幕間 魔女の憂鬱
幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。
主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。
「ハァ……勘弁してほしいわ。全く」
ドロシーは一人、自らに与えられた居室でため息を吐いた。
ギルティア様に何を吹き込んだか知らないが、あのテミスとか言う女は今、先遣隊としてファントへ向かったらしい。
「間違いなく人間……よね……?」
ドロシーはそうひとりごちりながら、いまだ鈍く痛むあばらをまさぐった。
「っ! ……てて」
瞬間、鈍い痛みが鋭いものへと変わり、ドロシーの肩がびくりと跳ねた。診た所折れてはいないようだがどうにも酷く痛めてしまったらしい。駄目だと解ってはいるものの、違和感がぬぐえないからどうしても手が出てしまう。
「…………魔女が形無しね」
そう呟いてドロシーは皮肉気に頬を歪めた。
この傷の原因。あの爆発する斬撃を受けた魔法は、間違いなくあの場面で発動できる魔法の中で最強の物だった。例え、一瞬しか発動時間が無かったとしても、ドロシーは大抵の攻撃は無力化できる。
「戦い方を間違えた? ゴーレムを……いや、それじゃあの速さには対抗できない……」
頭の中で何度もあの戦闘を思い返し、対策を立てる。ギルティア様がどういう考えなのかは知らないが所詮は人間。いつ牙を剥いてくるかわかったものでは無いのだ。
「いや……一番の脅威はあの妙な力……錬金術に見えたけど……」
そう呟くとドロシーは、本の山の中から一冊の大きな本を掘り出して開いた。
「載ってる……訳ないか。いくら何でも構成が早過ぎる」
ドロシーが知る膨大な知識を以ても、石畳を剣へと変化させるなんて技術は錬金術以外にはない。しかし、その錬金術では石畳を剣にするには最低でも数か月はかかる。
「私が知らない魔術……か……待てよ?」
ドロシーは窓から空を見上げると、艶のある声でため息を吐く。冷静に考えてみれば、これは大きなチャンスなのではないか?
私は今まで、この世界の魔術は知り尽くしていると思っていた。人間共が魔力を補うために扱う、涙ぐましいまでの努力が施された術式も、今や使い手の居なくなった古代の術式まで、私は余す事無く知っている。だからこそ、この胸の高鳴りは久しく忘れていた。
「業腹だけど、楽しみは増えたわね」
ドロシーは舌なめずりをしながら呟く。新たな魔術など、自分で生み出す事でしかもう出会う事は無いと思っていた。ある意味で私は、絶望していたのかもしれない。知識欲が赴くまま魔法をかき集め、魔女と呼ばれるようになったこの世界に。
「世界が……色付いて見えるわ!」
様々な考察が頭の奥で弾け、いくつもの仮説が互いを喰い合い先の見えない結論へと伸びていく。人間が新たな魔導法則を導き出した? 可能性はある。こと魔術の効率化において、人間ほどこの分野を探求した種族は居ないだろう。一部の例外を除いて、他種族よりも魔力量が劣る人間がついに深淵へと至ったのだろうか?
「フフッ……ウフフフフッ……」
ドロシーは上機嫌な笑い声と共に、傷の痛みも忘れて羊皮紙に様々な術式を描いていく。その胸にわだかまっていた憂鬱は、いつの間にかどこかへと霧散していた。




