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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第9章

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333話 南へ……

 数日後。

 新たにギルティアからの依頼を受け取ったテミスは、商隊(キャラバン)に偽装した馬車群を指揮していた。

 だが、その顔は不機嫌極まりなく、近付く者すら威圧する程の気配が、延々と垂れ流されている。


「っ……テミス様……」

「なんだ?」

「お気持ちは重々理解しておりますが、どうかここは悋気をお納めになっては……部下たちが怯えております」

「……別に怒って等居ない。ただ、気に入らんだけだ」


 気を利かせたマグヌスがそう囁くも、テミスはまるで子供のような理論を展開すると、再びむすくれた顔のまま黙り込んでしまう。


「やれやれ……こりゃ相当ね……。ま、アタシも気持ちはわかるわよ。こんな大荷物を抱えて南方へ向かわされるなんて……アタシ等は補給部隊じゃないっての」


 だが、会話はそこで途切れず、隣で寝そべっていたサキュドが、チラリと後ろへ目をやりながら愚痴をこぼした。

 その先には。荷台一杯に詰め込まれた物資が山積みにされており、それに押しつぶされるかのように小さくまとめられた野営道具が、傍らへと追いやられている。


「それだけではない……。ギルティアの奴が寄越した追加情報では、敵方に冒険者将校並みの力を持つ特記戦力が現れたらしい」

「ほほぅ……? それはそれは……楽しみですね?」

「はぁ……頭の痛い事だ」


 むっつりとした顔でため息を吐いたテミスが言葉を添えると、サキュドは目を輝かせて笑顔を零す。だが、部隊を預かる者としては、敵の戦力など弱いに越した事は無いし、その部隊が奇襲性に特化した四人一組の部隊(チーム)だなんて聞いた日には、いっそ転進してファントへ戻ってやろうかと思ったくらいだ。


「こちらは過積載に加えて人数不足。鈍重極まる縦隊だぞ……? 格好の獲物ではないか……」


 事実。大量の物資を輸送しているテミスたちの部隊の足は遅く、通常馬車を使えば一週間ほどの行程だというのに、いまだその四分の一も進んでいない始末だった。

 この分では、少なく見積もったとしても通常の倍は時間がかかる。


「だがまぁ……名目は視察だ。急ぐこともあるまい……無理に急いで馬が潰れては、それこそ元も子もないからな」

「ハッ……! それでは、全ぐ……全隊に周辺警戒を強めて行軍するよう指示をします」

「あぁ……。それから、後方にも気を払え。()でも付いて居たら面倒だからな」

「承知しました!」


 気だるげにテミスが命を下すと、マグヌスは即座に耳に手を当て、通信術式を用いて部隊に指示を伝える。

 腕が立つとはいえたったの四人。頭数はこちらが圧倒しているのだ、例え奇襲されたとしても、大した被害を出さずに退ける事は出来るだろうが、アルスリードやサージルのような例外(・・)も存在する、注意をしておいて損は無いだろう。


「だが、懸念事項は各個撃破か……」


 同時に、テミスは緩みかけていた脳味噌を切り替えると、部隊の布陣を頭の中に思い浮かべる。

 現在。十三軍団は大規模商隊(キャラバン)を装って南下している。また、極端に足が鈍い為、その配置は縦に細長く並ぶ縦列隊形となっていた。

 この場合、部隊中央に襲撃を受けたとして、全ての部隊の集結にかかる時間はおよそ一分弱……その間は、数個小隊から数個中隊規模の戦力で襲撃者と戦う羽目になる。


「クソ……戦力を分散させるか……? いやしかしっ……」


 テミスは爪を噛むと、その苛立ちを発散するかのように頭を掻きむしった。

 勿論。間近にいるサキュドにとっては、苛立っていた上司が唐突に怒りを露わにするという奇行に映り、一瞬だけその目を丸くしてテミスを見つめた。


「全く……移動中の退屈を凌げば良いかと思っていたが……とんだ災難だ。ひとまず、次の休息ポイントで護衛の数を増やし……」

「ね。ね。テミス様?」

「……!? 何だ、サキュド。今は少し考え事をだな――」

「――ならいっそ、守らないって手もあるわよ?」

「なに……?」


 突如。その呟きを聞いていたサキュドが口を挟み、テミスの思考が中断される。

 思考を呟きで漏らしていたのは自覚しているが、それを聞いてなお、部隊を守らないとはどういう事だろうか?


「ん~とね。この街道ってほぼ一本道じゃない? だから、襲撃のポイントは限られてくる。例えば、森を抜ける時とかね」

「あぁ……」

「なら、そこだけ暇してる奴等を何人か先行させて偵察して、安全を確保してから行けばいいと思うわ」

「――っ! 斥候を放つのか……。成る程ッ!」


 サキュドの言葉に、テミスは天啓を得たとばかりに目を見開いて声を上げる。

 確かに、私は襲撃された時に部隊をどう守るかに囚われ、その本質を考えていなかった。

 兵の数を割く事になる為、休息時間を重ねてピンポイントで防備を固める必要があるが、サキュドらしい大胆な方案だ。


「フフ……やるじゃないかサキュド。見直したぞ。その案で行こう」

「お力になれたのなら……って、テミス様? 今、見直した……と? 普段はアタシの事をどう思っているのですか?」

「ンッ……? いや、頼もしいと思っていたが、軍策にも明るいとは……」

「あ~っ!! テミス様! それ遠回しにアタシの事馬鹿だって思ってたって事ですよねッ!? ひっど~いっ!!」

「っ……!! 嗚呼……」


 失言だった……。これでは、部隊の運用で頭を悩ませていた方がマシだったかもしれないな……。と。サキュドにぐいぐいと詰め寄られながら、テミスは頭を抱えたのだった。

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