幕間 密偵、闇に踊る
幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。
主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。
夜の闇に紛れ、一人白翼騎士団を離れたライゼルは、アストライア聖国の路地を疾駆していた。
「……監視の目が無いのはありがたいですが、こうも簡単にいくと不気味ではありますね」
ライゼルは目の前にそびえ立つ巨大な建物を見上げると、ぽつりとつぶやいて立ち止まった。
現状、この国の主……サージルは、寝返らせたライゼルに監視も付けず、自由にさせていた。何度も周囲を確認して尾行を警戒したため、監視が付いていないのは間違いないだろう……。とライゼルは確信し、懐から一枚のカードを取り出した。
「逆さに釣られた男の目は真実を見抜く」
そして、建物を見上げながら呪文を唱えて目を瞑る。
瞬間。手に取った吊るし人のカードが淡く光を放ち、ライゼルの脳裏に自らの周囲の風景が映し出される。
この吊るし人のカードは、ライゼルが持つ中でも特に索敵に特化したカードだった。周囲の地形情報や効果範囲内に居る生物の情報など、膨大で詳細な情報が壁などを透過して、イメージとして投影されるのだ。
「やはりここですね……魔族が三名。これは奴隷だとして問題は……」
投影されたイメージの中で、ライゼルは視野を動かして上階へと目を向ける。
そこには、寿司詰め状態で床に寝転がる人影が映し出されており、それが魔族ではなく、人間であると示されていた。
「何かの生産工場……? いや、今はそんな事は関係ないか……」
ブツブツと独り言を呟きながら、ライゼルは手元の紙にサラサラと何かを書き込むと、小さく折りたたんで懐へとしまう。
同時に、目を細めて建物から視線を逸らすと、背を向けて路地の闇の中へと歩みを進めていく。
「これで三つ目……あの人の事だ、どうせ全員を解放するつもりなんだろう……これ以上数があるのなら、かなりの時間がかかるな……」
ライゼルは苦虫を噛み潰したように渋い顔で吐き捨てると、次の拠点を探すべく宵闇の町へと姿を消したのだった。




