380話 剣戟舞踏
剣閃が迸り、激しい剣戟が奏でられる。
戦いを始めたマグヌス達と、レオン達の戦況は互角だった。
剛力を以て斬り込んだマグヌスの剣をレオンとファルトが打ち返し、そこに産まれた隙にミコトが弾丸を叩きこむ。
しかし、その弾丸は紅の槍によって弾かれた。同時に、サキュドは器用に槍を回転させると、返す刃をレオン達へ向けて薙ぎ払う。
だが、その刃は空中に現れた薄く光る透明な壁によって阻まれ、その狙いを果たす事は無い。
「クゥッ――!!」
「アハッ! そこっ!」
「――レオンッ!!」
そんな高度な打ち合いを、数度繰り返した頃だった。
唐竹を割るように放たれたマグヌスの一撃を受け止めたレオンの態勢が僅かに崩れ、すかさずそこへサキュドの紅槍が突き入れられる。
同時に、隣でマグヌスへ攻撃を仕掛けようとしていたファルトが、咄嗟にその対象をサキュドの槍へと切り替えて飛び込むと、体を回転させて切り上げるように斬撃を叩き込んだ。
「くっ――浅いッ!」
ギャリィンッ! と。
ひと際けたたましい金属音が響くと共に、サキュドとマグヌスが後ろへと退く事で、互いの間合いが開く。
互角であった戦いは、僅かにマグヌス達の優位に進みつつあった。
「っ……! ハァッ……ハァッ……あいつ等、なかなかやるじゃない……」
「ウム……」
退いた先で各々に太刀と槍を構え直しながら、サキュドとマグヌスは荒い息と共に言葉を交わす。
単純な戦力で言えば、マグヌス達の方が圧倒的である筈だった。
確かに、一般的な兵士たちに比べて彼等の能力は高い。だがその力は、テミスやフリーディアに比べれば小さなものだ。
けれど。
「……見事な連携だ」
レオン達を見据えたマグヌスは、称賛を込めて唸るように呟いた。
たとえ、個々の力が小さくても、レオン達はそれを束ねる事で、その戦力を何倍にも増幅させていた。
「痛ちちッ……よく言いやがるぜ。見事なのはお互い様だっての……ムカツク事にな」
「……ファルト。助かった」
その言葉に、ファルトが悪態を返しながら膝を付くと、その目の前に一足先に立ち上がったレオンの手が差し伸べられる。
見上げた先では、頬に浅い傷を負ったレオンが小さな笑みを浮かべていた。
「へっ……どうって事ねぇ!」
同時に、短く告げられた言葉に、ファルトはニヤリと笑みを浮かべた後、力強くその手を握って立ち上がる。
「その割には……剣が重そうだな?」
「ハンッ……気のせいだよ。お前こそ、頬……血ィ出てんぞ」
「フッ……問題無い」
肩を並べたレオン達は、互いに皮肉を交換しながら、改めて剣を構えてマグヌス達へ向き直った。
「……で? どうするよ?」
「そう……だな……」
顔を寄せて囁いたファルトの言葉に、レオンも声を落として目を細める。
正直、打つ手が無かった。
打ち合いの上ではギリギリの所で互角を保っているものの、均衡を崩す為の一手を打つ事ができない。否……正確には、打つ隙が無かった。
収束形態であれば、いかに相手の防御が固かろうと、その守りごと切り伏せるのは容易い事だ。だが、奴等が素直に斬撃を受けてくれる訳も無く、そもそも魔力を収束させる時間すら見当たらない。
かといって、拡散型の円状形態では威力不足だ。
「――っ!!」
刹那。
レオンの脳裏に、電撃の如き閃きが走った。
そうだ。何も、一撃で決着を付ける必要は無いのだ。
二つの技の、足りない所を補ってやれば……。
「その顔……何か思い付いたみたいだな?」
「あぁ。一つだけ、試してみる価値はある」
ファルトの問いに、レオンは不敵な笑みを浮かべると、自らのガンブレードを握り締めてコクリと頷いた。
そして、小さく後ろを振り返り、シャルロッテとミコトへ指示を告げる。
「シャルロッテとミコトはその場に待機だ。距離を詰める必要は無い……その代わり、俺の身をお前たちに預ける。ファルトには、残った方を任せる」
「――っ!! 了解!」
「……解ったわ! 任せて!!」
「応よッ!!」
すると瞬時に、自信に満ち溢れた答えが返ってきた。
以前ならばこんな事を口にした瞬間、二の句を告げる暇なく止められていたのだが……。だが今は、言葉に込められた仲間の信頼が、レオンの体に力をみなぎらせた。
「くふふっ……何か、仕掛けて来るみたいよ?」
「ウム……全霊を以て迎え撃つとしよう」
「んふふっ。よく言うわ?」
そんなレオン達を見据えて、サキュドとマグヌスが意味深に言葉を交わす。
同時に、二人はチラリと背後を確認した後、コクリと小さく頷いて、レオン達を迎撃すべく武器を構えた。
「こちらの準備も、あと少しみたいね……」
その視線の先。マグヌスとサキュドの背後では、大剣を自らの前に立てたテミスが、その刀身に手を添えて祈るように目を瞑っていたのだった。




