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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第8章

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306話 罪の在処

「ご苦労だった。悪かったなこんな仕事を頼んで」

「全くですよ……。テミス様ならば兎も角、まさか我々が(・・・)越境するなんて……」


 数日後。

 テミス達の拠点の前には、簡素な一台の荷馬車が停車していた。

 そしてその前では、テミスが目深に外套を被った大男から巨大な麻袋を受け取ると、親し気に微笑みを浮かべて言葉を交わしていた。


「何はともあれ、マグヌス。『荷』が届いたのならば、こちらはあと数日中に片が付く。それまで決して、ボロを出すなよ?」

「ハッ……! 万事お任せください。今頃、サキュドが派手にやっている事でしょう」

「やれやれ……」


 テミスは大男……マグヌスを見上げてそう告げて、受け取った麻袋を拠点の中へと放り込んだ。すると、中からはそんなテミスに口やかましく文句を叫ぶ声が戸口まで響いて来る。


「……ったく。ずっとあの調子だ。喧しくてかなわん」

「フフ……それにしては、楽しそうなお顔をされているように思えます」

「っ……気のせいだ。断じて気のせいだ」


 続く小さな麻袋を手渡しながら、マグヌスが肩をすくめて見せたテミスへと笑いかけた。しかし、テミス自身はその言葉に顔を顰めると、面倒くさそうな声色でマグヌスを睨み付ける。


「そんな事より、荷の状態(・・・・)は……?」

「ハッ! サキュドの催眠魔法により眠らせてあります。何もしなければ、明日の昼頃には目を覚ますかと」

「フム……いい塩梅か……。ご苦労。すまないが、後暫く任せるぞ」

「ハッ!!」


 テミスの言葉に大きく頷いた後、マグヌスはひらりと宙に身を躍らせて荷馬車に飛び乗ると、慣れた手つきで回頭させてファントの方へと立ち去っていった。


「……あちらは、どうだって?」

「問題無いそうだ。と、言うかフリーディア……それは私の荷だ。勝手に開封(・・)するのはいかがなものかと思うがな?」


 マグヌスの荷馬車が見えなくなるまで見送ってから、テミスが室内に戻るとそこでは、フリーディアが先程受け取った麻袋の口を開き、中に詰められていた()を確かめていた。


「アルスの事を『荷』なんて呼び方をしないでくれるかしら? そもそも、あなたたちこの子に何をしたのよ? 全然起きないんですけどっ!?」


 床に膝を付き、アルスリードを抱きかかえたフリーディアが、テミスを睨みつけて気炎を上げる。しかし、テミスはそんな様子を一笑に伏すと、自らの定位置と化した椅子へ腰かけて口を開いた。


「当り前だろう。アルスリードは我々の捕虜だ。何の対策もせずに連れ出すとでも思ったか?」

「っ……!! それはっ……」


 淡々と言い放つテミスに、フリーディアはアルスリードの額に手を当てて必死で抗弁をした。そもそも、彼等の心を救う為の手立てとして、アルスリードが必要だとテミスへ言ったのはフリーディアなのだ。領域外へと彼を連れ出す事ができただけでも、十分過ぎる事だというのはフリーディア自身も良く理解していた。

 だが。今目の前で嗤っているのは、あの(・・)テミスなのだ。幾らか牽制で言い含めておかねば、アルスリードを殺しこそしないだろうが、危険な目に遭わせかねない。


「フン……それが道理という物だ。いくら利用されただけとはいえ、この小僧がファントをその手で吹き飛ばそうとしたのは間違いないのだからな」


 テミスは呟くようにそう吐き捨てると、後から受け取った麻袋をフリーディアに向けて放り投げ、つまらなさそうにため息を吐いた。

 事実。テミスにとってこの状況は面白くない。

 状況は僅かに好転してこそいるものの、目の前に積まれた課題は山ほどある。だというのに、フリーディアが気まぐれを起こしてこの小僧を逃がしでもしようものなら、即座に私が窮地に立たされかねないというオマケ付きだ。


「っ……!? これは……?」


 ガシャリッ! と。テミスの放り投げた麻袋が、弧を描いてフリーディアの手へ収まった瞬間。不吉な金属音が袋の中から鳴り響いた。

 その音を敏感に察知したらしく、表情を硬くしたフリーディアがその視線に懐疑を込めてテミスへと向ける。


「小僧の拘束具だ。牢でも無い場所に罪人(・・)を置いておくのだ……それくらいの用心は当然だろう?」

「――っ!! ……っ! くっ……。わかっ……たわ……」


 その視線に対し、テミスは冷たい視線を向けると、あえて罪人という言葉を強調してフリーディアへと問いかけた。

 様々な事情や側面を加えたところで、アルスリードという少年が、害意を以てファントを吹き飛ばそうとした事実が消える事は無い。その害意が魔族に対する不信を基としていると予測したからこそ、それを排するために今、テミス達は動いているのだ。

 だからこそ、その意識が拭えぬ間、アルスリードが罪人な事に変わりはないし、いうなればファントの町を治める私が、その身の罪を雪いだと認めるまで彼の罪が消える事は無い。

 フリーディアともいい加減短く無い付き合いだ。その道理を理解したのか、はたまた抗弁するのが無駄だと諦めたのか、フリーディアは小さく頷いてアルスリードの体に鎖のような拘束具を装着していく。


「……フン。何もかもが、気に食わん」


 自分たちの用意した拘束具が、カチリと小さな音を立てて淡い光を放ったのを確認すると、テミスは不機嫌に鼻を鳴らして呟いたのだった。

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