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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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367話 食えない同志

「やれやれ……とんだ一日だ……」


 パチパチと弾ける焚火を前に、テミスは深くため息を吐いた。

 野営を重ね、馬車に揺られる事十数日。よもや、目的の町に辿り着いてまで、こうして野営陣を張る事になるとは夢にも思わなかった。


「あぁ……ファントの町が恋しくて堪らん」

「っ……。それに関しては、私は平謝りをするしかない……。しかし、こうして少しでも力になる事ができて良かった」

「ルカ、君を責めても仕方が無いだろう。それに、こうして野営に向いた地を教えてくれて感謝している」


 共に焚火を囲んでいたルカが頭を下げると、テミスは苦笑いを浮かべてそれを辞した。

 事実。彼女の案内が無ければこんな穴場を見つける事は出来なかっただろう。

 まさか、こんな町の外れに、平らな地面と生きている井戸があるなんて、現地に疎い十三軍団の兵たちでは、見つけることは難しかっただろう。


「それに、こうして食事もご馳走になっているんだ。我等の待遇にしても、君個人が畏まる事では無い。大きな借りができてしまったな」

「やめてくれテミス……こちらが迷惑をかけたというのに、そう畏まって受け取られてしまっては……困る」

「フ……クク……」


 テミスは眉尻を落として戸惑うルカに言葉を聞くと、僅かに頬を歪めて笑みを浮かべた。

 どうやら、このルカという軍団長は本当にお人好しらしい。

 持たなくてもいい無能な上官の尻を持ち、こちらが差出た礼すらこうして固辞する始末。曲者揃いの魔王軍の中では、その無償の世話焼きっぷりは天然記念物レベルだ。


「参ったな……明日にでも早々にファントへ帰投するつもりだったのだが、この調子ではそうもいかないではないか」


 柔らかな笑みを浮かべたまま、テミスはそう嘯くと、近くに積み上げられた薪を燃え盛る炎の中へと投げ入れる。

 これでも一応、南方への援軍を期待されて送り込まれたのだ、見たところ南方軍の連中はルカの旗下以外にまともな倫理観を持つ者は居ないようだし、彼女さえいなければさっさと見捨てて帰る所なのだが……。


「フフ……そう言って貰えると、私がここに居る意味も少しはあったというものだね」

「フン……何処までも食えない奴め……」


 意味深な微笑みと共にそう言葉を返したルカに対し、テミスは鼻を鳴らして唇を歪めて見せた。

 ルカとしても戦況が劣勢に傾いている今、敵の特記戦力を圧し返した部隊を帰してしまうのは避けたいのだろう。故に彼女は、タラウードのように力で押さえつけるでもなく、腹の探り合いを仕掛けるでもなく、『貸し』を作る事で真っ向から引き留めにかかったのだ。


「だが困った事に……正直に言って、その隠さないやり方は私の好みだ」


 しかし、真意を知って尚、テミスは上機嫌な本心をありのままルカへと伝える。

 事実。ルカの助けが無ければ今頃、タラウードと殺し合っているか、寝床を探して暗闇の中を駆けずり回る羽目になっていただろう。


「それにしても……本当に君は人間なんだな……」


 ぽつり。と。

 ゆらゆらと揺れる焚火の炎を浴びながら、ルカは感慨深げに言葉を漏らした。それはテミスに向けて語りかけているというよりは独白に近く、焚火に向けられたルカの瞳も、どこか虚空を漂っているかのように緩やかな光を宿していた。


「いや……君の勇猛さはルギウスから話に聞いてはいたんがね……。その数々の武勇は人の身で成し遂げられるものだとはとても思わなかった。だが、こうして相対すれば君が人間であることは良く解る。だと言うのに、君は見事に易々とシモンズ殿が敵わなかった相手を退けてみせた……」


 ルカがゆっくりとした口調で言葉を続け、テミスはその声に静かに耳を傾けていた。

 そんな緩やかな時間が、どれくらいの間流れていただろうか。

 テミスは不意にピクリと眉を動かすと、砥ぎ澄ませた意識を周囲の暗闇に向けて走らせた。


「ん……? どうか――」

「――シッ……」


 すぐにテミスの異変に気が付いたのか、首を傾げたルカが疑問の声をあげかける。

 しかし、テミスは即座に自らの唇に指を当ててその声を封じると、傍らに横たえていた大剣の柄に手を伸ばす。


「っ…………」


 訪れた沈黙はテミスの神経を瞬時に緊迫させ、ねばつく様なプレッシャーとなってその身に襲い掛かってくる。

 その傍らでは、ゆらゆらと揺れる焚火が相も変わらずパチパチと暢気な音を鳴らしていたが、テミスにとっては今はその微かな音すら煩わしかった。

 ――そう、音だ。

 微かにだが、ルカの語る言葉に混じって、亡者のうめき声のような音が聞こえたのだ。

 しかし、ここは十三軍団が敷いた野営陣の只中……微かとはいえ、うめき声など聞こえるはずも無い。


「……。気のせいか……? いや、しかし……」


 だが、周囲に意識を巡らせてみても、怪しげな気配は一つとして感じることはできなかった。


「急にどうしたんだ? 何か異常でも……?」

「あぁ……」


 そんなテミスに痺れを切らしたのか、声を殺したルカがテミスへ静かに身を寄せて問いかける。

 テミスはそれにコクリと頷くと、周囲への警戒を続けながら、ルカに自らが聞いた『音』について話して聞かせた。

 すると、ルカから返って来たのはテミスが予想だにしない答えだった。


「あぁ、成る程……それなら大丈夫さ。恐らくそれは、シモンズ殿の所の屍兵士(ゾンビ)の声だと思う。彼の部隊の死霊術師(ネクロマンサー)が、儀式をしているのだろう」

死霊術師(ネクロマンサー)……ね……」

「私はもう耳が慣れてしまったのか、身体が勝手に聞き流してしまってね……。だがまぁ、気持ちの良いものでは無いが戦力にはなるよ」

「…………最低の戦場だな……南方(ここ)は」

「ハハ……全くだ……」


 テミスは苦笑するルカにそう零すと、脱力して再び腰を下ろしたのだった。

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