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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第8章

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289話 テミスの選択

「――っ!? ここはっ……? ――痛ッ……!」


 がばりっ! と。

 意識を取り戻したテミスが、その身を跳ね上げたのは白翼騎士団一行が野営を張り終えてから数時間後の事だった。


「馬車の……中……? って……フリーディア!? ……だと?」


 テミスが状況の呑み込めぬままに周囲を見渡すと、自らの傍らでスヤスヤと寝息を立てるフリーディアが目に入る。一瞬。驚きと困惑で叫びを上げそうになったが、テミスは起き抜けの理性を総動員させて声量を抑えた。

 何はともあれ、眠っているのならば都合がいい。それよりも、状況の確認をしない事には何も始まらないだろう。

 そう判断したテミスは、自身の体と持ち物を手早く確認していった。


「拘束は……されていない。それに、持ち物もそのまま……。まさか、白翼絡みではないのか……?」


 気を失っている間、荷袋を枕にしていたのだろう。その後、馬車の端に転がっている自分の剣を目視して確認した後、テミスはフリーディアの寝顔を眺めて呟いた。

 何故、オヴィムとの戦いで敗れた自分が、フリーディア(この女)と一緒に居るのかはわからないが、互いに拘束されていない上、この能天気に眠りこけている感じといい、今はまだ(・・・・)敵では無いのだろう。


「っ……。……」


 一瞬。テミスはフリーディアを起こすべく、その肩へ手を伸ばしかけてすぐ、逡巡するかのようにその手を引っ込めた。

 果たして、せっかく眠っているフリーディアを起こしてまで、状況を確認する必要があるのか……?

 テミスの脳裏を過ったのは、戦略上当り前とも言える一抹の不安だった。

 事実として今。フリーディアはこうして眠りこけている。そして、馬車の中であるという現状と、周囲から聞こえる喧噪からして、ここがオヴィムの居たあの林の中で無い事は間違いない。

 ならば、まるで見張るかのようにこの馬車へ同乗していたフリーディアを、本来であれば敵であるところの私が起こしてやる必要があるのか? その上、応急処置こそしてあるものの、私の体は戦えるほどまで回復していない。


「チッ……だが……」


 テミスは自らの負った傷に目を落とすと、吐き捨てるように呟いた。

 業腹だがオヴィムの言う通り、普通の方法でこの傷を癒すには時間がかかり過ぎる。故に、能力を用いての治療魔法を使う必要があるのだが……。


「あんな地獄を再び味わう羽目になるとはな」


 食いしばった歯の間から、忌々し気な呟きが漏れて出る。

 その気になれば、この程度の傷を治すのは容易い事だ。一晩もあれば十分に全快するだろう。

 しかし、治癒魔法はとんでもなくくすぐったいのだ。この世界に存在するらしい治療魔法もそうなのかは知らないが、ともかく、私が自らに対して行う治療魔法はひどく神経をかき乱す。

 故に。隣で眠りこけているフリーディアを起こさない保証は無いし、仮に私が声を抑える事ができたとしても、自然に目を覚ましたコイツに見悶える姿を見られるのだけは御免だ。だが……だからといって、これだけの傷を抱えたままで、この場から脱出するのは骨が折れる。


「……チッ! おい。フリーディア!」


 逡巡の結果。テミスは眠っているフリーディアを肘でつついて叩き起こした。

 一瞬の躊躇いが無ければ、踏み砕かれた手で肩を叩いて跳び上がっていたのは私の方だったかもしれん。


「……んん? あぁ……起きたのね。テミス」


 数度つついてやると、もぞもぞと動いたフリーディアが頭を揺らしながら起き上がって口を開いた。


「起きたのね……ではない。一体これは、どういう状況だ? 何故お前がここに居る? そもそも、ここは何処だ?」


 その緊張感の欠片も無い反応にテミスは盛大にため息を吐くと、眠気で首を揺らすフリーディアへ矢継ぎ早に質問を浴びせていく。

 コトと次第によっては、即座にここから離脱しなければならないのだ。フリーディアの睡眠欲に付き合ってやる暇はない。


「んむ……んん……ちょっと待ってね?」

「……待てん。今すぐに話せ」


 そんなテミスの焦りを気にすら留めず、フリーディアは猫のようにくしくしと目元を擦って大きく伸びをする。

 寝起きが凄まじくダルいのは理解できるし、正直コーヒーの一つでも飲みながら状況を整理したい所だが、生憎そんな気の利いた物は無いし、そもそも私は今手が使えない。

 だからこそ、こうして精一杯苛立ちの視線を向けて、気ままなフリーディアを急かす事しかできないのだが……。


「んっ……と……。よし! お待たせ!」

「……? あぁ……済まない」

「ふふっ……いいえ?」


 最後にもう一度、大きく伸びをしたフリーディアはパチンと頬を叩くと、いつもの調子に戻ってテミスを振り返る。

 そして、飛び起きた反動でズレたのか、投げ出されていたテミスの左腕をフリーディアが丁寧に膝の上へと動かす。そして、驚いたような顔で礼を言ったテミスに柔らかく微笑みかけた。


「……。すぅっ……」

「……??」


 そして、その笑顔を維持したまま、フリーディアは傍らから見ていてもわかる程に、胸いっぱいに大きく息を吸い込んだ。

 その奇妙な行動に、テミスが首を傾げた瞬間。


「事情を説明して欲しいのはこっちの方よッッッッ!!!!!!」


 馬車の幌が物理的に揺れる程の大音量で、フリーディアの絶叫が響き渡ったのだった。

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