340話 切り拓く者達
「セェッ!!」
「フンッ!」
高速で振るわれ、打ち合わされる剣が激しい金属音を奏で、その実力が拮抗している事を証明していた。
手数で圧すレオンに対し、テミスもまたそれに合わせて速度を上げていく。その剣戟はもはやヒトが斬り合う速度を超越していた。
「そこだっ! ファイアバレットッ!」
「チィッ……!!」
剣を打ち合わせた瞬間。レオンのガンブレードから小さな爆炎が放たれ、直撃を受けたテミスが大きく後ろへ弾き飛ばされる。
「猪口才な真似をッ……!」
「……一気に決めるッ!」
「この程度ッ――!!」
ガギィンッ! と。
テミスは即座に体勢を立て直すと、正面から一気に距離を詰めてくるレオンの刃を受け止めた。
この程度の爆炎ならば、ブラックアダマンタイトの甲冑のおかげで特にダメージを受ける事は無いが、こうしていちいち体勢を崩されては埒が明かない。
レオンとの鍔迫り合いに応じながら、そう感じたテミスは舌打ちを零す。連中の狙いは電撃戦だ。ならば、こうして侵攻を食い止めて時間を稼いでいるのはこちらにとって優位ではある。だが、南方軍がこいつらの食い破った穴を塞ぎ切れるとも限らない。
「クソ……南方軍は信用ならん……。こいつらを蹴散らした方が早い……かッ!!」
「――ぐっ!!」
苛立ち交じりにそう呟いた後、テミスはレオンの指がトリガーにかけられる前に蹴りを放ち、自ら一度下がって距離を取る。その直後、全力で地面を踏み付けて前へと踏み込むと、強烈な一撃をレオンに向かって振り下ろした。
「フ……随分と焦っているようだな? そんなに仲間が……部下が心配か?」
だが、レオンはそれを見越していたかのようにガンブレードを構え直すと頭上に掲げ、激しい音と共にそれを受け止める。そして、不敵に口角を吊り上げると、僅かにサキュドとミコトが交戦している方向へ視線を向けて、テミスを挑発するように静かに口を開く。
「クク……心配? そんなもの、アレには必要あるまい。それよりも、サキュドがああなった以上、お前こそ仲間の心配をした方がいいぞ?」
「何ッ――!?」
その言葉に、テミスはニヤリと唇を歪めて土煙へと視線を移す。
そこではちょうど、もうもうと立ち込める土煙の中から、紅い紫電のような魔力が迸り始めた所だった。
「腹立たしい事に、あのサキュドと言う奴は常に力を抑えているのさ。だが、力を解放したという事は、お前の仲間が奴の予想を超えて強かったか……。それとも、奴を怒らせるだけの何かをやらかしたか……。どちらにしても、私が心配する要素は微塵も無いな」
「っ……!!」
ぎしり……。と。
迸る強大な魔力を肌で感じながら、テミスの話を聞いたレオンは秘かに奥歯を噛みしめた。
おそらく、この女が言っている事に嘘は無いのだろう。その証拠に、剣を打ち合わせる手に焦りはあっても、土煙を見遣る表情からは焦りが微塵も感じられない。
つまり、いまミコトは迸る魔力が可視化される程に強力な相手と対峙して居るという訳だ。
だが、ミコトの力は元来、戦闘向きのものでは無い。現状を悟った瞬間、レオンの頭の中は真っ黒に塗り潰された。
――こんなところで終わりなのか?
突如として異世界に飛ばされ、突然発現した訳の分からないチカラを何とか操って今日まで生きてきた。
ふざけるなっ!! やっと……。やっと俺達の落ち着ける居場所を見つけたばかりだというのに……ッ!!
レオンは心の中で咆哮を上げると、確固たる意志を目に光らせてガンブレードのトリガーに指を掛ける。この技は諸刃の剣……敵陣深くに潜り込んだ今の状況で使えば、部隊が帰還できなくなる可能性も十分にある。
「だが……仲間を失うよりは良いッ!! 全弾発――」
「――遅い」
「っ!!!!」
しかし、レオンがトリガーを引くために武器の握りを弱めた刹那。
テミスは自らの剣をまるで蠢く蛇のように操ると、レオンのガンブレードを絡めとるように弾き上げる。
無論。その強烈で繊細な一撃を緩めた握りで耐えきれる訳も無く、レオンのガンブレードは軽い音と共に上空へと弾き上げられた後、近くの地面へ音を立てて落下した。
「ククッ……焦ったのはお前の方だったな? まぁ……今の所、私はお前達に恨みは無い。故に……降参すると言うのなら命までは取るまい。そこで黙って見て居ろ」
「っ……!!!」
テミスが、まるで蝋燭が溶けたような笑みをレオンに向けてそう告げた瞬間。土煙の中で迸っていた魔力一気に膨れ上がり、豪風となって土煙を吹き払ったのだった。
2年目突入一回目の投稿となります。これからもよろしくお願いします。
一周年記念として、新連載を開始しました。
こちらも、是非よろしくお願いします!
↓乙女の心と騎士の誓い↓
https://ncode.syosetu.com/n3991gj/




