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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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369話 秘めたる想い

 ピッピッピッ……。と。

 その真っ白な空間には、心音を表す機械的な音が規則的に響いていた。

 その部屋の真ん中……二つ並べられたベッドの間で、シャルロッテは簡素な椅子に腰かけたまま顔を伏せていた。


「ふぐっ……く……うぅ……」


 シャルロッテは腹の中に渦巻く感情を、溢れ出そうとする嗚咽と共に押し殺して泣いていた。

 ――もう、限界だ。

 あの一戦で、私は理解してしまった。自分なんかが、彼等と肩を並べて戦う事は不可能だ……と。


「うぅ……で……でも……」


 精神が擦り減っていくのを感じながら、シャルロッテは泣き腫らした目を静かに上げて、ベッドに横たわる二人の友へ交互に視線を注ぐ。

 例え、私が居なくなっても、彼等は戦い続けるだろう。この国の一員として生きると決めた彼等にはもう、引き返すという選択肢は無い。


「っ……!! 頑張らなきゃ……私がやらないと……できるやれるっ……大丈――っ!?」


 ビクリ。と。

 まるで呪詛のように呟き続けるシャルロッテは。突如開いた扉の音に身を竦ませると、その目を病室の入口へと向けた。

 そこには、虚ろな瞳で佇むレオンを連れたトーマスが、柔和な笑みを浮かべて立っていた。


「トーマ……ス……先生ぇ……」


 その姿を視界に入れた瞬間。シャルロッテの目からは、次々と大粒の涙が溢れ出す。それはまさに、今まで必死で耐え抜いてきたモノが決壊した瞬間だった。


「フフ……よく頑張りました。シャルロッテ。大丈夫……気に病む事はありませんよ」


 トーマスは泣きじゃくるシャルロッテを抱きしめると、優しい声で言葉をかけながら優しく頭を撫でる。

 その手つきはまるで、愛娘を慰めるかのように柔らかなものだった。


「レオン君」

「…………」


 そんな温かな光景がしばらく続いた後……トーマスは静かにレオンの名を呼んだ。

 しかし、レオンはまるで自失してしまったかのように反応を示さず、その緩慢に緩んだ瞳は穏やかに中空を見つめていた。


「やれやれ……壊れたフリ(・・)だなんてキミもタチが悪い……。でもね、君には……君達には戦わねばならない理由がある……違いますか?」


 だが、トーマスはシャルロッテを抱えたまま言葉を続けると、そのぼんやりと中空を見つめる目に視線を合わせる。


「確かに君たちは敗北を喫した。けれど、君たちはまだこうして生きている……。ならば、それは君たちの功績だ……違いますか?」

「…………」


 けれど、トーマスの言葉がレオンに響く事は無く、レオンの意識は思考の海の深くへと潜り込んでいた。

 ――俺達は……俺は、自惚れていたのか……? 危険な戦場だろうと、この力で皆を護っていけると……そう思っていた。

 だが、現実はそんなに甘くなかった。俺一人の力では、何の意味も無い。力を束ねたところで、今回の戦闘のように分断されればそれまでなのだ。

 奴は最後、俺を『小僧』と呼んだ……。つまり奴にとって、俺は雑兵にも満たない、ただの民間人だったのだ。


「っ――」


 ぎしり。と。

 焼き付くような口惜しさに、レオンは密かに歯を食いしばった。

 ――もっと、強く……。誰よりも強くなるには、どうするべきだ?

 テミスにマグヌス……そして、サキュドと言ったか……。あの三人を相手に、俺一人でどうやって渡り合う……?


「ヘッ……そんなセリフ、俺達にゃ響かねぇよ……」


 口を閉ざしたレオンの代わりにそう答えたのは、ベッドの上で横たわるファルトだった。

 動かない身体の代わりに、その瞳に精一杯の侮蔑を込めて、ファルトはシャルロッテを睨み付けながら言葉を続ける。


「俺達は連中に生かされた……。でもな、テメェが諦めなきゃ勝てたんだ……。たとえ腕が千切れようと、俺はあのマグヌスって奴を仕留めてみせた。そうすりゃぁ、戦況は変わったんだ……違うかッ!!」


 ファルトの怒気を帯びた言葉がシャルロッテへと届く。だが、その言葉を聞いたシャルロッテも、ただトーマスの腕の中で震えているだけでは無かった。


「ッ~~~!!!! バカをッ……言うなッッッッ!!!」

「っ――!!!?」


 鬼のような形相を浮かべてトーマスの腕から飛び出したシャルロッテは、凄まじい速さでファルトのベッドへと駆け寄り、その枕元に拳を振り下ろす。

 そして、その間近まで顔を近づけてファルトの瞳を凝視すると、怒りに声を震わせて口を開く。


「お前……ボクにお前を殺せってのか? こんなボロボロの状態でバースト使ったら、身体が持たない事くらい解るだろ?」

「っ――!!! なら……他に方法があったのかよッッ!! 俺が過負荷で死んでも……全滅するよりはッ……お前らが切り抜けられればいいだろう――ッッ!!?」

「ッ――!! ハッ……! ハッ……!! ハッ……!!!」


 バチィンッ! と。

 乾いた音が病室に響き渡り、乱暴に紡がれていたファルトの言葉が途切れる。

 その音が虚空へと消えると、ファルトの枕元では、浅い呼吸を繰り返していたシャルロッテが、彼の頬を張った格好のまま、その顔を真っ赤に染めて涙を流していた。


「ああ……。それではダメなんだ……ダメなんだよ……」


 刹那に訪れた沈黙の中。

 その光景を見守っていたトーマスは、ゆっくりと彼等の元へ一歩を踏み出しながら悲し気にそう呟いたのだった。

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