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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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365話 もう一人のエルフ

「テミス君っ!!」

「っ……?」


 司令部を辞した直後。

 テミスは背後から自らを呼ぶ声に足を止めると、怪訝そうに顔を歪めて背後を振り返った。

 少なくともこの世界の知り合いには、私の名を君付けで呼ぶ者は一人も居ないはずだ。


「いやぁ……災難だったね。彼も君の部隊には期待していた分、それを裏切られたような気分なんだろう」


 柔らかな笑みと共にそう告げながら、テミス達の後を追ってきたのは、先ほどタラウードとの間に割って入った短い白髪の女騎士だった。

 しかし、目につく点が一つ。顔の両側から突き出た尖った耳が、彼女が人間ではない事を示していた。


「下らん話さ……。勝手に期待して勝手に失望して……それだけではなく、謂れの無い罪まで被せられるなど、笑い話にもならんよ」


 それに気づいて尚、テミスが不敵な笑みを湛えたまま素っ気なく返答を返すと、目の前の女騎士はふんわりと頬を緩めて笑みを浮かべる。


「……? 何がおかしい?」

「いや……ルギウスの奴から聞いていた通りの人だと思ってね……」

「ルギウス……だと……っ!?」


 女騎士の言葉を聞いた瞬間、テミスは表情を変えて彼女へと向き直った。

 何故ここでルギウスの名が出て来るのかは分からない。だが、ルギウスは魔王軍の軍団長を務める男なのだ、その名を軽々しく『奴』等と呼べるという事は……。


「ああ、すまない。私は、ルカ・アルル・サルディーニャ。これでも、第六軍団の軍団長をしているんだ。ルギウスとは旧知の仲でね……ホラ、この耳とか見覚えが無いかい?」

「――っ! と、言う事は、ルカ……殿もエルフなのか?」


 テミスが自らの正体を察知したのを感じたのか、ルカは自己紹介と共に握手を求めるように右手を差し出した。

 確かに、一般的に魔族と呼ばれる者達よりも長く尖った耳には、ルギウスと同じ特徴が見受けられる。だが……ここは南方の地だ。歓迎されていない事が判明した以上、一度疑い始めたテミスの疑念は止まらなかった。

 先程私達を庇って見せた一連の行動が、こうして私達を油断させ、近付くための布石であるように思えてしまう。


「あぁ、そうだ。私も奴と同じエルフ族だよ。フフ……それにしても、君はルギウスとはずいぶん懇意な間柄らしい」

「それは……どういう意味だ?」


 疑い始めたテミスは、口元を抑えてクスクスと笑うルカを眺めながら、抱き始めた警戒心を露わにし始める。

 食えない奴だという印象はルギウスと同じ……だが、このルカも彼と同じように真っ直ぐな志を持っているとは限らない。


「キミのその態度が……さ。ルギウスから聞いていた通りの反応だもの……奴の予測ピッタリなもので、少し驚いたくらいさ」

「っ…………」


 しかし、ルカはテミスが自らにあからさまな警戒心を向けているにも関わらず、変わらぬ笑顔でテミスの隣に並び立つ。


「ここからは……歩きながらでも?」

「っ……。あ、あぁ……構わない」

「ありがとう。それと、私の事はルカで構わないよ」


 一瞬。テミスが確認するかのように副官たちへ視線を送ると、二人の後ろに付き従うマグヌストサキュドは、揃って小さく頷いて見せる。

 つまる所、彼女がルギウスと旧知の仲であることは間違いなく、現状では表立って警戒する程のものでは無いという事らしい。


「…………そうか、ではそう呼ばせて貰おう。私の事も、テミスで構わない」

「フフ……ありがとう。では、遠慮なくテミスと呼ばせて貰うよ……。さっそくだけど、テミス」

「……?」


 テミスがそう返すと、ルカは目を細めて可憐に笑い、どこか嬉しそうに声を跳ねさせた。

 そして、チラリと周囲に目を走らせた後、声を潜めて言葉を続けた。


南方(ここ)では、その警戒心を解かない方が良い。この一件で、間違いなく君はあの総司令殿に目を付けられただろうからね……」

「やれやれ……難儀な事だ……」


 ルカの忠告に、テミスは深くため息を吐いて肩をすくめてみせる。

 まぁ、司令があんな性格では私と絶望的に反りが合わないのは目に見えているし、遅かれ早かれこうなってはいたのだろうが、遠路はるばる到着して早々、下らない癇癪に付き合わされるのはなかなかに堪えるものがある。


「だがまぁ。それもどうでも良い事さ。私はただ、さっさとギルティア――殿からの依頼を果たして帰るまでだ」


 しかし、ルカの心配とは裏腹に、テミスはタラウードの事など歯牙にもかけてはいなかった。確かに、性格に少なくない問題はあるようだが、仮にも魔王であるギルティアに南方を任された総司令官なのだ、多少の嫌がらせはあれど、主命に背くようなことはすまい。


「だと良いんだけ……ど……ね……」

「……?」


 だが、いつの間にかテミスの少し前を歩いていたルカは、ビクリと体を震わせるとその足を止める。

 同時に、必然的にその後ろについて歩く形となっていたテミス達も足を止めた。


「ハァ……連中の顔を見てもしやと思ってついてきたんだけど……」

「どうしたと言うんだ?」

「テミス……君が先程、総司令殿から受け取った書類を見てみると良い」

「……? なっ……!? はっ……? まさか……」


 ルカに促され、手に握っていた書類に目を落としたテミスの顔が、みるみるうちに青ざめていく。

 同時に、テミスは自分の認識の甘さを心の底から思い知ったのだった。

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