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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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335話 獅子の咆哮

「たかだか四人だッ! 囲んで潰すぞッ!!」

死霊術師(ネクロマンサー)部隊は後方から援護ッ! トロルデーモン隊、オレに続けッ!!」


 テミス達が戦線の異変に気が付いたのと同時刻。

 前線では、血で血を洗う激闘が繰り広げられていた。

 その中心では、たった四人の少年少女たちが、雲霞の如く群がる魔王軍の兵たちを、次々と薙倒している。


「オォッ――!! コイツで終わりだッ!!」

「装填完了! ……いけるぞッ!」

「強化魔法・ブースト……準備できてるわっ!」

「後ろは任せて! レオン達は前をッ!」


 ファルトの咆哮と共に、屈強な肉体を持つトロルデーモンが切り裂かれて地面へ崩れ落ちる。だがその背後からは、一体の屍兵が奇襲を仕掛けていた。しかし、すかさずミコトが放った弾丸が、今にもファルトへ襲い掛からんとしていた屍兵を撃ち落とす。

 それは、一部の隙も無い完璧な連携だった。

 阿吽の呼吸で互いの隙をカバーし合いながら、レオン達は着実に前へ、前へと斬り進んでいく。


「戦況はッ――!?」

「後方は五分五分……けれど、そう長くは持たないかもっ!」


 敵を両断しながら鋭く問いかけたレオンの声に、彼等の陣形の中心からシャルロッテの声が響く。彼等の中で唯一、シャルロッテだけはその陣形の中心で固く守られていた。

 その理由はただ一つ。

 シャルロッテの魔導適性は支援方面に特化しており、その内容は味方の強化や回復から遠見まで網羅しているからだ。つまりシャルロッテは、一人で何役もの役割をこなす最強の支援術師であり、レオン達特務部隊の要とも言えた。

 だが、そんなあからさまに戦わない遊兵を守るように戦うレオン達の行動を、魔王軍の兵士たちが見逃すはずも無く……。


「中心のメスだッ!! ヤツを狙えェッ!!」

「ひぃっ……!?」


 異常(・・)に気付いた魔王軍の兵士たちは口々に叫びをあげると、レオン達の陣形の真ん中で支援に徹しているシャルロッテへと狙いを定めた。

 同時に、凄まじい数の殺意を向けられたシャルトッテが肩を震わせ、小さな悲鳴を漏らす。


「ゲヘヘッ……! 人間のメスたぁちと物足りねぇが、今すぐに降参すりゃたぁっぷりと可愛がってやるぜェ……?」

「ハハッ! よかったじゃねぇの、貰い手の立候補らしいぜ?」

「ッ……!! 冗談じゃないわよッ! あんな化物願い下げだわッ!!」


 しかし、そんな魔族たちの視線の先で、ファルトがからかうようにシャルロッテに笑いかける。すると、殺気に竦んでいたシャルロッテは弾けるように気炎を上げ、嘗め回すような視線で自らを見ていた魔族を指差して怒鳴り声をあげた。


「そんな事は殺してから考えろッ! ヒヒッ……意識を残したまま肉人形にしてやるのも面白いなぁ?」

「っ~~~~!! さ……流石に気持ち悪ぅ……」


 だが、ファルトへの怒りによって立ち直りかけたシャルロッテの心も、その思想すら化物じみた魔王軍の兵士たちが向ける狂気によって挫けていく。

 それほどまでに、異形の化物や腐りかけた屍兵、そしてそれを操る陰気な死霊術師達がシャルロッテへと向ける視線は、彼女を獲物として嬲る愉しみに輝いていた。


「チッ……」


 それ故に。熱狂に猛り狂う彼等は気付く事ができなかった。

 彼等が狙う獲物の傍らで、静かに怒りを燃やす獅子が、舌打ちと共にゆらりとその構えを変化させたのを。


「安心しろシャルロッテ。こんな下種共、一瞬で片付けてやる」

「レ……オン……?」

「っ……!!」

「っ!?」


 レオンの気迫はまさしく鬼気迫るもの。それはレオンの仲間達すらも身震いする程のものだった。

 そして、一番最初にその身から溢れ出す静謐な怒りに気が付いたのは、最もレオンの間近に居たシャルロッテだった。続いて、ミコトとファルトが同時に感付き、肌を粟立たせるその怒りに、ぶるりと身体を震わせた。


「っ――!? 奴等、何かを仕掛け――」

「――吹き飛べ。全弾発射(フルバースト)円状形態サークレットエディション


 直後。レオンの殺気が魔王軍兵士たちにも伝わり、彼等は警戒の声を発するが、時は既に遅かった。

 前方に切り込んでいたファルトが、飛び込むようにレオン達の方へと退いた瞬間。

ガンブレードを構えてクルリと一回転をしたレオンの周囲に、微かに赤い光を放つ魔力が煌めく。

 それは、レオンの放った魔法から迸る圧縮された魔力の欠片だった。

 しかし、その赤い輝きを、魔王軍の兵士たちがその目に映す事は無かった。

 何故なら……その煌めき外側では、レオン達を中心に、指向性を持って放たれた円形の爆撃が、軒並み彼等の敵を吹き飛ばしていたからだ。


「………………。すっ……げぇ……」


 もうもうと立ち込める土煙が晴れた後、ファルトは思わず驚愕の呟きを漏らしていた。

 凄まじい爆発によってその視界は綺麗に拓かれていた。レオンが技を放った後の戦場に残っていたのは、彼の周囲に居た特務部隊の四人だけだった。


「……行くぞ」


 ガシャリ。と。

 レオンは自らのガンブレードから薬莢を排出し、新たな弾を装填しながら部隊を振り返って指示を出す。その声は冷静沈着であると同時に余裕すら感じさせ、激しい戦いを潜り抜け、魔力消費の激しい全弾発射(フルバースト)を使用した直後にはとても見えなかった。


「――っ!! 待ってっ! 一部隊……? 凄い速度で突っ込んでくるッ! 正面! ……レオン! 後ろよッ!!」

「何ッ――!?」


 ギャリィンッ!! と。

 シャルロッテの警告に、レオンがほぼ反射的に即応した瞬間。激しい金属音と共に、想像を絶するほど凄まじい衝撃がレオンの手に襲い掛かった。


「――!? これは……っ!!? ガンブレード!?」

「……っ!」


 レオンの耳が、謎の襲撃者が驚きの声を漏らしたのを捕らえる。

 同時に、レオンは己が視界に映る光景を一瞬だけ疑った。

 腕がもげそうなほどの強力で叩き込まれたのは漆黒の大剣だった。そして信じ難い事に、打ち合わせた剣の先で驚きに目を見開いているのは、ほんのりと紅く染まった輝く銀髪をたなびかせた一人の少女だった。

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