378話 勝利宣言
「クククッ……!! 確かに聞いたぞ……」
ゆっくりと。
テミスは、レオン達の視線を一身に受け止めながら小さな声で呟いた。
連中は今、この技をリフレクションと認識し、反射攻撃に備えてみせたのだ。
それは即ち、この連中が私と同じ、転生者であることを意味している。
「……私が防壁を解除したら、マグヌスとサキュド以外は攻撃を続けろ。私の指示を忘れるな」
「ハッ!!」
テミスは部隊にそう告げてから、無言で防壁を解除する。その瞬間、後ろに控えていた十三軍団の兵たちが一斉に散会し、目の前の基地へと奇襲攻撃を仕掛けはじめる。
「させるかっ――!!」
「それはこちらの台詞だッ!」
ギャリィンッ! と。
陣地を強襲を続ける十三軍団の兵士たちの追撃にかかろうとしたレオンの刃を、即座に斬りかかったテミスの大剣が押し留める。
こいつらが転生者で、かつ我々の前に立ちはだかるというのならば、容赦をしていればこちらの身が危うい。
そう判断したテミスは、即座にレオンを弾き飛ばすと、月光斬を叩きこむべく大剣を振り上げた。
――しかし。
「甘ぇッ!!」
「ッ――!?」
「テミス様ッ……ムゥッ!!」
レオンの傍らから躍り出たファルトが、潜り込むようにテミスへ肉薄すると、その胴を両断すべく薙ぎ払う。
それを見たマグヌスが即座に割って入ろうとするも、後方から放たれたミコトの弾丸がそれを阻止する。
「吹き……飛びやがれェッ!!!」
「ぐっ……ああああッ!?」
その結果。
ファルトの剣は正確にテミスの胴を捕らえ、纏った甲冑がその刃を防ぐ鈍い金属音が鳴り響いた。
だが、シャルロッテの魔法で強化されたファルトの剣の威力は凄まじく、力任せに剣を振り抜いた勢いに従って、テミスの小柄な体は宙を舞って弾き飛ばされる。
「っ……かぁッ~~!! 何て硬さだよ……」
しかし、剣を振り抜いたままの姿勢で、ファルトは感心したかのように目を丸く見開いて言葉を漏らす。
ファルトには、確実にテミスの胴を両断できるという自信があった。いくらブラックアダマンタイトが堅牢であろうと、限界を超えて強化された剣であれば断ち切る事ができる……と。
事実。純粋な剣の威力だけならば、ファルトの剣はブラックアダマンタイトの硬度を上回っていた。だが、避けられぬと悟ったテミスが反射的に跳躍した事で、その威力の殆どがテミスの体を吹き飛ばすエネルギーへと変換されてしまった。
「ッ――ゴホッ……ガハッ……。なんて力だッ……!! それに……」
故に。バットで打たれたボールのように弾き飛ばされたテミスは、十数メートルに及ぶ距離の後退を余儀なくされるも、ふらつきながら五体満足で立ち上がる。
……強い。
大剣を地面に突き立てて立ち上がりながら、テミスはレオン達の成長ぶりに歯噛みした。
先手を取られたという不利を換算しても、てんでバラバラだったレオン達が、ここまでになるとはテミスの予想を凌駕していた。
「……ならば私も。全力を出さざるを得まい」
ゆらり……。と。
立ち上がったテミスはその構えを変え、新たな能力を発動させる。
奴等の力に追い付くのならば、こちらも強化魔法を唱える必要がある。だが奴等とて、みすみすその詠唱を赦す事などしないだろう。ならば、わざわざ同じ土俵で戦ってやらねばならない法も無い。
「フッ……!!」
「――っ!!」
刹那。
ファルトに吹き飛ばされ、よろよろと立ち上がっていたテミスの姿が掻き消える。
同時に、まるで瞬間移動でもしたかのようにテミスはレオンへと肉薄し、上段に構えた大剣を振り下ろしていた。
だが、その稲妻の如き剣撃も、テミスの姿が掻き消えた瞬間に、まるで現れる位置がわかっていたかのように構えられたレオンのガンブレードによって防がれる。
「……その技も、知っている」
「ハッ……調子に乗るな」
言葉と共に、テミスは脚甲を纏った足を跳ね上げ、レオンの空いた脇腹を狙った。
両腕と武器を防御に割いている以上、この一撃は防ぐ事は不可能。ならば、躱す他に選択肢は無いだろう。
「グッ……フゥッ……!!」
しかし、次の瞬間にテミスに伝わってきたのは鈍い衝撃だった。
放った蹴りはレオンの鍛え上げられた脇腹を深々と捕らえ、その口からは苦し気なうめき声が漏れている。
――躱し損ねたのか?
テミスの脳裏を、そんな希望的観測が過った直後。
「――俺達の勝ちだ」
ニヤリと笑みを浮かべたレオンの宣言と共に、一発の銃声が鳴り響いたのだった。




