339話 背中を預けて
「クッ……!!」
躱せない。
テミスの放った月光斬を見たレオンは、瞬時に事実を察知した。
ならば、できる事は一つだけ。出来る限りダメージを抑えてやり過ごし、反撃で痛手を負わせるのだ。
そう決断したレオンは防御の態勢を取ると、来るであろう衝撃に備えて気合を入れた。
けれど。
「シルトッ!! 七重奏ッ!!」
「――っ!!」
レオンの背後から鋭く叫ぶ声が響き、同時に一発の銃声が鳴り渡る。
その瞬間。薄青く発光する七枚の光の壁が、高速で迫り来る斬撃とレオンの間に生成された。
そして。その直後の事だった。
テミスの放った月光斬が着弾し、血を揺るがす轟音と共に巻き上げられた土埃がレオンの姿を包み込む。
その一瞬。レオンは、テミスの死角となったその隙を突いて前進すると、土埃を突き破って猛然斬りかかった。
「フン……甘いッ!!」
「――っ! チッ!」
しかし、テミスは心底下らなさそうに鼻を鳴らすと、待ち構えていたかのようにレオンの斬撃を悠然と防ぎ切り、二人は鍔迫り合いの形で睨み合って膠着する。
「ウフッ……やるじゃない……」
ガギィンッ! と。
その傍らで、サキュドは横目でその光景を眺めながら、自らの槍を受け止めたミコトを見下ろして頬を歪めた。
まさか、後ろで震えているだけの小娘が、テミス様の月光斬を超える反応速度を見せるとは……。
サキュドは目の前で起こった事実を抽出すると、その顔に狂笑を浮かべたまま、意識を遊びから戦いへと切り替えた。
「アハッ……アハハッッ!! 思ったよりも愉しめそうっ!」
「ぐぅっ……くっ!!」
そして、言葉と共に槍へ力を籠めると、それを受け止めたミコトのガンブレードがミシミシと軋みを上げる。
それは、幼女然とした姿からは想像もつかない程にの力で、全力を以て応ずるミコトの顔が、みるみるうちに苦しいものへと変わっていった。
「ねぇっ? アナタは何ができるの? 何を見せてくれるのっ?」
まるで、無邪気な子供のように瞳を輝かせながら、サキュドはぎりぎりと押し込む力を強くしていく。それに比例して、ミコトのガンブレードが上げる悲鳴の軋みは大きくなっていった。
だが、ミコトとて自らの劣勢を座視しているだけでは無かった。
ピシリ。と。サキュドの槍を受け止めるガンブレードが嫌な音を立てた瞬間。背後のシャルロッテに鋭く呼びかける。
「うぅっ……くっ……シャルロッテッ!! ブーストを僕にッ!!」
「……えっ!? ッ――!! 了解ッ! ブースト! 四重奏!!」
刹那。シャルロッテは瞬時に銃口をミコへと向け、迷いなくその引き金を引き絞る。
すると、シャルロッテのガンブレードはけたたましい咆哮を上げ、主人の命に従ってミコトに弾を叩きこんだ。
――しかし。
「くふふっ……手遅れよ」
「ウッ……!!」
唇をさらに釣り上げたサキュドの声と共に、その槍を受け止めていたガンブレードに微かな亀裂が走る。そして、槍はまるでその穂先でガンブレードを切り進むかの如く、みるみるうちに広がってゆく亀裂を突き進むと、ミコトの肩を浅く抉った。
「アハハッ!! よっわぁ~い!! アタシに見せる間もなくこんなに簡単に壊れちゃうなんて……まだ後ろの子の方が戦えてるじゃないっ!」
サキュドは高笑いを上げると、武器を失ったミコトを討ち取るべく、突き出した槍を引き戻して、その未だ幼さの残る顔面に向けて突き立てた。
――だが。
「フフッ……。本当に……そうかな?」
「なっっ――!!」
涼し気な声と共に、サキュドの手に伝わって来たのは柔らかに空を貫く感触だけだった。
刹那。驚愕と共に意識をミコトへと戻したサキュドの目に飛び込んできたのは、とても信じがたい光景だった。
自らが付いた槍の矛先……そこにあったのは、柔らかな笑みを浮かべるミコトが砕けたはずのガンブレードを振りかぶって猛進してくる姿だった。
「見せてあげるよ」
「ヤバッ――ぎゃんっっ!!」
ガゴォンッ! と。
サキュドは咄嗟に槍の影へ体を逃がすが、シャルロッテの魔法で強化された一撃を受け切る事ができず、地面に叩き付けられて悲鳴を上げた。
「サキュドォォッ!! ――ムゥッ!!」
その悲鳴に、逆側でファルトと剣を交えるマグヌスが、救援に向かおうと体勢を変える。
しかし、軽薄な笑みを浮かべたファルトがその前に立ちはだかり、その眼前で挑発するように片目を閉じながら剣を叩き付けて口を開いた。
「へへっ……。だから、アンタの相手は俺だって言ってんだろ?」
「グクッ……小癪な……っ!!」
「悪いが、俺達は最強だ。援軍か何かは知らねぇが、俺達の前に現れたことを後悔するんだなッ!!」
「ハッ……この程度で最強だと……? 笑わせてくれるッ!! ならば、このマグヌス……全力を以てその称号を奪い取ってやろうッ!!」
ファルトの挑発を受けたマグヌスは、荒々しく剣を振るって弾き飛ばすと、そう高らかに宣言したのだった。
本日の投稿で本作、セイギの味方の狂騒曲は初投稿から一年となります。
これまで毎日投稿を続けて来れたのは、皆様の応援のお陰です。ありがとうございます。
これからも、皆様に面白いと思っていただけるようにセイギの味方の狂騒曲を書き続けていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
また、明日の二年目突入最初の投稿にならび、一周年記念第一弾企画としまして、新連載を開始いたします。
こちらは不定期連載ではありますが、是非ご期待ください!!
2020/07/15 棗雪
2020/11/23 誤字修正しました




