336話 一気呵成
ズドォォォォォンッ!!! と。
進軍してくる部隊を食い止めるべく出撃したテミス達の前方で、目を見張る程に巨大な爆発が巻き起こった。
その爆風は、かなり離れた位置に居るはずのテミス達の頬にも吹き付ける程強力で、前世の記憶を持つテミスは、まるでミサイルでも打ち込まれたのかと思った程だった。
「クッ……やはり連中はとんでもない戦力を有しているらしい……。マグヌス! サキュド! 私は先に行くッ!」
「っ!? テミス様!? お一人では――」
刹那。テミスはそう言い残すと騎馬から飛び降り、その強靭な脚力に加えて能力を発動して、止めるマグヌスの声すら置き去りに疾駆した。
マグヌスの言い分は理解できる。敵は辺り一帯を吹き飛ばすほどに強力な技を使う……その戦力は間違いなく軍団長級だ。少なくとも、マグヌスやサキュドを随伴させるのがセオリーだろう。だが……今回ばかりは勝手が違うのだ。
「急げよ……マグヌス、サキュド」
テミスは雷のような速さで駆けながら、チラリと後ろへ視線を移して呟いた。
現在、この戦場へ来ている十三軍団は三個中隊だけだった。この出撃はテミスの独断。故に……言外ではあるが、本来の任務である物資の輸送も放棄できない。
だからこそテミスは、野営地に物資を守護するための最低限の兵力として、一個中隊を残して来ざるを得なかったのだ。
「だが、幾ら強力な技を扱えても、あれ程の大技を放った後は消耗するはずだ。ならば……その隙を突くッ!!」
と。テミスは自分を鼓舞するように呟くと、前方に見え始めた人影の一人に狙いを定め、背負った大剣を抜き放った。
その人影は、幸いこちらに背を向けている。背後からの一撃ならば、確実に一人は殺れる筈だ。
テミスはそう確信し、駆けた速度すらも込めて大剣を背に向けて叩き込んだ。
――しかし。
ギャリィンッッ!! と。
直後にその手へ襲ってきたのは、猛烈な金属音と跳ね返って来た衝撃だった。
だが、奇襲を防がれた事実よりも、テミスは自らの剣を受け止めた男が握る武器に衝撃を受けていた。
「――!? これは……っ!!? ガンブレード!?」
「……っ!」
驚きはそのまま言葉となってテミスの口から零れ、それに反応した目の前の少年――レオンはピクリとその形の良い眉を蠢かせる。
四人一組……こいつらが例の特記戦力か?
瞬時に平静を取り戻したテミスが、レオンと刃を合わせながらその後ろに控えるファルト達を視認する。
「新手かッ!」
「このっ……!」
直後。
テミスの存在を知覚したファルトが、レオンの横合いからテミスへと斬りかかり、それに合わせてミコトが弾丸を放つ。
「チィッ……!!」
だが、テミスは大剣を払うように動かすと、レオンの剣から加わる力をも利用して後ろに跳び下がる事でそれらを回避した。
「あの剣……まさか、ブラックアダマンタイトか……?」
「へっ……馬鹿言え……。ブラックアダマンタイトって言ったら、強力だけど高過ぎるってんで、上の連中の装備でも欠片程度しか使われないモンだぜ?」
「うん……それにあの子。斬りかかっては来たけど、人間……だよね?」
「少なくとも、見た目は化物じゃないわよね……」
しかし、レオン達は飛び下がったテミスに追撃を仕掛ける事は無かった。むしろ、この戦場において異質であるテミスの存在を注意深く観察しながら、声を潜めて言葉を交わしている。
「そもそも彼女……敵なの? 他の連中とはなんだか雰囲気が違うけど……」
「……敵なのは間違いない。あの一撃……あの女は、確実に俺を殺す気で剣を振り下ろしていた」
ミコトの言葉に、レオンは未だ手に残る衝撃を噛みしめて答えを返す。
華奢な体躯だというのに、その力はトロルデーモンを遥かに上回っていた。仮に彼女が敵だというのなら、相応の覚悟で立ち向かわねばならないだろう。
「…………」
その一方で、奇襲に失敗したテミスもまた、注意深くレオン達の様子を窺っていた。エルトニアは魔導大国……そう聞き及んでいたから、てっきり相手はローブに身を包んだ魔導士どもだと思っていたのだが……まさか、ガンブレードを携えているとは、予想外にも程がある。
「オイ……! お前達だけか?」
「――っ!!」
だが、そのような状況でも機先を制したのはテミスだった。
テミスは構えていた大剣を地面に突き立てると、まるでつい先程斬りかかった事が無かったかのように問いかけた。
仮にこれが連中の電撃作戦だったとしても、こちら側の態勢が整うまで時間を稼いでしまえばこちらの勝ちだ。テミスはそう確信すると、視線だけを交わしながら口を噤むレオン達に向けて言葉を重ねる。
「どうした……? まさか、言葉が通じていないのか?」
「っ……! いや……言葉は解る」
「なんだ……余計な心配をさせないでくれ。で……? どうなんだ?」
「っ……!!」
テミスが薄笑いと共に問いを繰り返すと、レオン達は再び黙して警戒を露にした。
軽い音と共に構えられたレオンの剣先は油断なくテミスへと向けられ、その傍らに立つファルトも、シャルロッテ達を背に庇ってテミスを睨みつけている。
「ククッ……そう緊張するな。私は正真正銘の人間……援護に駆け付けたのだよ」
その様子を見たテミスはニヤリと頬を歪めると、悠然とした口調で言い放ったのだった。




