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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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384話 セイギの力

「なっ……あっ……!?」


 吹き付ける魔力の奔流が収束した視界の先。テミスが居たはずの位置に立っていた場所を見たレオン達とマグヌス達は、そのあまりに異様な姿に思わず息を呑んだ。

 元より色素の薄かった白銀の髪は眩い純白へと変わり、その身に纏う甲冑も目を覆うほどの白い輝きを放っている。

 さらに、その手に握っていたはずの漆黒の大剣は、まるで斬馬刀が如き長さの長剣へと変わり、その刀身からは禍々しささえ感じられる純白の光が、しんしんと周囲へと染み出していた。

 だが、真に異なっているのは、変化した外見でも、その身から感じる絶大な力でもなく本質だった。それは、ヒトが持つ雰囲気と言い換えてもいいだろう。


 良くも悪くも、姿が変わる以前のテミスは人間的だった。

 怒り、笑い、悲しみ……。彼女が思う以上に、その感情は周囲へと伝わっており、それこそが彼女を彼女たらしめている一面でもあった。

 しかし、今のテミスにはそれが無い。

 あるのはただ、全てを否定し、拒絶し、塗り潰さんばかりの純白のみ。美しく、愛くるしい筈のその姿からさえも、今感じるのは恐怖のみだった。


 だからこそ。驚愕に打ちひしがれながらも、テミスの腹心であるサキュドとマグヌスは問いかけずには居られなかったのだろう。


「テ……ミス……様……?」

「っ……その……お姿……は……」


 震える声で、呟くように主の名を口にしたサキュドの声には明確な恐怖が宿っており、その言葉には言外に、目の前に現れたモノを自らの主と認められないと語っている。

 そんなサキュドの隣で、彼女の言葉を引き継ぐように問いかけたマグヌスさえも声を恐怖に染め、ガクガクと震える己が身を必死で持ち上げていた。


「ん……? あぁ、この姿ならば気にするな。どうせなら、相応しい外見にならねばと思ってな……」


 だが、テミスはマグヌス達の様子に柔らかく微笑むと、事も無さげにそう告げてから、体の前に掲げていた長剣を静かに降ろす。


「っぅ――!!」 


 その瞬間。

 ゴウッ――!! と。

 再び暴風のような魔力の奔流が前方を薙ぎ払い、そこに居た者達の全員が思わず目を閉ざした。

 ただ、剣を移動させただけ。

 ただそれだけだというのに。その圧倒的な力は、まるで全てを拒絶するかの如く強烈に周囲へと溢れ出した。


「安心しろ。すぐに終わる」

「――っ!!」

「ひっ……!!」

「チィッ……」

「クッ……」


 穏やかに。そして優し気に。静かに微笑んだテミスはマグヌス達に告げた。

 同時にそれは、レオン達に対する死刑宣告であり、テミスの意識が向いた途端、マグヌス達を襲うそれに倍する恐怖が一気に襲い掛かった。


「ひ……一つだけ……」

「ん……?」

「一つだけ……訊かせろ……」


 そんな、今にも発狂しそうな重圧の中で。

 レオンは恐怖に詰まる喉を無理矢理こじ開け、静かに問いかける。


「お前は……誰だ……?」

「クフ――ハハハハハッ!! あまりの恐怖に気でも狂ったのか? まぁいい、何度でも名乗ろう。故に魂に刻み付けろ。我が名はテミス……それが、お前たちを裁く者の名だッ!!」

「フッ……俺達を裁く……ね……」


 しかし、その名乗りを聞いた途端、レオンは挑発するように不敵な笑みを浮かべると、一歩テミスの方へと歩み寄って言葉を続ける。


「その姿と言い、まるで裁きの女神だな?」

「――っ!?」


 ピクリ。と。

 レオンの言葉を聞いた瞬間。テミスの眉が跳ねあがる。

 その反応はほんの微かではあったが、人間臭さが宿っていた。


「私が――」

「――報告ッ!! 報告ッ!! テミ……ス……様……?」


 直後。

 口を開きかけたテミスの言葉を遮って、一人の魔族が飛び込んで来る。

 しかし、テミスの姿を見るや否や言葉を失い、その雰囲気に気圧されてガクガクと恐怖に震え始めた。


「……? どうした? 続けろ」

「ヒッ……は、はいっ……!! こ……後方の部隊……。エルトニア軍前線にあたっていた友軍が撤退を始めました」

「何ィッ……!?」

「ヒィィッ!! も、申し訳ありませんッ!!? 命だけはどうかっ……!!」


 報告を聞いたテミスが声を荒げた瞬間。報告に来た魔族兵は震えあがって命乞いを始める。

 だが同時にその光景は、ただ変わり果てた主の姿を見つめている事しかできなかったサキュドとマグヌスには、一筋の光明が差したように見えた。

 その装いや雰囲気こそ変わってはいるが、まだ中身までは変わっていない。

 短いながらもそのやり取りには、二人にそれを願わせるだけの匂い(・・)があった。


「帰って良いぞ」

「何ィ……?」


 そんな、部下達の微かなゆるみに感付いたのか、レオンは構えていたガンブレードを腰へ納めて短く言い放つ。

 そして、ゆっくりと仲間たちの元へ戻りながら、眉を顰めるテミスへ向けて不敵な笑みと共に言葉を続けた。


「それだけの力だ……長くは持つまい。俺達とこの基地の兵を倒した後、前線に集まったエルトニアの兵を相手取る事ができるのか?」

「…………」


 レオンの問いに、テミスは沈黙を以て答えを返す。

 事実、力こそ湧き続けているものの、この異様な力がいつまで持つのか、それはテミス自身もわかってはいなかった。


「テミス様……御采配を……」

「っ……。チッ……」


 ズルリと体を起こしたマグヌスが呻くようにそう告げると、テミスは小さな舌打ちと共に能力を解除する。

 すると、氷が解けるのを早回しにしたかのように、みるみるうちに姿が戻り、手にしていた長剣も大剣に形を変えた。


「全軍に通達……退くぞ。マグヌスとサキュドを回収する。馬を寄越せ」

「――っ!? は……はいっ!!」


 苦々しく表情を歪めたテミスが命令を発すると、目を丸くした魔族兵は敬礼をした後、即座に身を翻して駆け出していく。

 その背を見送る事なく、剣を納めたテミスはマグヌスとサキュドを担ぎ上げ、それを少し離れて監視するレオン達を一瞥して背を向けた。


「これで貸し借りは無しだ。二度と会わない事を祈っているよ。……心無い化物と戦う気は無いからな」


 その背に投げかけられたレオンの言葉に、テミスは腹立たし気に舌打ちをしたのだった。


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