幕間 友として
幕間では、物語の都合上やむなくカットしたシーンや、筆者が書いてみたかった場面などを徒然なるままに書いていきます。なので、凄く短かったりします。
主に本編の裏側で起っていた事や、テミスの居ない所でのお話が中心になるかと思います。
「手出し無用。ね……」
自らが治めるラズールの町の外縁で、兵士達の先頭に立ったルギウスは不満気に言葉を漏らした。その前には、十三軍団の徽章を身に着けた魔族の男が一人、身を震わせて直立していた。
「ベリス……と言ったかな?」
「っ……! はいっ!」
ゆっくりとルギウスが口を開くと、ベリスは弾かれたように体を跳ねさせ、その身から溢れんばかりの緊張を醸しながら答えを返す。
「手出し無用……テミスは、その理由を何か言っていたかい?」
「い……いえっ……! ただ、それだけ……必ず伝令するように……と、命じられました!」
「フム……」
「……ルギウス様。どうなさいますか?」
ルギウスの傍らに控えたシャーロットが、控えめな声で囁くように問いかける。
その顔は、彼女の後ろに整列した兵達と同じく、困惑した表情を浮かべていた。
何故なら。十三軍団の出撃を察知したルギウスは、テミスの援護をする為に出撃の号を発し、まさに今出兵しようとしていた所なのである。
そこに、テミスの部下を名乗るこの男が現れ、手出し無用などと言われれば、部下たちが困惑するのも無理は無いだろう。
シャーロットの問いに沈黙しながら、ルギウスは腕を組んで深く考え込んだ。
あのテミスの事だ、綿密な作戦を立てており、我々が出撃する事でそれが崩れる事を危惧しているのか……?
「っ……いや……」
ピクリ。と。形の良いルギウスの眉が動き、その視線がオドオドと怯えるベリスを捉える。
ならば何故、彼女は伝令にこんな新兵を寄越したんだ?
その閃きをきっかけに、ルギウスの中に一つの仮説が産まれ、その仮説は芋づる式に一気に展開していく。
そうだ。僕に伝令を寄越すという事は、テミスは彼女の援護をすべく出撃しようとする僕の動きを予測していたという事だ。ならば、今までのテミスならば、例え綿密に練られた計略があったとしても、柔軟に僕達を組み込んで利用するはず……。
その為に彼女は今まで、副官であるサキュドやマグヌスを己の側から離して行動させていた。
「……そうか。よくわかった」
「っ……!? ルギウス……様……?」
ルギウスはミシミシと軋む音が頭蓋に響くのも構わず、口惜しさと情けなさに歯を食い縛りながら言葉を漏らす。
彼女らしからぬこの伝令は、言わば彼女の心の表れなのだ。
形式を好まぬとは言いながらも義を重んじるテミスならば、例え伝令とはいえ彼の様な新兵に任せるとは思えない。つまり、戦況はそれほどまでに……腕の立つ副官を別行動させる余裕が無い程に逼迫しているという事だ。
だというのに、テミスは手出し無用だと告げたのだ。
一兵卒でも惜しい癖に。喉から手が出るほどに助けが欲しい癖に。友だと呼んだこの僕に、助けを求める声さえ上げず……!!
「……全軍に伝令。全力出撃の準備をしたまま、十三軍団の戦況を監視しろ」
「――っ! 援護に向かわれないおつもりですか!?」
「状況次第だよ。シャル。ついでに、全ての戦況を細かく監視するように注意しておいてくれ。特に、テミスや将校たちの戦いは決して見逃すな……と」
「りょ……了解しましたッ!」
ルギウスが静かに命令を発すると、シャーロットが即座にそれを部隊に通達し、命令を受けた第五軍団が監視体制に入るべく動き始める。
「どうやらわからず屋の頑固者には、甘え方から教えてあげないといけないらしい……」
ルギウスは遠くで進軍する影を見据えながら、ボソリと呟いたのだった。




