377話 成長と再会
「敵襲ッ!? ――いやっ……あれはッ!!」
周囲の兵士たちが即座に持ち場に付き、次々と前線へ向けて出撃していく傍らで、即応が遅れたレオン達だけが、一足早くその姿を確認していた。
爆炎が立ち上った最前線より遥か内側の岩場。その一角から、凄まじい速度でこのアルテナ基地へと迫り来る一団があった。その先頭には、キラキラと陽光を煌めかせる、長い銀髪がたなびいていた。
「奇襲だッ!! 数は一個大隊程度ッ! 即応――クッ……!?」
レオンが声を張り上げ、迎撃態勢を取ろうとした刹那。先頭を駆けるテミスの大剣が僅かに白く輝き、凄まじいエネルギーを帯び始める。
「全力で防御――」
「――月光斬」
技が放たれることを察知したレオンが警告を発しかけた瞬間、無慈悲にテミスの大剣が振るわれた。
「グゥッ――!!!」
直後。
テミスの放った月光斬がアルテナ基地の一角へ着弾し、凄まじい爆風が防御術式を張ったレオン達に襲い掛かる。
その途端、奇襲を受けたアルテナ基地は瞬時に地獄へと姿を変え、悲鳴や怒声が飛び交う戦場となった。
「俺達が抑えるッ!! ――行くぞッ!!」
レオンは瞬時にそう判断を下し、放たれた矢のようにテミスの元へ疾駆する。
――しかし。
「アハッ! 弾けちゃえ」
「飛竜炎獄斬ッッ!!」
テミスの傍らに立つマグヌスと、そのすぐ頭上のサキュドから、紅と蒼の爆炎と業火が基地へ向けて放たれた。
それは広い基地の中心を捕らえて着弾し、巨大な二色の炎柱となって周囲を焼き焦がした。
「クゥッ……!!」
その灼熱の熱風は、基地から飛び出したレオン達にも容赦なく吹き付け、ジリジリと灼け付く様な熱さが彼等の肌を焼いた。
「チィッ……!! とんでもねェ威力だッ……」
レオンの傍らを駆けるファルトが、熱風から顔を庇いながら歯噛みをする。
こうして吹き付ける熱風だけで、あの火柱が直撃した位置はもちろん、その周囲の被害が甚大である事は想像に難くなかった。
しかし、その直後。
「ブースト・七重奏」
レオン達は軽く背中を叩かれるような感覚を覚えると共に、背後でシャルロッテが静かな声で詠唱を紡ぐ声を耳にする。
「フッ……」
「ヘヘッ……」
一瞬。レオンとファルトは目線を交わすと、互いに意味深な微笑みを浮かべて正面に迫るテミス達を見据えた。
以前のシャルロッテならば、こんな状況に陥った途端、被弾した連中を救いに走るか、俺達の援護に回るかを決めかねてパニックを起こしていただろう。
だが、シャルロッテはもうそんな頼りない女では無かった。
むしろ、彼等が背に受けた魔法弾からは、あの炎柱の威力に呑まれそうになったレオン達の背中を叩いて気合を入れ、やるべきことを促すような強さが伝わってくる。
「俺達は、俺達の事を……一気に決めるぞ!」
「おうよ! 最初っから全力全開だァッ!!」
「――っ!!!」
刹那。吠えると同時にレオン達は加速し、一気にテミスを狙って疾駆すると、抜き放ったガンブレードでその首を討ち取るべく振り下ろす。
同時に、レオン達と同じようにシャルロッテの強化を受けたミコトが、牽制とばかりに技を放った直後のサキュドとマグヌスへ魔弾を打ち込んでいた。
しかし。
「こ……れはッ!!」
パキィンッ! と。
まるで、薄氷を割り砕いたような音と共に出現した光の壁が、レオン達の攻撃を受け止めていた。
渾身の攻撃が、こんな薄い障壁に防がれた。
彼等が普通の『敵』であったのなら、ただこの事実にのみ驚愕するに留まっただろう。
だが、レオン達が受けた衝撃はそれだけでは終わらなかった。何故なら、その魔術には、レオン達にも少なからず覚えがあったからだ。
その魔術の名は、リフレクション。特務のメンバーが、以前の世界で読み耽っていた漫画の中で、大魔導士が仲間を守るため、全魔力を消費して展開した全ての攻撃を反射する最強の防御魔法だ。
「まずいッッ!! ――これはッ!!!」
「――っ!!! シルト・八重奏ッ!!!」
刹那。悲鳴にも似たシャルロッテの詠唱が響き、レオン達の前にも薄青く発光する八枚の障壁が展開される。
――けれど。
「…………?」
「あン……? リフレクションじゃ……ねぇ……?」
「っ……!!!!」
来るはずの衝撃に身構えた体には、いつまで経っても反射攻撃は訪れなかった。
それよりも彼等の目を引いたのは、マグヌス達をも包み込む障壁を展開した張本人である、テミスの浮かべた溶けた蝋燭のように歪んだ邪悪な笑みだった。




