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セイギの味方の狂騒曲~正義信者少女の異世界転生ブラッドライフ~  作者: 棗雪
第8章

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279話 知略と本能

「オイオイ……ブチ切れてんじゃねぇか……ありゃ、簡単にゃ殺してくんねぇぞ……?」


 耳障りな咆哮を上げたダンシングスパイダーを遠くに眺めながら、ルードはぽつりと零して盛大にため息を吐いた。

 ひとくくりに魔獣とはいっても、連中には熟練度という物が存在する。人間の冒険者が経験を積んで強くなっていくように、魔獣もまた永く生きれば良きる程、知能を付けて感情を得る。中には、言葉を介するようになる魔獣も存在するらしい。

 そういった一部の成熟した魔獣はエルダー種と呼ばれ、通常の魔獣とは異なる扱いをされる。


「一番厄介だな……エルダーになりかけミドルって所か……」


 ルードはボソリと呟くと、目を細めてテミスの姿を凝視する。これは一分持つどころか、こっちも気ィ張らねぇと一瞬で嬢ちゃんが再起不能にされかねねぇ……。

 あくまでも、エルダーというのは一部の成熟した魔物の事を指し、エルダーと認定されるまで成熟する個体は少ない。故に、こういった成りかけ(・・・・)が一番危険なのだ。


「っ――うぉっ……危ぶねぇッ!! なんて戦い方しやがる……」


 いつでも割って入れる姿勢を整えて観戦をしていたルードが、目を見開いて驚愕の声を漏らした。

 その視線の先ではちょうど、右の触腕を剣で受け止めたテミスが、続いて繰り出された左の触腕を寸前まで引き付け、刹那に弾いた右の触腕を叩き付けて躱した所だった。


「クハハ……所詮は魔物。怒り狂って見せたところで、力押しが限界か」


 テミスは触腕を弾いた駄賃とばかりに、がら空きになったダンシングスパイダーの胴へと斬り込むと、深々と一太刀を叩き込んで即座に離脱する。

 瞬間。耳障りな奇声と共に、動きの硬直していた触腕が直前までテミスが居た場所に突き立てられた。


「っ……だが、妙だな……」


 魔物の懐から離脱して剣を構え直したテミスは、油断なく相手を見据えて言葉を零した。

 現状は圧倒的に優勢。力や速度は確かに凄まじいが、フリーディアのソレのように、緩急をはじめとするフェイントを織り交ぜた駆け引きが存在しない。故に、常に全力全開の圧倒的な力でねじ伏せようとする動きは読みやすく、あと数回先程のような攻撃を繰り返せば終わるだろう。

 しかし、テミスの胸に引っかかっているのは、ルードやギルドの受付嬢の忠告だった。

 彼等の言葉が正しいのならば、このダンシングスパイダーという魔獣は、獲物を拘束する行動を取る魔獣のはずだ。ならば、力とスピード任せに触腕を振り回すこいつの戦い方は異常であると言える。


「だが……まぁ、良いか」


 キシィエエエエエェェ!! と。まるでテミスを威嚇するかのように叫びを上げながら、ダンシングスパイダーが触腕を振り上げて攻撃態勢に入る。

 実に下らない。同じ事の繰り返しだ。

 テミスは言葉を零しながら応じるように剣を構えると、ダンシングスパイダーが突撃してくるのを待ち構える。

 奴の攻撃手段は二本の触腕。先行する初撃を受けるなり躱すなりしていなし、微かに遅れて叩き込まれる二撃目に余裕をもって対応する。そうすれば、あとは攻撃後の隙を突いて反撃するだけで、安全かつ一方的にダメージを与える事ができる。


「魔獣相手に高度な駆け引きを求めても無駄か……」


 正面から疾駆してくるダンシングスパイダーの触腕を受け流すべく、テミスは剣を寝かせて構えると愚痴を零す。

 つかの間の平穏で錆び付いた腕を取り戻す目的は、そう簡単に達成できるものでは無さそうだ。

 そんな事を考えながら、触腕の衝撃に備えた瞬間だった。


「――何ッ!?」


 触腕が空気を切り裂く風切り音とは異なる、もっと巨大な何かが高速移動した爆音が鳴り響き、テミスの眼前からダンシングスパイダーの姿が掻き消える。


「小癪なッ……!!」


 おおかた、速度を生かして背後に回り込んでの一撃だろう。

 研ぎ澄まされた直感でそう当たりを付けたテミスは、頭上から振り下ろされているであろう触腕を弾き飛ばすべく、構えていた剣を頭上へと掲げた。

 ――しかし。


「馬鹿野郎!! 糸だッッ!!」

「っ――!?」


 それでも尚、備えていた岩をも砕く程強烈な衝撃がテミスを襲う事は無く、代わりに遠方からルードの怒声がその鼓膜を揺らした。

 瞬時にその意図を理解し、テミスは横っ飛びにその身体を投げ出す。

 しかし、人間の限界を超えた神速で行われているこの戦いにおいて、2度の読み間違いは致命傷だった。


「くぅっ……!!!」


 宙へと投げ出したテミスの身体を、吐き出された何本もの白い糸が捉え、その粘着性を以てへばりつく。


「こんな物ッ……っ!?」


 対するテミスも、ただ無様に後れを取っていた訳では無い。

 糸を躱し損ねたと判断した瞬間。空中で体を捻り、体に付着した糸を切り裂くべく剣を振るう。

 だがしかし、無理な体制から繰り出された刃が、獲物を捕らえるために生成された強靭な糸を両断する事は無く、糸はテミスが繰り出した剣をも自らの粘性を以て絡め捕ってしまう。


「しまっ――!!?」


 愚策に愚策を重ねた。

 テミスがその事実に気が付いた時には時は既に遅く、数メートル離れた位置で糸を放ってきていたダンシングスパイダーの姿が再び掻き消える。


「ぐぅぅぅぅっっっ!!!」


 直後。ダンシングスパイダーがテミスの周りを超高速で回り始める。すると、みるみるうちにテミスの身体にまとわりついた糸は、繭のようにその身を縛り付けたのだった。

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