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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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374話 絡み合う鎖

「フン……強硬偵察命令だと……? 厚顔無恥もここに極まれり、といった所だな……」


 一方その頃。魔王軍対エルトニア戦線後方。

 簡易的に設えられた野営陣の真ん中で、テミスは盛大にため息を零していた。

 この地に辿り着いてから数日。既に十三軍団は野営陣暮らしにも慣れ、その光景は日常の風景として受け入れられつつあった。

 だがその一方で、部隊へ平等に与えられるはずの補給物資は、一度も配給される事は無かった。


「それで……ルカ。連中は何と? 我々は霞でも食って生きていると思っているのか?」


 テミスは、司令部からの通達を持ってきたルカへその半眼を向けると、欠片も期待していないような口ぶりで皮肉を告げる。


「何と言うか……その……。現状で何とかなっているのだから、問題無いだろう……だそうだ」

「ハッ……何も与えず、ただ旨味だけを掠め取ろうという訳か。冗談ではない」


 そう吐き捨てるように言い放つと、テミスは受け取った指令書を無造作に焚火へと投げ入れた。瞬間。焚火は一瞬だけ火力を増したかと思うと、即座に指令書を灰へと変えた。


「我々は軍人だ。だが、奴隷ではない。モノが無いならまだしも、我々自身が物資を運んできたのだ。然るべき補給を受けられぬのならば、戦場に出る理由は無い」

「まぁ……そう言うだろうとは思っていたさ……」


 そのきっぱりと言い放った言葉に、ルカは苦笑いを浮かべて小さく頷く。

 十三軍団は現在、ルカの顔を立ててこの町に駐留こそしているものの、その兵力の全てを、野営陣の防衛と食料の確保に割いていた。

 それは、保存のきく食料を帰路の為に取り置き、南方軍の兵糧攻め(・・・・)を警戒したテミスの指示だった。


「正直に言うが、我々もそろそろ限界だ。君への借りも、そろそろ返し切った頃合いだ。奇しくもこうして暮らしているだけで、南方軍の腐敗っぷりはある程度把握できた。現状の待遇が続くのならば、我々は近々引き上げさせて貰う」

「っ……! そう……だよな……。だが、それでは……!」


 まるで逡巡するかのように、ルカは視線を彷徨わせると、テミスの手を取ってその目を覗き込む。

 その目に浮かんでいたのは、純粋な困惑と迷いの感情だった。


「あぁ。恐らく、南方軍は退く我々に対して追撃を仕掛けてくるだろう。奴等は十三軍団をただの輸送部隊だと侮っているからな……。自分たちが不利になる情報を、みすみすギルティアの耳には入れまいよ」


 その迷いに、テミスは不敵な笑みを浮かべて答えを返すと、その肩に手を置いて言葉を続ける。


「ルカ。この南方軍の中で、君だけはマトモな者だと私は思っている。だから問おう。私と共に来ないか?」

「なっ――!!?」


 テミスの紡いだ問いにルカは大きく目を見開くと、驚きの声を口から漏らした。

 何故なら、その問いは明らかな裏切りの誘いだったからだ。テミス達十三軍団とは違い、ルカの率いる第六軍団は魔王ギルティアの正式な命を受けてこの地に駐留している。

 つまり、対エルトニア戦線への任が解かれない限り、勝手にこの南方を離れるのは明白な反逆行為なのだ。


「この地に残っても無駄死にするだけだ。ならば、君が真の忠臣であるなら、大幅に後退した後の戦線で、私やルギウスと共に北上してきたエルトニア軍と戦うべきだと思うが?」

「っ……!! 確かに……。確かに、君の言う事は正しい……。正しいのだろうな……」


 更に言葉を重ねたテミスへ、ルカは視線を逸らしながら呟くと、唇を噛み締めて黙り込む。

 そして暫くの沈黙の後、力無く垂れ下がった手を拳に変えて、震える声で答えを返した。


「…………。君と共に中央へ退く事は、私にはできない」

「……そうか」

「すまない。君への信頼は、あくまで私個人のものなんだ。恥ずかしながら、私の部隊の中からも、十三軍団の戦力を疑う声は出ている」

三騎聖(さんきしょう)……君の副官達だな」

「……っ。あぁ……。彼等は誇り高き武人だ。己が目でその力を確かめれば、自らの愚かな過ちに気付くだろうが……」


 肩を落として告げるルカに、テミスはただ粛々と言葉を返すだけだった。

 考えてみれば、当たり前の話だ。幾ら伝聞での武勇があるとはいえ、彼等の目に映る我々は、良い所ただの狩猟民族。戦果を誇る武人であるならば、侮るのは当然だと言えよう。


「一つだけ……」

「……?」


 まるで、もう話す事は無いとばかりにルカへ背を向けたテミスを、小さく震える声が引き留める。

 その声には並々ならぬ悔しさと言い知れぬ怒りが込められており、テミスの足を止めるには十分だった。


「一つだけ、頼みを聞いてくれないか?」

「……内容によるな」


 だが、テミスは足を留めながらも、ルカの言葉を振り返りもせず素っ気なくあしらう。

 例えルカの頼みであっても、この状況で白紙の小切手を切る程、テミスは愚かでは無かった。


「謂れなき侮りは成果で塗り替えられる……テミス、これは貴女が誰よりも知っているはずだ」

「だから……?」

「……明日以降。十三軍団への補給は私が責任を持って何とかしよう。だから、一度で良い。我々にその力を示してはくれないだろうか?」

「フム……」


 差し出された条件に、テミスは小さく息を吐いて考えを巡らせた。

 恐らく、ルカが何を言おうとあの愚かな総司令が動く事は無いだろう。おおかた、自軍への補給をこちらに回すつもりなのだろうが、それでは十三軍団と第六軍団の食糧事情が入れ替わるだけだ。

 だが……。落し所としては、これ以上無い程の着地点だ。相も変わらず第六軍団が煮え湯を飲む事にはなるが、それも我々が戦果を挙げるまでの事だろう。


「……すまないな。苦労を掛ける」

「いや……私こそ、この程度の事しかできず、申し訳ない……」


 テミスは結論を出すと、ルカへ振り返って小さく頭を下げる。だが、ルカも申し訳なさそうな表情を浮かべた後、同じようにテミスへ首を垂れた。

 こうして実情を見ると、あの傲慢で何も見えていない司令官よりも、方々に心身を砕いているルカの方が、テミスにはよっぽど有能に見えた。同時に、その自己犠牲にも等しい在り方に、折れて擦り切れてしまわないかと危惧を覚える程だ。


「フッ……なら、また借り(・・)ておくとするよ」

「フフ……貴女の気がそれで済むのなら……」


 互いに頭を上げたテミス達は、柔らかい笑みを浮かべてそう言葉を交わすと、どちらからともなく手を差し出して、固い握手を交わしたのだった。

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