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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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368話 策謀の坩堝

 一方その頃。

 特務隊の隊長であるレオンは、特務隊の指揮官であるトーマスと共に、上官であるヴァイスマンの部屋へと呼び出されていた。


「何か……釈明は……あるかね? レオン・ヴァイオット少尉」

「…………」

「フム……」


 しかし、レオンはその問いには答えず、俯いて口を閉ざしていた。

 今度はその傍らで、レオンと共に問い詰められる立場にあるトーマスは、殊勝に佇むその姿を眺めて嘆息する。

 志を砕かれるのは勝手だけれど、戦意を喪失されては困るんだよねぇ……。

 薄い笑みを浮かべて、トーマスは心の中でそう独りごちると、まるでレオンを庇うように一歩前に出て口を開いた。


「准将閣下。よろしいでしょうか?」

「……なんだね? トーマス大佐。今回の失態は――」

「――失態? 何のことでしょう?」

「なっ……!!?」


 言葉と共に、トーマスは意図のように細い目を開くと、ヴァイスマンの言葉を遮って、鋭い眼光で言葉を続ける。


「彼等は作戦目標を完璧に達成しています。その後の単独小隊での前進は好ましくはありませんが、報告によれば敵一個師団を撃滅した模様。大殊勲です」

「っ……ムゥッ……!! だが、その勝手な独断専行が由々しき事態なのだ! 毎度毎度そう奔放に動かれては軍の規律に響く。将来的に、我々の作戦を瓦解しかねん」

「フ……」


 トーマスから放たれた威圧感に、ヴァイスマンは一瞬だけ微かに身を竦ませると、勿体ぶった理由を付けて抗弁した。

 だが、その抗弁にトーマスは微笑を浮かべ、この舌戦の勝利を確信する。

 そう。レオン達は作戦目標を達成しているのだ。今回、特務部隊に課せられた任務は、押し上げが滞っている戦線への救援。彼等はそれを成し遂げるどころか、戦線に穴を開け、大きく前進させたのだから、一個小隊としては破格の働きだろう。


「しかし、です。ヴァイスマン准将。もし仮に、レオン達の突撃に意味があったとしたら……いかがでしょう?」

「意味……だと? 馬鹿な! あり得ん! なら、何故その小生意気な小僧は黙って俯いているのだッ!!」

「…………」


 笑みを深めたトーマスがヴァイスマンに語り掛けると、ヴァイスマンは苛立ちを穿き捨てるようにレオンを指差して怒鳴りを上げる。

 しかし、それにすらレオンは反応せず、ただぼんやりと中空を眺めて佇んでいるだけだった。


「彼にとっては、敗北である事に変わりませんから……。ですが、彼の持ち帰った情報(・・)は値千金の価値がある」


 トーマスは涼し気な口調で話題を流すと、懐から取り出した書類をピシリと軽く叩いて断言する。

 けれど、薄い笑みを湛えたその頬には、うっすらとした汗が浮かんでいた。

 今ここで、ヴァイスマンにレオンを処罰させるわけにはいかない……。だが、ヴァイスマンは狡猾な男……それを以て准将の地位をもぎ取った彼ならば、情報を取り零すような愚は犯さないはず……。

 ヴァイスマンが感情を取るか理性に従うか……そこだけは、トーマスとしても賭ける事しかできない部分だった。

 すると――。


「ホゥ……そこまで言うのならば、その情報とやらの報告を先に聞こうか……」


 ヴァイスマンは柔らかな背もたれに体重を移し、おもむろに机から葉巻を取り上げて火をつける。

 賭けは、トーマスの勝ちだった。


「ハッ……! レオン達の出会った特記戦力(ネームド)と思われる未確認の大剣使いですが……」

「確か……ブラックアダマンタイト製の鎧と大剣の奴だな?」

「はい。その特記戦力(ネームド)ですが、とんでもない大物ですよ……」


 敵の特記戦力(ネームド)に関する情報だと言ったのに、注目するのはそこか……。と。トーマスは心の中で、先んじて伝えた情報に食いつくヴァイスマンを嘲笑すると報告を続ける。


「北方はロンヴァルディア。かの地の最高戦力である白翼騎士団と、互角以上に渡り合う軍団長です。あくまでも噂ですが、先のアストライアの乱の鎮圧にも噛んでいるとか……」

「チィッ……白銀の悪魔か……。まさか、そこまでの大物を引っ張り出してくるとは……」


 報告を受けたヴァイスマンは舌打ちをすると、深いため息をついて葉巻をふかした。

 ロンヴァルディアとは、今や国交こそ薄いものの共戦国だ。司令部としては、そこに投入されていた戦力がこちらに回されるのは想定内ではあったが、吊り上げた戦力が幾ら何でも大物過ぎた。


「そこで……です。閣下」

「ン……?」


 トーマスは囁くような口調で身を乗り出すと、その顔に浮かべられた笑みを精一杯広げてヴァイスマンへ告げる。


「今回の一件……我々の密命という事にしましょう」

「密命……だと……?」


 その囁きに目を見開いたヴァイスマンは、言葉を詰まらせてトーマスの目を見返した。

 きっと、今頃その呆けたような表情の裏側では、凄まじい速さで損得勘定が行われているのだろうが……そんな隙は与えない。


「えぇ。筋書きはこうです。敵に動きに言いしれぬ不信を感じていた閣下は、通常任務と共に特務へ強硬偵察の任を与えていた……。結果、閣下の予感は的中し、新たな敵戦力を確認する事ができた……」

「ン……ム……。成る程。悪くは……ない話だ。君達は蛮勇のツケを払わずに済むし、これだけの情報であれば、軍部での私の発言力も増す……か……。……いいだろう」

「ハッ……ありがとうございます! では、小官らはこれにて……身体を張って情報を持ち帰った部下達を労わねばなりません」


 ヴァイスマンが頷くのを確認すると、トーマス即座に身を翻してレオンの頭を押さえて、共に頭を下げた。

 しかし、床に向けて伏せたその顔には、まるで蛇のように狡猾な笑みが浮かんでいたのだった。

2020/11/23 誤字修正しました

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