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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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376話 持つべき親友

「あ~……クソ……ま~だヘンな感じがしやがる……」


 同時刻。エルトニア軍前線拠点アルテナ。

 エルトニア軍の拠点でも、最大戦力が集まられているその拠点に、レオン達の姿はあった。


「何よ? 高速医療術ってそんなに気持ちの悪いモノなの?」

「ったりめぇだ。自分の傷口がウニウニ動いてゆっくりくっ付いていくんだぜ? まるで早送りでも見てるかのようにな。しかもそれだけじゃねぇ、死ぬほどくすぐってぇんだ!」

「しかも、それに加えて再生していく細胞の感覚まで感じるからね。気持ち悪いのとくすぐったいのと……視覚と触覚のダブルパンチだよ」

「俺は……そんな体験は御免だな」


 前線独特の緊張感に包まれた戦場を、レオン達特務部隊は気軽に語らいながら、肩で風を切って歩いて行く。

 前線の兵たちはその姿を見止めると、畏敬のまなざしで彼等を眺めた後、姿勢を正して敬礼をする。


「あはは……これは、上手くやられたねレオン。まるで英雄だ」

「……フン」

「ありもしない功績で持ち上げられても、嬉しくねぇっての……」


 レオンは、そんな兵士たちの相手をシャルロッテとミコトに任せて、並び立つファルトと共に眉を顰める。

 ここ数日でレオン達特務部隊は、ミコトの言葉通り、まるで英雄であるかのごとく扱われていた。

 知らぬうちに単独小隊で敵陣へ突入したレオンの独断は作戦となり、その無茶はたった単独小隊で敵の主力増援を退けた功績へとすり替わっていたのだ。


「んでも、普通だったら今頃俺たちは連中に混ざって一般兵やってたんだ。早々に昇級もできて、ある意味ではラッキーなのかもな」

「ならば、名誉の敗北とでもしておくか? ブラッキオ少尉(・・・・・・・)

「っぐ……!! クソ……そこで嫌味言うかよ。俺は、少しでも現状を前向きに考えたかっただけだっつの」


 二人は憎まれ口を叩き合いながら、予定されている待機位置へと歩を進めた。配置された場所は迎撃陣の最前列。皮肉にも偽りの功績は、レオン達にとってマイナスに働いていた。


「前向き……ね」


 しかし、レオンはファルトの言葉を感慨深げに反芻すると、ぎしりと奥歯を食いしばった。

 こんな功績など、いくら積み重ねても無意味だ。

 レオンは別れ際に放たれた、テミスの氷のように冷たい目線を思い出しながら臍を噛む。

 奴は……俺達の事を民間人だと言った。つまりそれは奴にとって、俺達は『敵』として認識するに満たない存在だという訳だ。


「……。もっと……もっと強く……」


 少し離れたところで笑顔を振りまくミコトとシャルロッテを眺めながら、レオンは自らを呪うように小さく声を漏らす。

 確か、前に相まみえたシモンズとか言う死霊術師(ネクロマンサー)も軍団長と名乗っていた筈だ。だが、切り札である収束形態を使ったとはいえ、シモンズは俺一人で退けることができた。だが、あの女剣士……テミスの強さは、奴のそれとは別次元の代物だ。


「オイ……レオン」

「……?」

「なんつーか……俺が言うのもナンだけどよ……」


 難しい顔をして一人考え込むレオンに、傍らのファルトが気まずそうに目を逸らしながら声をかけた。


「あんま、隊長(・・)って肩書に拘んねぇ方が良いぜ? 俺達は、上官や戦友である前に親友(ダチ)なんだ。シャルロッテの奴みたいに抱え込んでると……お前のコトだ、俺みたいに突っ走っちまうぞ?」

「っ…………」


 その、どこか照れくさそうな気配を残しながらも、精一杯ニヒルな笑みを浮かべるファルトの顔を見て、レオンは思わず目を丸くして凍り付いた。

 何故なら、ファルトの言葉はまるで、レオンの心中を見透かしたかのごとく正鵠を射ていたからだ。

 この先、テミスは間違いなくエルトニア軍の前に立ちはだかるだろう。ならば、それを相手取るに当たって、いかに素早く、独力で頭であるテミスを片付け、のちの戦力に全員で当たるか……。レオンが頭の中で練っていた戦略は、そんなものばかりだった。

 ――やはり、持つべきものは親友(とも)であり、俺が護るべきものは、この何にも代え難い仲間(とも)達だ。


「フッ……ああ、解っている」

「ヘヘッ……よく言うぜ」


 レオンは胸の内に生じた想いを呑み込むと、代わりにふわりと不敵な笑みを零してファルトへと向き直る。

 しかしファルトは、そんなレオンの胸中すらもお見通しだと言わんばかりに。ニヤリとした笑みを浮かべて静かに拳を差し出していた。


「やれやれ……」


 そして、ため息交じりにレオンが自らの拳をファルトの拳と軽く打ち合わせた瞬間。


「敵襲ッ!! 敵襲ゥ~~ッッ!!」

「――っ!!?」


 けたたましい警告音と共に、開戦を報せる声が響き渡ったのだった。

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