖と呼ばれる騎士達だ」

「……お初にお目にかかりますテミス軍団長。私はティマイオス。第六軍団にてルカ様の副官を任ぜられております」

「同じく、クリティアスです。テミス軍団長。この度の我等の非礼、心より謝罪致します」

「同じく、ヘルモクラス。先の戦での武勇お見事でございます」


 苦笑いと共に頷いたルカが話を進めると、腰を折った騎士達は再び頭を下げて口々に名を名乗りはじめる。

 つまりは、ルカが十三軍団を支援する事に反対していた三騎聖の疑念は、無事に晴らせたという事だろう。

 だが、敗走した戦でこう持ち上げられても、素直に喜べたものでは無い。


「お前達の謝意は解ったさ。そもそも、そこに関してはたいして気にもしていなかったしな」

「なんと寛大な……感謝いたします」


 つまらなさそうにテミスが告げると、騎士達は感激の涙を浮かべて声を漏らし、三度深々と腰を折って礼を述べる。


「あ~……いや、テミスが言っているのはそういう意味ではないと思うがな……」

「えっ……?」

「ん? ああ。敵として立ちはだかるのならば斬るだけだ」

「っ……!!」


 テミスはルカの言葉をサラリと肯定し、それが当たり前であるかのごとく凶悪な微笑を浮かべた。

 そもそも、陣営が同じだからと言って、悪意を向けてくる相手に容赦をする必要など無いだろうに。

 けれど、騎士達には思いのほかにショックが大きかったのか、先ほどの感涙をかなぐり捨てて乾いた笑みを浮かべていた。


「それよりも……だ。仮にも我々は敵の手から逃れて逃げ帰ってきたのだ……それを武勇などと褒められては、少しばかり収まりが悪いぞ?」

「っ……」


 そんな空気を入れ替えるべく、テミスは先程覚えた感情を口にするが、今度はルカも一緒に目を丸くして黙り込んでしまう。

 何も間違った事は言っていないと思うのだが、なぜこうも珍生物を見るような目で見られなければならないのだろうか。


「あ~……その、すまない。一応確認させてくれ。それは、わざと嫌味を言っている訳では無いよな?」

「……? あぁ。確かにあの基地にはいくらかの損害は与えたが、個々の戦闘力で勝る我々だ。出せて当然の戦果だろう」

「……テミス軍団長。もしかして、知らされていないのですか……?」

「は……?」


 妙に食い違う話に、流石のテミスも違和感を覚えて首を傾げた。

 我々の攻略目標であったあの基地の損害は四割程度。威力偵察としては十分な戦果ではあるが、作戦の本旨だったであろう強襲電撃戦としては落第も良い所だろう。


「テミス、良いかい? よく聞くんだ」


 そんな風に首を傾げるテミスへ、まるで頭痛を堪えるかの如く頭に手を当てたルカが静かに口を開いた。


「エルトニアは魔導国家だ。独自に汎用化した魔法が広く普及している。数で攻めて来る中央線戦とは勝手が違うんだよ」

「ふむ……確かに、被害報告にしては戦果が少ないとは思っていたが……」

「っ~~……。テミス、君の部隊が規格外だと言う事は良く解った。今頃、こちらの司令部はさぞかし混乱しているだろうね。何せ、倍する戦力を有する基地に奇襲を仕掛けて、損害を与えた挙句生還したのだから」


 そうため息交じりに告げたルカの瞳には、呆れと諦観を混ぜ合わせたかのような生暖かい光が揺蕩っていたのだった。

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