幕間 同胞として
幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。
主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。
「……カルヴァス。勿論、説明してくれるのよね?」
アストライア聖国でライゼルと別れた後、白翼騎士団一行は近くの林に留まって野営を敷いていた。
その中心で、騎士達に周囲を囲まれたカルヴァスが、不機嫌を隠さず態度に出したフリーディアと向き合っていた。
「勿論です。フリーディア様。ですが、これは一種の賭け……フリーディア様が知っていたのならばこうしたであろうと予測し、独断で動いた事を先に謝罪させていただきます」
「……構わないわ。続けなさい」
「ハッ……」
厳しい表情は崩さないものの、フリーディアはカルヴァスの謝罪に小さく頷いた。その言葉にカルヴァスは大きく一礼をすると、フリーディアに……そして、周囲の騎士達に向けて語り始める。
「まず……サージルの側に歩み寄ったライゼルが最初に我々に向けた札……カードの絵柄を思い出して欲しい」
「絵柄……確か、手に持った棒を掲げた男が、赤いストールを羽織っている絵だったかしら……? 逆さまだったから、よく見えなかったけれど……」
「はい。その通りです。フリーディア様」
意識を集中するかのように目を閉じたフリーディアがそう答えると、カルヴァスはコクリと頷いて言葉を続ける。
「ライゼルが武器として操るあのカードは、彼の故郷では占術の道具としても扱われていて、その札にはそれぞれ異なった意味があるそうなのです」
「カードの……意味……?」
「はい。そして、あの時ライゼルが掲げていたカードの名は魔術師。このカードが持つ意味は希望や創造……出会いなど、物事の始まりを告げるカードだと、彼は言いました」
「っ……それって……」
ざわ、ざわ……と。カルヴァスが言い放った言葉に、周囲の騎士達の間にも戸惑いが広がっていく。
それもそのはずだ。今、カルヴァスが告げた意味は全てライゼルの裏切りを裏付けるものであり、その内容は事情の釈明になってはいなかった。
「――ですが」
しかし、そのざわめきを切り裂くように、強いカルヴァスの声が響き渡る。
「そのカードが逆位置……つまり、逆さまで現れた場合。その意味は変わってくる。優柔不断や適当さ、そして……嘘。同じカードであっても、示す意味が異なってくるのです」
「っ……そう言えばライゼルの奴……カードを出す前にはフリーディア様って言ってたのに、カードを俺達に付きつけてからは……」
周囲を囲む騎士達の中から呟きが漏れると、動揺のざわめきは、希望の同調へと塗り替わっていく。
そして、その流れを後押しするかのようにカルヴァスは口を開くと、真剣な顔でカルヴァスを見つめるフリーディアに言葉を続けた。
「そして二枚目……ライゼルが私に見せたカードを見て私は、騎士としてライゼルを信じると……フリーディア様であれば、ライゼルを信じるだろうと確信したのです」
「……そのカードの、意味は……?」
「あっ……!」
静かに問いかけたフリーディアの声に重なるように、周囲を囲う騎士達の中からひと際大きな声が響き渡った。
カルヴァスはその声の方向をチラリと見ると、ニヤリと笑みを浮かべて言葉を付け加える。
「ようやく気付いたか、ミュルク。そうだ。お前がテミスのようだと揶揄した悪魔のカード。その意味は――」
「――破壊。策謀……そして、友人の裏切り……!」
カルヴァスの言葉を引き継ぐように、迷うように紡がれていたミュルクの声が徐々に力強さを帯び始める。
「そうだ。それにライゼルはこうも言っていた。奴の目的を考えれば全て嘘だという事が解る……と。敵を騙すにはまずは味方から……サージルの隣で、確かにライゼルはそう言ったんだっ!!」
カルヴァスが力強く声を上げると、どんよりとした嫌な雰囲気を纏っていた騎士達の表情が、まるで水を得た魚のように明るいものへと変わっていく。
しかし、その様子を眺めるフリーディアの顔は緩んでおらず、その繭は深く悩んでいるかのように寄せられていた。
「……以上の点より私は、フリーディア様がこの情報を知っていたのならばこうすると……何より、私自身がライゼルを信じたいと思い、サージルの元へ行かせました」
「そう……わかったわ」
力強くそう締めくくったカルヴァスの言葉にも、フリーディアは笑顔を見せる事は無く、その視線を明後日の方向へ彷徨わせて背を向ける。そして、感情を押し殺したかのように僅かに震える声で、言葉を付け加える。
「我々はここでライゼルからの報を待ちます。…………カルヴァス。私があなたなら……いえ、今はありがとうとだけ……言っておくわ」
「……ハッ!」
その背中に騎士達は顔を見合わせて満面の笑みを浮かべると、誰もが示し合わせたかのように拳を合わせたのだった。




