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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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379話 背中合わせの竜鬼

「……甘い」


 チィンッ! と。

 軽い金属音と共に、テミスの眼前を白刃が通り過ぎた。

 その赤熱した刃はテミスを狙って放たれた弾丸を両断し、その灼熱の息吹で瞬時に蒸発させる。


「ぐっ――」


 直後。

 テミスの顔面を熱風が襲った。その凄まじい熱さにテミスは反射的に目を瞑ると、瞬時に後方へ飛びのいて距離を取る。すると、閉ざされた視界の隅で、静かなマグヌスの声が響き渡った。


「テミス様。我が太刀が御身を灼いた事……深く謝罪致します。ですが、これも全ては忠の為。如何な処罰でも……」

「……助かったマグヌス。気にするな、外傷は無い。目が眩んだ程度だ」


 そう告げながら、テミスは熱風で乾いた目を回復させるべく溢れる涙を拭い、かすむ視界でマグヌスの姿を捕らえる。レオンに蹴りを叩きこんだ所為で方向がズレたのか、テミスが退いた先にサキュドとマグヌスが回り込んでくる。

 今の一撃は躱せなかった。正確な射撃に完璧な囮。マグヌスが横槍を入れてくれなければ、今頃私は頭を射抜かれて死んでいたに違いない。


「そんな……銃弾を切り落とすなんて……。しかも、自分じゃなくて他人を狙った銃弾を……」


 驚愕に硬直したレオン達の後ろから、絶望交じりの震え声が漏れて出る。その声は、テミスを完璧に狙った一撃を放ったミコトのものだった。

 限界を超えたブーストのかかったレオンなら、自分を狙った銃弾程度なら叩き落とせるだろう。しかし、マグヌスが今見せた一閃は、銃弾を叩き落とすなどという非常識極まる超人技を遥かに超えた絶技だった。


「フッ……こちらからは、狙っているのが見え見えだったからな。貴様が仲間に当てぬよう、慎重に狙いを定めてくれたお陰で、軌道を読む事など容易い」

「っ……!! でもっ……!!」


 悠然と言い放ったマグヌスに、ミコトの隣でシャルロッテが口を開く。

 例え軌道が読めたからといって、放った銃弾を打ち落とし、あまつさえ空中で蒸発させるほどの威力を持った一撃を放つ為にはタメが必要な筈だ。しかも、それを上官であるテミスの顔面を掠める間合いで放つなんて、最早それは豪胆を通り越して狂人の所業だ。


「何だ……? 気付いていたのはそこの小僧だけか? 確か名は、ファルト……だったか」

「チッ……。タメがわかっても、狙いがわからねぇんじゃ話にならねぇ……。俺が気付いた時にゃもう手遅れだったしな。まさか、魔族連中に連携なんて概念があるとは……」


 ファルトはそう憎々し気に吐き捨てると、再びレオンと肩を並べてガンブレードを構えてみせる。

 実際、ファルトが体勢を立て直した時には既に、マグヌスはミコト達とレオンの両方を射程に入れていた。故に、戦況が有利に傾きつつあるファルトとしては、マグヌスに先に技を打たせてカウンターを狙うしか無かったのだ。


「フン……あまり我らを見くびらぬ事だ。何も、絆を紡ぎ、力を合わせて戦うのは人間だけの特権ではない」

「っ――!!」


 カチャリ。と。

 テミスを背後に庇うように太刀を構えたマグヌスの横に、真の姿(・・・)を解放したサキュドが紅槍を携えて並び立つ。

 その背中には、歴戦の戦を戦い抜いてきた互いへの信頼と尊敬が背負われていた。


「テミス様。視界が快復するまでの時間は我等が稼ぎます」

「ククッ……別に、斃してしまっても構わんのだぞ?」

「ウフフ……嘘言っちゃダメですよ? テミス様。そのお顔……まるで獲物を見つけた猛獣のようですわ」

「――ッ! サキュド。テミス様に対して――」

「おっと……これは失礼致しました」


 レオン達に向かって身構えたまま、サキュドとマグヌスは肩越しにテミスへ視線を向けて言葉を交わす。

 確かに……。言われてみれば、テミスは自らの口角が吊り上がっていた。それを自覚すると同時に、テミスは自らの胸の内に喜びに似た感情が湧き上がってくるのを感じた。

 無論。こうして会話を交わした所で、マグヌスやサキュドに付け入るような隙が生まれるはずも無く、レオン達は緊張した面持ちで武器を構えて様子を窺っている事しかできなかった。


「フフ……彼奴等も準備万端のようだ。合わせるぞ!」

「命令しないでくれる? アンタが勝手に私に合わせるんでしょう?」

「全く……お前はいつもいつも……」


 その姿を見たマグヌスは、不敵な笑みと共にサキュドへと語り掛ける。

 しかし、それに返したサキュドの答えは素気無いものだった。けれど、マグヌスはサキュドの返答に苦笑いを返すと、二人はどこか通じ合っているかの如く笑みを浮かべ、それぞれに構えを取って高らかに声を上げた。


「魔王軍第十三軍団旗下。マグヌス・ド・ハイドラグラム!!」

「厭ね……暑苦しいのって。……同じく、サキュド・ツェペシ」

「「推して参るッッ!!」」


 マグヌスは猛々しく、サキュドは何処か気怠そうに、それぞれが名乗りを上げた。そして、ぴったりと息の合った最後の口上に声を重ねた直後。二人は真正面からレオン達へ向けて突撃したのだった。

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