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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第8章

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307話 それぞれのセカイ

「おい! 離せよ! どこへ連れて行こうってんだっ!! なんでお前とフリーディア様が一緒に歩いてるんだっ!」


 アルスリードが配達(・・)された翌日。

 テミス達は再びオヴィムの元を訪れるべく拠点を出立し、林の前まで到着していた。

 しかし、想定よりも少し早くアルスリードが目を覚ましたせいで、テミスは子守を余儀無くされていた。


「チッ……本ッ当に喧しいガキだな……。いっそのこと、もう一度眠らせてやろうか……」

「テミス! アルスも! 黙ってついてきて!」

「えぇ……? だってさぁ……」


 早々に苛立ち始めるテミスの雰囲気を察したフリーディアが、その口にした事を実行に移す前に仲裁に入る。

 すると、アルスリードは不満気に口を尖らせながらも、フリーディアの言う通りに口を噤んだ。


「フン……」


 これだから、生意気盛りの子供は嫌いだ。自分の中の価値観を盲信し、それがさも全世界共通の正義であるかのように周囲へと押し付ける。そして、その価値観が間違いであったとしても、決してその間違いを認めずに暴れまわるのだ。


「どんな世界でも……子供は子供……か」


 テミスはそうボソリと呟くと、以前の世界の事をぼんやりと思い出していた。

 こちらの世界に比べ、満たされた世界であったはずのあちら側(・・・・)でも、子供はやはり子供だった。傲慢で我儘で憎たらしく……そして、何よりも脆い存在。それ故に、あの世界の子供は様々なもので保護されていた。それを鑑みるのならば……あの世界の子供に比べて、ロクな庇護も無く育ったアルスリードが、こうして子供らしくあると言うのはある意味で喜ばしい事なのだろうが……。


「……? なんだよ。俺の方をそんな見つめて。何処へ連れて行かれようと、怖くなんてねぇんだからな!」


 何気なく見つめるテミスに対し、アルスリードはこぶしを握り締め、その目を睨みつけてそう宣言する。しかし、テミスの目にはその拳が僅かに震えているのを確かに捉えていた。

 生意気盛りとはいえ所詮は子供か……。憎き魔族の坩堝に囚われたかと思いきや、今度は物々しい拘束具に囚われ、行き先も告げられずに歩かされる。大の大人ですら恐怖を覚えるであろう状況で、虚勢を張れるだけ大したものだと評するべきだろう。


「……そうか」


 改めてアルスリードの現況を考え直すと、憐れみの情が湧いてこないでもない。だからこそ、テミスは憎まれ口を挟まず、ただ一言告げただけで歩みを進めた。


「それで……勝算はあるの?」

「さあな。私としては、本当に戦いを見ただけで、あの小僧が心変わりするかの方が疑問だ」

「それはアルス次第……ね。絶対とは言えないわ」

「ハッ……結局ソレか……」


 フリーディアがテミスへと身を寄せて、囁くように問いかけると、テミスは肩をすくめて問い返す。しかし、それに返って来た返答は芳しいものではなかった。


「まぁいい……じきに到着だ。くれぐれも、余計な真似はしてくれるなよ?」

「っ……しないわよ……」


 生い茂る木々の隙間を抜けながらテミスが釘を刺すと、フリーディアは呆れたようなため息を吐きながらそれに応じた。フリーディアとしても、最終的に目指している目的は違えど、その道は同じなのだ。ここで変な横槍を入れる理由は無かった。


「そうか……では……ふっ!!!」

「っ!!?」


 フリーディアがため息を吐いた途端、テミスは渾身の力を込めて、手に持っていたアルスリードの拘束具へと繋がる鎖の柄を、傍らの大きな木へ叩きこんだ。

 人間の膂力を遥かに凌駕するテミスの力を以て叩き付けられた金属の柄は、まるで杭のようにミシミシと木を穿って楔となる。


「お……おい! 何してんだよ……?」


 その行動を見て、見知らぬ林の広場の端へ置き去りにされるとでも思ったのか、不安気に声を震わせたアルスリードが声を上げた。

 しかし、その後ろから進み出たフリーディアはアルスリードの頭を優しく撫でると、背筋を伸ばしてテミスの横に並び立つ。


「フリーディア様……?」

「これからおこる事をよく見て、聞いていなさい。アルス。そして、ちゃんと考えるのよ」

「っ……? 何を言って――」

「――さあ、行きましょう。テミス」


 フリーディアはアルスリードを振り返ってそう優しく告げた後、緊張した面持ちでテミスへと語り掛ける。その様子はまるで、死地へ赴く親達が我が子へと最期の別れを告げているようだった。


「……言ったはずだぞ。フリーディア。邪魔をするな……とな」

「えっ……?」


 けれど。

 フリーディアの意思に反し、テミスはゆっくりとした口調で言葉を紡いだ。同時にテミスは手を閃かせると、その意識を掻い潜ってフリーディアが腰に提げていた剣を抜き盗った。


「――っ!? テミスっ! 待っ――」

「セェッッッ!!!」


 気合一閃。

 フリーディアが言葉を放つ前に、テミスは抜き盗ったフリーディアの剣をアルスリードの鎖を叩きこんだ大木へと全力で突き立てる。

 結果。コツンという軽い音と共に、研ぎ澄まされた剣は音も無くその根元まで突き刺さった。


「なっ……」

「っ……」

「フン……お前たちは見学だ。こんな愉しみ、誰が譲れようか……」


 突拍子もないテミスに行動に、アルスリードとフリーディアは絶句してその場に立ち尽くす。だが、テミスはそんな二人を歯牙にもかけず、凶悪な微笑みと共に芝居がかった口調でそう言い残すと、背負った大剣のボロ布を剥ぎ取って、オヴィムの待つ聖域へとゆっくりと足を踏み入れたのだった。

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