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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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364話 南方の長

「第十三独立遊撃軍団……テミス軍団長です」

「魔王軍第九軍団・軍団長、及び、南方……対エルトニア魔導国方面総司令官、タラウード・ヒュブリディスだ」


 だだっ広い空間に、二つの剣呑な声が響き渡る。

 ここは、元は教会か集会所か……そういった類の施設だったのだろう。しかし、既にかつての面影など無く、広間の中心にデンと置かれた巨大な作戦机が、この場所が魔王軍の南方方面軍司令部であることを声高に物語っていた。


「それで……?」

「……それで。とは?」


 ピシリ。と。

 向かい合った二人の軍団長の間の空気が、一気に緊張感を帯びる。

 同時に、その様子を見守っていた周囲の副官や側近と思しき一部の者達は、恐怖と緊張で喉を鳴らしていた。


「……っ!」

「……」


 その中には、テミスの背後に並び立つ、サキュドとマグヌスも含まれていた。

 第九軍団長のタラウードという男に、この二人の副官は以前から好感を持つことができなかった。その性格は傲慢で不遜……自らの強さと権を笠に着た態度は、テミスやバルドのそれとは正反対だった。

 そしてどう見ても、目の前の軍団長の性根は変わることなく、その巨体で見下ろしたテミスを侮り、格下だと定めている。


「まともな言い訳が思い付かなかったからと言って、その態度はどうかと思うがな? テミス軍団長(・・・)? 何故貴様等は、侵攻してきた部隊を逃がしたのだ? ……と聞いているのだ」

「フ……」


 テミスはタラウードの言葉に息を漏らすと、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて見せる。その瞬間。


「貴様ァァッ!! 尻尾を巻いておめおめと逃げ帰って来ておいて、その表情は何だァァッッ!!!」


 その額に青筋を立てたタラウードが、筋骨隆々な剛腕を傍らの作戦卓に荒々しく叩き下ろした。

 無論。テミスにとってこれは通常運転なのだが、タラウードにとってテミスは異物であり異端だった。しかもそれだけではなく、格下(・・)のテミスに自らの問いを一笑に伏される事は、タラウードにとっては屈辱極まりない出来事だった。


「そこに直れェッ!! 儂が直々に魔王軍の掟というものを、その身に刻んで――ッ!!」


 怒りの赴くままに、タラウードは腰に提げた武骨な剣に手をかけると、それを抜き放ち振り上げようとする。

 同時に、それに応じるべく閃いたテミスの手が、背負った大剣の柄へと番えられた。

 しかしそれは、二人の間に割って入った一つの人影によって遮られた。


「――タラウード卿。お待ちください。彼女たち十三軍団に与えられた指令は査察です。これは先程、彼女たちから提示されたギルティア様の勅命書にも記されておりました」


 二人の間に割って入った影は激高するタラウードにつらつらと述べると、この町へ入る時にテミス達が渡したギルティアからの指示書を掲げて見せる。

 そして、チラリと。肩越しに一瞬だけテミスを振り返った後、その口元に小さな笑みを浮かべて言葉を続けた。


「しかも、彼女たちの部隊は大量の救援物資を擁しておりました。この二つを鑑みれば、敵軍の侵攻を退けたのを感謝しこそすれ、咎めるのは無理筋な話かと」

「黙れェィ!!」

「ぐっ――」

「っ――!!」


 しかし、タラウードはその人影の言葉を聞くと、更に気炎を燃やして怒りの咆哮をあげた。


「貴様は魔王軍であろうッ!! ならば、眼前に現れた人間共を逃がすなど言語道断だッ!!」

「――閣下。では、忠勇な魔王軍の指令であらせられる閣下に御聞かせ願いたいのですが」

「何ィッ……?」


 テミスは口調を慇懃無礼な物へと切り替えると、割って入ってきた人影の背から歩み出てタラウードへと問いかける。

 しかし、その背を見守るサキュドとマグヌスは、生きた心地がしなかった。

 何故なら、先ほど剣(・・・・)の柄へと(・・・・)番えられ(・・・・)たテミス(・・・・)の手は(・・・)未だそれ(・・・・)を掴んだ(・・・・)ままなのだ(・・・・・)

 それはすなわち、テミスがタラウードとの戦闘をも視野に入れているという事になる。


「あの四人に、ギルティア『様』の勅命を無視してまで追撃する価値があるのですか?」

「何を小癪な……行軍移動中と言えど、敵前逃亡の理由など――」

「――いいえ」


 テミスの発した問いをタラウードは意趣返しとばかりに一笑に伏す。しかし、テミスはその答えにより一層頬を歪めると、悪魔のような笑みを浮かべてタラウードを見上げながら言葉を続けた。


「品を改めていただけばわかる事ですが、かの救援物資の殆どは、ギルティア『様』に賜った物。閣下におかれましては、魔王軍に籍を置く私が、たかだが四人の兵を追撃するために、魔王様の御心を投棄する事ができようはずも無い事はご理解いただけると思うのですが?」

「ウッ……グッ……それは真か?」

「はい。十三軍団が輸送してきた物資の箱には、その殆どにヴァルミンツヘイムの焼印が押されております」


 まさに、完璧な理論武装だった。

 相手が忠誠心をネタに責めて来るのであれば、その忠誠を利用して理由を作り出す。事実。逃がした連中を追うのならば、最前線へと赴かなければならないため、全部隊を集結する必要がある。結果、物資の番をしていた兵士たちも動員する事になり、ギルティアの物資は投棄される。


「フン……では、取り急ぎの報告は以上……。つきましては、我らが軒を借りる宿舎をご教示いただきたいのですが?」


 テミスは言葉に詰まったタラウードを見て手を下すと、粛々とした態度で話を進めた。

 あそこで、感情を優先して斬りかかってくるのであれば、最悪戦闘になる事もあり得たが、流石は一個戦線を任される将と言うべきか、最低限度の理性は持っているらしい。


「チッ……クク……宿舎か。おい……」

「ハッ!」


 苦虫を噛み潰したような表情のタラウードが指示をすると、彼の傍らに控えていた副官らしき男が進み出て、紙の束を差し出してくる。しかし、その表情に礼や畏れなどは無く、侮蔑と嘲笑を込めてテミスを睨みつけていた。


「クク……。確かに。では、私はこれにて失礼します。閣下(・・)


 テミスは紙束をひったくるように受け取ると、不敵な笑みでそう言い残して司令部を後にしたのだった、

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